世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)“かわる”-タイの日本語教育-
バンコク日本文化センター
関山聡之
“かわる”教育
「学校の授業でダンス?」
数年前、日本で学習指導要領が改訂され、学校の授業に「ダンス」が導入されたのを覚えていますか。詰め込み教育を受身で受けてきた団塊ジュニアにとっては、衝撃的なニュースでした。自分も歳をとったといいますか、時代に合わせて教育というものも刻々と動いているのだと感じました。
このような変化は、決して日本だけではなく全世界的に起こっているようです。私が今住んでいるタイでも、時代の波は容赦なく押し寄せています。学習指導要領にあたる「基礎教育コアカリキュラム」が改訂され、社会のグローバル化への対応がより意識づけられました。課題解決のために交渉する能力、膨大な量の情報や知識を整理・分析した上で何をどのように発信・表現するのかを判断する力、相手に配慮したコミュニケーション方法の選択などが学習者に求められるようになりました。もちろん、日本語教育においても、この方針に合わせていくことになり、変革の時代に突入しました。
“かわる”教科書
「日本語の教科書といえば…?」
おそらく多くの方が『みんなの日本語』と答えるのではないでしょうか。
タイでもみなさんがご存知の教科書は使われています。加えて、日本語学習者人口の中で最も多い高校生を対象にした教科書が存在します。その名も『あきこと友だち』。2004年に国際交流基金バンコク日本文化センターから出版されて以降、多くの人に親しまれて十数年…。この間に国の方針も変わりました。
そこで、当センターは、時代に合った教科書へモデルチェンジする好機ととらえ、改訂に踏み切りました。改訂では、さきの「基礎教育コアカリキュラム」で求められている“自分の意見や感想を表現する場”、“他者との関係性に配慮した機会“を意識。途中、幾多の困難にも直面しましたが、2017年3月『あきこと友だち 改訂版』の出版に辿り着きました。
“かわる”教えかた
教科書が変われば、教えかたも変わります。
日本語教師の方は、養成講座などで学んだ教えかたを思い出してください。語彙・文型の導入にはじまり、それを定着させるためのドリル、教科書の練習で確認という流れだったと思います。そこでは、学生が自ら分析、選択、判断するといった能動的な行為はどれほど確保できるでしょうか。どちらかと言えば、学生は受身の姿勢になるのではないでしょうか。旧『あきこと友だち』も、そのような教科書でした。当時は、そういうものだったのですから。
しかし、時代は変わりました。『あきこと友だち 改訂版』では、教師が“イチ”から導入することはしません。場面をイメージした絵を見せながら、会話をくりかえし聴かせます。わからない言葉があっても、どんな表現を使うかということについて学習者に気付かせるのです。学習者は、わかることを聴き取り、文脈の中から語彙や文型を推測します。受身ではいられなくなるのです。
“かわる”教師
もっとも、このような教えかたは、今までの教えかたに慣れた現場の教師にとっては簡単ではありません。そのため、当センターは各地で「広報セミナー」を開催し、新しい教科書の使い方や良さを伝えています。多くの先生方が参加し、教えかたについて熱心に議論したり、自分たちで考えた使い方を発表したりしています。変化の先にある安定を信じ、タイの高校の先生と当センターの二人三脚が前に進み始めました。
“かわる”教科書『あきこと友だち 改訂版』
“かわる”教師が集結!広報セミナー
派遣先機関名称 | バンコク日本文化センター |
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The Japan Foundation, Bangkok | |
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
タイ国全土の日本語教師・学習者支援のためのさまざまな事業を行っている。教師支援では、中等教育の教師養成・現職教師対象の各種研修、大学教師向けのセミナー開催、学習者支援では、日本語キャンプの開催やJFスタンダード講座をはじめとする一般講座を開講している。 |
所在地 | 10th Fl. Serm-Mit Tower, 10F, 159 Sukhumvit 21Rd., Bangkok 10110 Thailand Tel: 66(2)260-8560~64 Fax: 66(2)260-8565 |
国際交流基金からの派遣者数 | 上級専門家:1名、専門家:2名、指導助手:1名 |
国際交流基金からの派遣開始年 | 1994年 |