世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本センター専門家の役割

ベトナム日本人材協力センター・ホーチミン市校
鈴木 衣今子

 ベトナム日本人材協力センター(Vietnam-Japan Human Resources Cooperation Center-Ho Chi Minh City、以下VJCC-HCMC)は、JICA市場経済移行国支援プロジェクトによりベトナム・ホーチミン市に建てられたセンターです。2002年5月に開所し、すでに4年の月日が流れています。このセンターは、ビジネスコース・日本語コース・相互交流事業の三本柱が活動の中心になっていますが、このうち、日本語コースの運営が筆者の担当です。

 VJCC-HCMC日本語コースが他の日本語教育機関と何が違うのかと問われれば、より公共性を持った活動を目指しているということでしょう。一般日本語コースを開講しているだけでなく、教師研修を行なったり、ホーチミン市内の日本語教師間ネットワークがより緊密なものになっていくよう黒子の役割を務めるのも大事な仕事なのです。

第12回ホーチミン市日本語スピーチコンテストの写真
第12回ホーチミン市日本語スピーチコンテスト

 ホーチミン市には、日本語教育に携わっている先生方が実行委員会を構成・運営している「ホーチミン市日本語スピーチコンテスト」があります。これは、1995年から有志の先生方が集まって開催してきたもので、今年第12回目を迎えました。この実行委員会の事務局としての役割が、当地におけるVJCC-HCMC日本語コースの重要な役割の一つです。その中で専門家は、様々な機関から参加された先生方の力を合わせ、どのように持っていけば、合理的かつ効果的なスピーチコンテスト開催の運びとなるかを考え提案していくファシリテーターとしての役割を担っています。中には、専門家は偉いんだと勘違いされていたり、逆にぐいぐい引っ張っていくリーダーだと思われたり、はたまた何でもやってくれる便利屋のようにとらえている方もいたりしましたが、少しずつ、周囲の理解も得られてきているように感じています。

教師研修風景の写真
教師研修風景

 それでは、教師研修では専門家は主役かというとそうではありません。研修でも主役は参加者です。しかも、様々な機関で教えていらっしゃる先生方を相手に研修を行なうには、生半可な準備では足りません。日本語教育をしていて誰もがぶつかる難題が「と・ば・たら・なら」の使い分けですが、教師研修担当の講師二人で知恵を絞り、身近なベトナム人に手伝ってもらって「と」「ば」「たら」「なら」に最も近いベトナム語を探して使い分け表を作り、意気揚々と研修に臨みました。「この違いを参考にして、皆さんも教室で教えてください」とにこやかに説明した途端、『先生!「と」と「たら」は、こう教えたほうがきれいですよ。』と受講生の鶴の一声。準備で頭がいっぱいで「きれい」どころではなかったのですが、確かに「きれい」な分類の方がベトナム人学習者の頭にもずっとスムーズに入っていくように思われます。その受講生がベトナム語ネイティブであることを差し引いても、「教えることは教わること」だと痛感した瞬間でした。そんなこんなでやっと研修最終日を迎え、受講生から「勉強になった」という一言があると、「役に立った!」という喜びと「貢献した!」という充実感でいっぱいになります。これは他では味わえない、何にも代え難い感触です。

 こちらで仕事をしてきて1年半。黒子として目立たず騒がず、それでいて、必要なときにはさっと出て行く。そのタイミングを見誤らない。これが専門家の持つべき特性の一つかな、とこの頃感じています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
JICA(国際協力機構)の市場経済移行国支援プロジェクト日本センターの一つ。ベトナム南部における日本語教育モデル校となると同時に、日本語教師研修も行いホーチミン市に優良日本語教師を輩出する役割も果たす。また、市内日本語教師ネットワークの維持・強化のためにも注力。通常は、一般日本語コースの開講のほか、ビジネス日本語コース、IT日本語コース、パソコン日本語コースなども行い、日系企業で即戦力となる人材育成をサポート。他、付属図書館は日本語関連リソースセンター機能を持つ。
ロ.派遣先機関名称 ベトナム日本人材協力センター(ホーチミン市校)
Vietnam-Japan Human Resoueces Cooperation Center
ハ.所在地 15, D5 Road, Van Thanh Bac, Ward 25, Binh Thanh Dist.,Ho Chi Minh City, VIETNAM
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名(現在2代目、計2名)

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