世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語を学習する生徒たちのために

レクイドン中学校
黒田朋斎

校内の様子の写真
校内の様子 授業風景:課題に取り組む生徒たちの写真
授業風景:課題に取り組む生徒たち

 ベトナム最大の都市ホーチミン市(以下、HCM)には1万2千人以上の日本語学習者がいます。今まではそのすべてが大学と、学校教育機関以外で日本語教育を実施している民間日本語学校などの学習者でした。しかし、2004年から新しく初等・中等教育機関「1」が刻まれました。レクイドン中学校(以下、LQD中学校)です。
 ベトナムの中等教育機関での日本語教育は、中等教育段階での正式な第一外国語科目として採用することを目標に2003年に首都ハノイのチューヴァンアン中学校で始まり、HCMでは1年遅れて2004年9月に開始されました。
 現在は試行段階で、LQD中学校はその試行日本語教育のモデル校です。1年目の04‐05年度は課外授業として6年生*(11歳~12歳)82名の生徒たちが2クラスに分かれ、週2コマ(1コマ45分)学習しています。生徒たちはベトナム教育訓練省が国際交流基金と協力して制作した『にほんご6』という教科書を使っています。6年生は、ひらがな・カタカナと簡単な漢字、あいさつ、「~が好きです」「~は~です」などの簡単な文型、年齢や時間の言い方を学びます。
 授業はティームティーチングです。現地教員と日本人教員(筆者)2人が教室に入って授業をします。授業では生徒が自ら考え、興味を持ち、なおかつ生徒たちが協力して学習を進められるようにいつも心がけています。たとえば、ひらがな導入のグループ活動です。ひらがな導入の後半にこの活動を取り入れました。まず、各グループに文字が書かれたカードを配ります。そして、生徒たちはそれを五十音の順に並べ、教科書を見て読み方を調べるのです。生徒たちは未習の文字が書かれたカードを見て、「何と読むのかな?」と興味が湧き、教科書を開きます。そして、グループ内で協力し、どんどん自分たちで文字の読み方を調べていきます。
 生徒たちが特に好きなのがビンゴを使った授業です。ひらがなやカタカナの練習のためにビンゴをするのですが、「ビンゴ」という言葉を聞くと、生徒たちからは「イエーイ!!」の歓声が上がります。教員の発音を聞いては一喜一憂し、これ以上ないくらいに盛り上がります。
 しかし、実はこのような活動をしなくても生徒たちは日本語学習に積極的で、教室はいつも活発な雰囲気に包まれています。
 このように前向きな生徒たちの日本語学習を支援するために、ジュニア専門家にはどのような果たすべき役割があるのでしょうか。
 最も重要な役割は日本語が中等教育段階の正式な外国語科目として採用されるようにLQD中学校における日本語教育を成功させ軌道に乗せることです。具体的には、上記で紹介した授業担当のほか、現地教員の育成が挙げられます。これは授業前の教案指導、授業後の検討、そして教師研修などです。しかし、ベトナムにおける年少者日本語教育は始まったばかりです。したがって、私が現地教員に教えるという位置づけではなく、現地教員とともにベトナムの子どもにどのように日本語を教えていくかを考えるというスタンスで行っています。
 また、教科書の見直しや教科書に準拠した副教材・教具の開発も重要な業務です。教科書は非常におもしろいものに仕上がっていますが、やはり使用していると改善点が見えてきます。その改善点を教科書に反映させていかなければなりません。さらに、今後は8年生*(13歳~14歳)、9年生*(14歳~15歳)の教科書作成と、高校のカリキュラムと教科書の開発があります。ベトナム側の開発グループがハノイにいるため、この業務はハノイのジュニア専門家が主に担当しますが、それをサポートすることも重要な役割だと認識しています。
 その他、HCMで実施されているスピーチコンテストのアトラクションへの出場や日本人学校との交流などを考えています。これによって生徒たちがより興味を持って学習できる環境を作りたいと思っています。
 一方で中学校での日本語教育を広く知ってもらうための活動も行っています。その一環がHCMの日本語教育機関へのプロジェクトの説明です。今までHCMの日本語教育を担ってきた各機関から理解と協力が得られれば、中等教育機関での日本語教育がさらにスムーズに発展すると期待しています。
 現在HCMで日本語教育を実施している初等・中等教育機関は「1」ですが、今年9月からはモデル校が1校増え、2校で日本語教育が実施されます。この数がどんどん増えるように環境を整えていくのがHCMに派遣されたジュニア専門家の役割です。
 さて、10年後には何校になっているでしょう?

*注:
ベトナムは小学校5年、中学校4年、高校3年という学制をとっており、1年~12年という呼び方をする。そのうち中学校は6年から9年。
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ベトナムは中等教育段階における外国語科目として日本語の導入を検討しているが、派遣先期間はその導入に先立つ試行教育を実施するモデル校である。ジュニア専門家は、ベトナム人教員とティームティーチングで授業を担当するほか、教師育成や、教育訓練局・学校と協力し教育環境の整備に携わる。
ロ.派遣先機関名称 レクイドン中学校
Le Quy Don Secondary school
ハ.所在地 2 Le Quy Don, P. 6, Dist. 3, Ho Chi Minh City
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2004年9月から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2005年
(ロ)コース種別
課外授業(2005年度入学生より第一外国語の予定)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名(うち邦人1名:ジュニア専門家)、非常勤1名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   6年生:82名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ、興味。
(3) 卒業後の主な進路 高校進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験4級を受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 なし

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