世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) この1年をふり返って ~拡大するベトナム中等日本語教育~

チューヴァンアン中学校
大舩ちさと

 2003年12月から始まった、ベトナムの中学校における日本語教育。ベトナム教育訓練省(以下、「MOET」と略す)から、最初のモデル校として指定されたチューヴァンアン中学校に赴任して1年と2ヶ月が経ちました。今日はこの1年の業務をふり返りながら、ベトナム中等学校における日本語教育をご紹介したいと思います。

1.日本語教育実施校の拡大

 2003年に1校から始まった日本語教育。それが、2004年9月、ホーチミン市にもモデル校が1校設置され、モデル校は2校に増えました。また、MOET指定のモデル校ではありませんが、ハノイ市では私立中学2校でも日本語教育が開始されました。つまり、半年ほどで1校から4校へと日本語を教える学校が増加したわけです。
 わたしは、ジュニア専門家として、勤務校での授業以外にこれらの学校の日本語教育もサポートしてきました。モデル校であるホーチミン市の中学校へは何度か赴き、実際に授業の進め方やティームティーチング(以下、「TT」と略す)の効果的な方法について共に検討し、アイディアを交換してきました。ハノイ、ホーチミンと離れているため、普段は教案や授業報告をメールで交換し合い、情報の共有に努めています。ハノイ市内の私立中学校も、MOETやハノイ市教育訓練局の担当者と共に授業見学に入ったりして、支援をしてきました。

2.教科書の開発

 ベトナムの学校で授業を行うには、日本語に限らず検定に合格した教科書が必要です。ベトナムの大学の先生方と協力して制作した中学生用日本語教科書、『にほんご6』(中学1年生用教科書)、『にほんご7』(同2年生用)、およびその『教師用指導書』は、MOETの教科書検定に合格しました。現在、授業ではこの検定教科書を使っています。昨年は時間的余裕のない中で制作作業が進められたため、簡易印刷版の教科書が生徒に提供されましたが、今年9月の新入生からは、ベトナムの教育出版社から正式に出版された教科書を使うことになります。5月現在、出版社と最終の校閲作業を行っています。また、今年9月からは3年生が誕生します。現在、中学3年生用、4年生用*の教科書の制作も急ピッチで進めています。

3.チューヴァンアン中学校の日本語教育

ベトナムの昔話「占い師とぞう」を日本語で演じる2年生~「日本語祭り」にて~の写真
ベトナムの昔話「占い師とぞう」を日本語で演じる2年生~「日本語祭り」にて~
VJCC折り紙教室に参加した1年生の写真
VJCC折り紙教室に参加した1年生

 少し大人になってきた2年生。まだまだやんちゃ盛りの1年生。チューヴァンアン中学校では現在、約110名の生徒が日本語を学んでいます。休み時間はサッカーやらゴムとびに熱中し、ものすごい熱気に包まれるのですが、授業中も負けず劣らず熱気に包まれています。挙手を競い合うばかりに、喧嘩になってしまうこともあるほどです。
 1年生、2年生の授業は現在週2コマの課外授業扱い。ベトナム人日本語教師とのTTで行っています。ただ日本語を知識として教えるだけではなく、自分で考え、発見し、まとめるという力をつけようという方針を立て、そのゴールに向かって試行錯誤しています。そして、授業を行い、振り返り、次の計画をたてる。この作業を通して、教師もお互いに成長できればと思っています。
 また、この1年は、大使館、ベトナム日本人材協力センター(以下、「VJCC」と略す)、日本商工会を始め、在ベトナムの多くの機関、組織の方の協力を得て、多くのイベントや交流会に生徒たちが参加する機会を得ました。日本人や日本の文化に触れるこういった機会は、生徒たちの学習意欲の向上につながっています。

4.日本語が正式な外国語科目に

 今年4月下旬。ベトナムの中学校、高校における日本語教育に関して、MOETと日本大使館の間で交換文書(以下、「基本記録」とする)が交わされました。この基本記録には、中学校、高校における日本語教育の計画、及び日本とベトナムそれぞれの果たす役割などが記されています。この1年間、この基本記録の内容を詰めるために、両国間で協議に協議を重ねてきました。わたしも、現場で日本語教育に関わる人間としてこの協議に参加してきました。
 この基本記録を受け、2005年9月に入学する中学生から、正式な外国語科目、つまり第一外国語として日本語を学習する生徒がベトナムで初めて誕生することになりました。また、MOET指定のモデル校も増え、ハノイ市内で2校、ホーチミン市内で2校、そしてベトナム中部の都市ダナン市、フエ市でも日本語教育が開始されます。現在、日本とベトナムの関係者と協力しながら、新しい学校での日本語教育立ち上げ業務に当たっています。

5.これから

 この1年で、ベトナムの中等日本語教育は大きく広がりました。これからの1年でまた大きく広がる予定です。今年4月、ホーチミン市のモデル校にもジュニア専門家が派遣されました。現場の人間が増えて、心強く感じています。これから大きく花開く子どもたちのために、日本とベトナムの関係者で手を取り合って、力を尽くしていきたいと思っています。

* ベトナムは小学校5年、中学4年、高校3年という学制を取っている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ベトナムは中等教育段階における外国語科目として日本語の導入(全国展開)を検討しているが、派遣先機関は全国展開に先立つ試行教育を実施するモデル校である。ジュニア専門家は、派遣先機関においてベトナム人教員とティームティーチングで授業を担当するほか、教科書及び教師用指導書の作成、教師育成など、ベトナム国内中等学校における日本語教育支援に携わる。
ロ.派遣先機関名称 チューヴァンアン中学校
Chu Van An Lower Secondary School
ハ.所在地 17 Thuy Khue Road, Hanoi. Vietnam
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2003年12月
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2004年
(ロ)コース種別
課外授業(2005年5月現在)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名(うち邦人1名:ジュニア専門家)
非常勤2名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生:49名
2年生:60名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ、日本への興味関心
(3) 卒業後の主な進路 高校進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験4級を受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 なし

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