世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)タイ初等中等教育の日本語教員養成

コンケン大学
本多倫子

コンケン大学教育学部日本語教育課程(以下、TJL)の特色

コンケン大学は17学部4万人の学生を擁するタイ東北地方きってのマンモス大学です。コンケン市内にあるキャンパスは90km2(参考:東京ドームおよそ192個分だそうです)と大変広く、大学の中には移動のためのバスが縦横に走っています。学生は、東北地方を中心にタイ全土から集まり、近辺の寮やアパートに住んでおり、大学周辺は大きな学生街を形成しています。

タイでは、中等教育(日本の中学校と高校に当たる6年間)の外国語科目として日本語が入ったことで、日本語学習者数が大きく伸びました。最初の頃は、数学や英語など他の教科の教員がトレーニングを受けて日本語を教えるケースが多かったのですが、近年は大学で日本語主専攻だった人が教員となっています。TJLは、現在、タイで唯一、教育学部で日本語教員を養成するプログラムです。TJLでは、現在147名の学生が将来の日本語教員を目指して勉強しています。数ある科目の中で日本語を選んだ理由は、中等教育で勉強していたから、サブカルチャーが好き、などさまざまですが、教員を志望したのは、現職教員である親に勧められたからという学生が多いのがタイらしいところかもしれません。TJLは日本語主専攻といっても、教育学部ですので、教室で日本語を勉強しながら、小学校や中等学校へ出向いての活動が頻繁にあります。今回は、日本語教員を目指す学生たちの学外での活動についてご紹介したいと思います。

教育実習

学生は、4年間の大学での単位履修が終わると、小学校または中等教育機関で1年間の教育実習に入ります。大学入学から4年間、教育実習に向けて準備を続けてきたとも言え、日本語の授業の仕方や教案の書き方などはもちろん、教育関連の様々な授業を受け、実践的な訓練を積み重ねて満を持しての教育実習なのです。

教育実習生手作りの図書コーナーの画像
教育実習生手作りの図書コーナー

教育実習生は、実習校の指導教員のもと授業を行ったりイベントの手伝いをしたり、さまざまな学校の業務を体験していきます。また、毎月定期的に大学に戻って報告と指導を受ける日があり、さらにTJL教員が実習校に出向いて行う授業評価が期間中に4回あります。そして実習校での経験をまとめて、卒業論文を作成します。これらを全てやり遂げなければ卒業することができません。実習生にとっては、体力的にも厳しい1年ですが、実習が終わる頃には、学生でありながら社会人として苦労もし、受け持ちの生徒との交流も深まり、教室でも堂々と授業をこなせるようになります。教育実習の1年間は、学生にとっても、TJL教員にとっても最も大変な一年だと言えます。

日本語キャンプ

イベントで司会をする大学生の画像
イベントで司会をする大学生

TJLの学生が授業外で定期的に行なっているものに、日本語キャンプがあります。これは、初等中等教育機関で、常勤の日本語教員がいない学校や日本語の授業を行っていない学校に行って、日本・日本語紹介のイベントを行なうものです。どの外国語教科を取り入れるかは、学校長に委ねられているので、イベントがきっかけで日本語学習が始まることもあり、学生も一生懸命です。クイズをしたり、踊りを見せたり、浴衣の着付け体験をしてみたり、上手に場を盛り上げながら進めていきます。こうしたイベントは、日本語のプロモーション活動だけではなく、人前に立つことに慣れることにもなり、教員になるという目標につながっていることがわかります。

日本語学習を広めるために

多くの日本企業が進出し、日本人観光客も多く訪れるタイ。東北部の中心都市コンケンの街中を走る車は圧倒的に日本車が多いですし、日本ブランドの家電や食品が普通にお店に並んでいて、生活の中に日本が受け入れられていることを実感します。タイの子供達が身近な生活の中に溢れる日本という国にもう一歩踏み込んで、学校で日本語学習を経験したら、もっと深く日本を知るきっかけになっていくでしょう。国の教育方針も外国語教育の方法も時代とともに変わって来ています。TJLから新しい時代の日本語教員が育っていくよう、日々の地道な積み重ねを続けていきたいと思います。

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