世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)現場で見て、聞いて、感じたこと。

国際交流基金 バンコク日本文化センター(タイ東北部中等教育機関)
遠藤かおり・蜂須賀真希子

タイ東北部中等教育機関担当の日本語専門家(以下、専門家)が2018年4月末に遠藤から蜂須賀へ交代となりました。引き続き、ナコンラーチャーシーマー県にある配属先のスラナリー・ウィッタヤー校(以下、スラナリー校)を拠点に東北部の中等教育支援を行います。遠藤より3年間の日々の業務の中で感じたことについて、蜂須賀よりスラナリー校の学生についてお伝えしたいと思います。

1.スラナリー校での日々

スラナリー校の先生方や生徒たちの写真
いつも元気いっぱい!(遠藤提供写真)

スラナリー校で過ごした3年間は、私の元気の源でした。スラナリー校の先生方や生徒たちが熱心に日本語教育に取り組んでいる姿は何よりもエネルギーになり、出張で不在が多い私を「おかえりなさい」といつも温かく迎えてくれました。

タイの学校で過ごすことによって、タイ中等教育(注:中学1年生から高校3年生までの中高一貫の6年制)における日本語科目の位置づけを知ることができただけではなく、中等教育段階における教育システム、先生方の仕事内容や働き方、生徒たちの学習スタイルや学校生活の過ごし方を目の当たりにすることができました。スラナリー校での日本語の授業を通してタイ人の先生方の教授スタイルや高校生の学びの過程を観察したり、キー・コンピテンシーや21世紀型スキルの育成、またActive Learningと言った教育省の新たな政策がどう授業に反映されているのか、今後どう取り入れていくことができそうかを探ったりすることができました。これらは、私の業務である中等教育支援の軸となるものです。現場を知らずして現場支援は成り立たないと考えます。スラナリー校での日々があったからこそ、現場の視点を持ち、それぞれの環境に合わせた中等教育支援を行うことができたのだと思います。

2.タイ東北部での日々

タイ東北部で過ごした3年間は、たくさんの人たちとの出会いでした。20県を有する広大な東北部では、県中心部にある大きな学校(全校生徒4000人規模)から村にある小さな学校(全校生徒500人規模)まで多くの学校で日本語科目が開講されています。専攻科目として高校生が3年間履修するケース、選択科目として中学生と高校生が履修するケースが一般的ですが、選択科目と言っても3年間履修するケースから半学期(注:タイ中等教育は前期・後期の2学期制)だけ履修するケースまで学校のカリキュラムによって異なります。また、教えている先生方のバックグラウンドもタイ人の先生、日本人の先生共に様々です。教育省が打ち出している政策が授業に反映されているか否かも先生次第、と言った側面があります。学校訪問を通して専門家としての知見を基に先生方と授業改善を一緒に考えていくこと、情報共有や情報交換をしていくことと同時に、学校と国際交流基金との関係を築いたり、地域の他の学校とのネットワーク形成を促したりするのも専門家の役割の一つです。

バンコクを中心とした都市部と違い、東北部では教室外で日本語や日本人と触れる機会が少ないのが現状です。実際、私が学校訪問をした際に「初めて日本人を見た」と言われることがあります。地方の小さな学校であってもそこで行われている日本語教育をすくい取り、専門家の訪問が先生方や生徒たちの刺激となって日本語学習が促進されることがタイにおける日本語教育の裾野拡大につながるものと期待をしながら学校訪問をしていました。

何度も同じ学校を訪問することはできませんでしたが、3年間で東北部20県すべての学校を訪問することができました。多様な日本語教育の現場に触れることができたのは地方専門家ならではの経験で、楽しさでもありました。

今後も東北部のみならずタイ全体の日本語教育が発展していくことを願っています。(遠藤)

タイの新学期は5月です。ぴかぴかの黒かばんの新一年生と共に私の業務も始まりました。私の役割はタイ人の先生と協力しながら授業を進めること。指示が届いていないグループをフォローしたり、生徒たちの質問に答えたりします。

自己紹介で「どうぞよろしくお願いします」が「ダイソーよろしく・・・」になってしまい、ケラケラと笑い転げる生徒たち。一転、グループワークでは、車座の中心に頭を寄せ合い全員が一生懸命に取り組みます。時に明るく、時にまじめなスラナリーの生徒たち。

カウンターパートの先生方との写真
よろしくお願いします! カウンターパートの先生方と(蜂須賀提供写真)

こんな彼らの青春の良き思い出になるよう、暖かく迎えてくれたカウンターパートの先生方と共に、しっかり取り組んでいきたいと思いました。また、今後の学校訪問が「生の日本人」と交流する機会のあまりない先生や生徒のモチベーションを高め、「日本人と交流できた!」という自信につながれば嬉しいです。そして、またそれが私のモチベーションとなり、タイ東北部日本語専門家の皆さんが培ってきた日本語教育の土壌とネットワークを維持し、さらなる発展に繋がるよう中等教育支援に従事していきたいと思います。(蜂須賀)

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