世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ベトナム中等日本語教育

チューバナン中学校(ハノイ)
大舩ちさと

カードを使ったタスクの写真
カードを使ったタスク

 朝、7時45分。ドンドンドンドンドン。太鼓の音で始業を知らされると、生徒がサッカーやゴムとびをやめて、ドタバタと教室に駆け込んできます。
「先生、おはようございます」
覚えたばかりの日本語。競い合って手を挙げ発表する子どもたち。思わず顔がほころびます。
わたしの赴任先は、ハノイ市にある中高一貫の学校の中学部。日本語試行教育を行うモデル校です。ベトナムでは、中等教育段階の外国語科目として英語、ロシア語、中国語、フランス語の4つが認定されています。現在ベトナムでは、この外国語の中に日本語を導入することが検討されており、2003年12月から試行教育が始められました。日本語を導入するためには、現地教師の育成、教材の開発が必要です。こういった立ち上げ業務に携わるために、2004年4月、ハノイに赴任しました。
赴任して約2か月。ここでは、現時点での現地の様子をご紹介したいと思います。

1.プロジェクトの概要

在ベトナム日本大使とベトナム教育訓練省大臣との間で、中等教育段階での日本語教育開始について意見が交わされ、日本語の導入を検討する作業部会が設けられました。日越で日本語導入の可否を探ろうというわけです。中等教育に新たな科目を導入するという大きなことなので、慎重に事が進められています。まずは、モデル校を置き、そこでの試行教育の評価を行い、正式導入するか否かをベトナム側が判断することになっています。正式導入が決まれば、中学校から第一外国語として日本語を選択する生徒が生まれることになります。

2.教材開発

現在、試行教育が行われていますが、試行教育であっても政府の認定を受けた学習指導要領、教科書を使うことが、ベトナムでは義務付けられています。試行教育は週45分×2コマで行われているため、2004年5月までは、週2コマ用に作成された教科書を用いていました。しかし、正式導入が決まると、授業は週3コマとなります。そこで、正式導入が決まった場合にも対応できる教科書の制作を、現地の制作グループと共に急ピッチで進めています。2005年夏には、中学4年生 までの教科書(*)、及び教師用指導書を完成させ、検定を受けることになっているので、悠長なことは言っていられません。

3.現地の教師育成

試行教育実施に際して、ベトナム人の教員が新たに採用されました。ベトナムは、中学校において日本語教育を行うのが初めてですから、もちろん中学生に教えた経験のある人はいません。そこで、ティームティーチングで教えながら、教師を育成していくことが求められています。教案を共に検討し、お互いの意見をぶつけあいながら授業を練りますが、成功したり、失敗したり。こういった経験を積み重ねていくことが、現時点では一番重要なことだと思っています。

4.生徒や保護者、学校の反応

1年生の写真
1年生

モデル校での試行教育は、課外授業という位置づけで行われています。中学1年生の1クラスが試行クラスに選ばれ、その他のクラスからも希望者を募りました。合計71名を2クラスに分け、授業をしています。
今の生徒たちは、日本のアニメをテレビや漫画で見ている世代。教室に張ってあるポケモンやドラえもんのカレンダーのカタカナが読めるようになり、とてもうれしそうです。日本語は英語に比べて学習機会が少ないため、学校で日本語学習の機会が得られることは、保護者からも概ね好評のようで、高校まで日本語クラスを継続してほしいという意見が出ています。ハノイ市内の他の中学校や小学校からも、ハノイ市の教育訓練局に問い合わせが入っていると聞いています。

5.これから

 ベトナム中等教育機関における日本語教育は、まだ歩みだしたばかりです。この先、どんな道を歩むことになるのか分かりません。新しい科目を立ち上げるということで、手探りの部分も多く、課題も多々残されています。多くの機関から多くの人がこのプロジェクトに関わっていますが、その中で現場で教えている人間は自分一人です。非常にやりがいを感じていますが、同時に責任の重さも感じています。目の前には「日本語を学びたい」と思って、週1回しかない授業を楽しみにしてくれている生徒たちがいます。この子たちのために自分は何ができるのか、どんな道を開いてあげられるのか。これから、ベトナムの人たちと共に考えていきたいと思っています。

*ベトナムは小学校5年、中学4年、高校3年という学制を取っている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ベトナムは中等教育段階における外国語科目として日本語の導入を検討しているが、派遣先機関はその導入に先立つ試行教育を実施するモデル校である。青年日本語教師は、ベトナム人教員とティームティーチングで授業を担当するほか、教科書及び教師用指導書の作成、教師育成に携わる。
ロ.派遣先機関名称 チューバナン中学校
SCHOOL CHU VAN AN
ハ.所在地 10 Thuy Khue Road, Hanoi, Vietnam
ニ.国際交流基金派遣者数 青年:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2003年12月
(2)専門家・青年教師派遣開始年 2004年
(ロ)コース種別
課外授業(2004年5月現在)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名(うち邦人1名) 非常勤1名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生:71名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ、日本への興味関心
(3) 卒業後の主な進路 高校進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験4級を受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 なし

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