世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ヴィエトナム南部の中心地・ホーチミン市の日本語教育

ヴィエトナム日本人材協力センター(ホーチミン)
平田 好

ヴィエトナム日本人材協力センター・ホーチミン市校建物の写真
ヴィエトナム日本人材協力センター・
ホーチミン市校建物

 ヴィエトナムでは、北部、南部それぞれの大都市(ハノイとホーチミン市)の高等教育機関・民間日本語学校を中心として、日本語教育が行われている。国際交流基金実施の1998年度調査において、ヴィエトナム全土の日本語学習者は約1万人と推計された。内70%(約7000人)が、ホーチミン市における日本語学習者である。その後も、学習者数は増加の一途を辿り、2002年現在、ホーチミン市だけでも約1万人が日本語を学習している。高い日本語学習熱の背景には、日本・ヴィエトナム間の経済関係が活発になっている事実がある。2001年、日本からヴィエトナムへの投資額は前年比2倍を越えた。また、ヴィエトナムにとって日本は最大の輸出国(2001年、シェア約17%)である。ホーチミン市及び近郊には、日系企業が多く進出しており、高い日本語運用力をもつヴィエトナム人に期待する企業も多い。また、日本人観光客を対象とした衣料品店、雑貨店も数多くあり、日本語で客と接している商店店員、ホテル従業員も見かける。

 しかしながら、日本語教育の歴史は浅い。1975年以前の旧政権下において、サイゴン大学(現・ホーチミン市国家大学の前身)において日本語講座が開かれていたものの、政変によって中断した。現政権になってから、日本語教育が本格化したのは、1990年代に入ってからのことである。現在、ホーチミン市内において、第一外国語としての日本語講座を開講している高等教育機関は6校あるが、2002年現在までに卒業生を輩出している大学は4校のみである。一方、ホーチミン市内では民間日本語学校10校余りが運営されており、初級クラスを中心に、多数の学習希望者を吸収している。

 このような環境のなかで、2002年5月に、ヴィエトナム日本人材協力センター・ホーチミン市校(Vietnam-Japan Human Resources Cooperation Center-Ho Chi Minh City、以下VJCCHCMC)が開設された。このセンターは、国際協力事業団(JICA)による市場経済移行国に対する人材育成支援策の一環であり、ビジネスコース、日本語コース、相互交流事業を柱としている。ヴィエトナムでは、相手国実施機関が貿易大学であり、ハノイ、ホーチミン市それぞれにセンターが建設され、日本人専門家チーム(リーダー、コーディネーター、ビジネスコース専門家、日本語教育専門家)が各校に派遣されている。筆者は、ホーチミン市校の日本語コース担当として、2001年11月に赴任した。

日本語コース授業風景の写真
日本語コース授業風景

 赴任直後より、ホーチミン市及び近郊にある日本語教育機関の実態調査を行い、VJCCHCMCにおける日本語コース事業を立案した。この調査を通して、当地の日本語教育における課題は、(a)中級以上の日本語運用力育成、②高等教育機関における日本語教育基盤の整備、③豊富な日本語教材、参考書が閲覧できるリソースセンターの開設、④教師間ネットワークの形成、である、と考えた。この課題に向かって、VJCCHCMC日本語コースの内容を検討し、本年5月のセンター開所直後より、一般学習者向けの中級クラスを2クラス開講している。課題解決型学習を通じて、高度な日本語運用力を養成することを目的としたクラスである。使用教材は特定しないで、当地の学習者に合致した話題シラバスを作成し、筆者ならびにヴィエトナム人非常勤講師が各種教材、リソースを活用して教材を作成している。なお、講師2名は、当地にある国立大学の講師でもある。VJCCHCMCにおける授業実践が他の日本語教育機関に還元されることも期待している。また、当センターの開設に先立ち、本年3月ならびに4月には、日本から講師を迎えての日本語教師セミナーを開催した。ホーチミン市内の主要日本語教育機関すラてから参加があり、150名を越える日本語教師が教授法等について熱心に受講した。研修機会を提供すると同時に、教師間ネットワークの形成に寄与できた。なお、今後は、センター内図書室の教材、参考書の公開方法を検討し、ホーチミン市全体の日本語教育のためのリソースセンターとしての役割も果たしていけるようにしたい。また、年1回恒例となっているホーチミン市日本語スピーチコンテストについても、当センターが事務局を引き継ぎ、さらに充実したイベントにしていく予定である。

 なお、当地ホーチミン市には、1975年の政変以来、国際交流基金・日本語教育専門家が派遣されていなかった。また、首都ハノイと異なり、2002年6月現在まで青年海外協力隊日本語隊員も派遣されていない。つまり、筆者は、四半世紀ぶりに着任した公的機関派遣の日本語教育専門家となる。現在に至るまで、ベトナム人教師、民間ボランティア日本人教師が培ってきた日本語教育をさらに向上させるために、今後もホーチミン市全体の日本語教育を見据えて、関係各方面と連携をとりつつ、さまざまな活動をしていく所存である。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 国際協力事業団が市場経済化支援のために作った「ヴィエトナム日本人材協力センター」(通称日本センター)の日本語教育分野の協力を国際交流基金が行うため、2001年より専門家を派遣している。専門家は日本語コースでの日本語教授、セミナーの開催、カリキュラム・教材作成に対する助言、コンサルティング、現地教師の育成を行う。
ロ.派遣先機関名称 ヴィエトナム日本人材協力センター・ホーチミン市校
Vietnam-Japan Human Resources Cooperation Center-Ho Chi Minh City
ハ.所在地 15 Road D5, Ward 25, Van Thanh Bac, Binh Thanh Dist. HCMC,Vietnam
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ヴィエトナム日本人材協力センター・ホーチミン市校 日本語コース
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2002年5月1日
(2)専門家・青年教師派遣開始年 2001年11月1日
(ロ)コース種別
中級I 2クラス
(ハ)現地教授スタッフ
非常勤2名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   社会人が80%以上
(2) 学習の主な動機 仕事で日本語を活用するため
(3) 卒業後の主な進路
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
(5) 日本への留学人数

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