世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 拡大する中等教育機関における日本語教育

レークイドン中学校
黒田朋斎

フエ市の中学校の授業風景の写真
フエ市の中学校の授業風景

「先生、おはよう!」
 今年度は校内を歩いていると、よく声をかけられます。
 私が派遣されているレークイドン中学校(以下、LQD中学校)では試行日本語教育が2年目に入り、日本語を学習する生徒の数も倍増しました。現在は6年生*(11歳~12歳)と7年生*(12歳~13歳)約170名が日本語を学んでいます。そのため、日本語を選択している生徒に校内で会うことが多くなったのです。

 ベトナム全国を見ても、05-06年度の日本語教育実施校は昨年度の6校から10校に増加しました。ハノイとホーチミン市(以下、HCM市)だけでなく、中部のフエ市とダナン市でも始まっています。HCM市では、新しくヴォーチュオントアン中学校(以下、VTT中学校)に日本語が導入されました。

 もう1つ大きな変化があります。それは05-06年度入学生から日本語を正式な第一外国語として学ぶようになった点です。昨年までは課外授業だったので、週2コマ(1コマ45分)でしたが、今年度入学生は週3コマ日本語を学習しています。

 生徒たちは昨年度と変わらず、楽しんで日本語を学んでいます。6年生の授業中の挙手は圧巻です。教師の質問と同時にいっせいに手が上がります。中には指名してもらおうと立ち上がったり、「先生!」「Con!(私!)」と大声を出したりしてアピールする生徒もいます。7年生は課外授業にもかかわらず、熱心な生徒はどんどん自分で学習を進めています。授業中、ふと教科書を見ると、ずっと先に学習する課の練習問題までしてある生徒も見られます。新しい文型を導入するときにも生徒の手が上がります。私たち教師から教えなくとも生徒が言ってくれるのです。

折り紙教室で作った作品を掲げる生徒たちの写真
折り紙教室で作った作品を掲げる生徒たち

 LQD中学校では、今年度ホーチミン日本人学校(以下、日本人学校)と協力し、2つの行事を行いました。1つは日本人学校生徒の日本語授業への参加、そしてもう1つはHCM市中学校ひらがなコンテストです**。ひらがなコンテストでは、生徒たちの作品を日本人学校中等部の生徒に審査してもらいました。そして、入賞者を招待していただき、日本人学校で授賞式を行いました。そのほかにも、ホーチミン市日本語スピーチコンテストのアトラクションで歌ったり、ベトナム日本人材協力センターによる折り紙教室を開催したりしました。

 前にも書いたように05-06年度からはHCM市で新しく1校、そしてベトナム中部のフエ市、ダナン市でも日本語教育が始まりました。これらの学校に巡回し、教師支援、学習者支援をすることも私の業務です。これらの学校はLQD中学校と違い、いつも日本人教師がいるわけではありません。そのため、私が巡回したときには生徒たちが大歓迎してくれます。ダナン市で私が学校に来るのに合わせて生徒たちが校門まで出迎えてくれたのには本当に感激しました。また、フエ市ではある生徒が私に手紙をくれました。その手紙には、「黒田先生に会って日本と日本人についてもっと深く知りたくなりました」と書いてありました。私たちは「生徒が日本語を好きになること」を目標に日本語教育を進めてきましたが、どの学校の生徒たちも日本語を楽しんで学習しています。その姿を見て一教師として純粋に喜びを感じます。

 一方で教員の育成も重要な業務の1つです。その中で最も重要なのが、教育訓練省が年1回開催する全国中学校教員研修会です。その研修会で私は講師として実践的な教授法や文法事項に関する講義を担当しました。今年度は今年の6月に開催されました。今年で2回目ですが、昨年度と比べ参加した現地教員の問題意識が高く、この1年での成長が感じられました。

 このように生徒たちは一生懸命日本語を学習し、教員もがんばって教えていますが、その環境は整っているとはいえません。中学生用の教科書は完成したものの教科書に準じた副教材がないため、生徒たちが学習するには不十分です。また、教具類も不足しています。この周辺教材・教具の充実が今後の課題でしょう。これを現地教員と協力して進めていきたいと考えています。

 ベトナム中等教育機関での日本語教育は始まったばかりです。今後拡大していくためにはまだまだ問題はあります。しかし、ひとつずつ解決して、たくさんのベトナムの中学生が日本語を学習できるような環境を整えていきたいと考えています。

*:ベトナムは小学校5年、中学校4年、高校3年という学制をとっており、1年~12年という呼び方をする。そのうち中学校は6年から9年。

**:ホーチミン市ひらがなコンテストにはヴォーチュオントアン中学校の生徒も参加。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ベトナムは中等教育段階における外国語科目として日本語の導入を検討しているが、派遣先期間はその導入に先立つ試行教育を実施するモデル校である。ジュニア専門家は、ベトナム人教員とティームティーチングで授業を担当するほか、教師育成や、教育訓練局・学校と協力し教育環境の整備に携わる。
ロ.派遣先機関名称 レークイドン中学校
Le Quy Don Secondary school
ハ.所在地 2 Le Quy Don, P. 6, Dist. 3, Ho Chi Minh City
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2004年9月から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2005年
(ロ)コース種別
2004年度入学生:課外科目
2005年度入学生:第一外国語
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人1名:ジュニア専門家)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   6年生:86名
7年生:78名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ、興味。
(3) 卒業後の主な進路 高校進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験4級を受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 なし

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