世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 大きな成長

ベトナム教育訓練省 教育カリキュラム戦略研究院
大舩ちさと

 2006年6月。「ベトナム全国中学校日本語教師研修会」(以下、「全国研修」)に参加するため、10名のベトナム人日本語教師が全国からベトナム中部の町、フエ市に集まりました。白熱する議論。堂々と自分の意見を述べる研修生。1年前の第1回「全国研修」との差の大きさを感じずにはいられませんでした。そして、赴任当初の1名のベトナム人教師と二人三脚だった頃からの拡大を感じずにはいられませんでした。

1.拡大した日本語教育

第2回 全国研修(06年6月フエ市)の写真
第2回 全国研修(06年6月フエ市)

 2005年から2006年にかけて、ベトナム中学校日本語教育には大きな動きがありました。まず、2005年4月に「ベトナムの中等学校における日本語教育に関する在ベトナム日本国大使館とベトナム社会主義共和国教育訓練省との討議の基本記録」(以下、「基本記録」)に署名が交わされ、中学校から開始される日本語教育について日越双方が協力していくことが確認されました。そして、その「基本記録」に基づき、2005年9月からは、中部の都市、ダナン市、フエ市にもモデル校を2校ずつ置くこと、ハノイ市、ホーチミン市にはモデル校を1校ずつ増設すること、そして、新入生からは第一外国語として日本語教育を実施することになりました。つまり、モデル校が2校から8校へ、日本語教育実施都市が2市から4市へと拡大することになったのです。

 この拡大に備え、モデル校の視察、教員採用試験への協力、また、初めて教育訓練省(以下、MOET)主催 で行われる教師研修会の内容企画・実施に、わたしは専門家として日越双方の関係者とともに携わりました。そして、2005年8月、ベトナム初の「全国研修」がハノイで開かれたのです。

2.教師研修

 ベトナムでは、新しい教育カリキュラム、教科書を試用して授業を開始する際、MOET主催で教師研修会が開かれます。日本語は2005年9月から初めて正式な外国語科目(第一外国語)として実施されることになったため、2005年夏には6年生担当教員ための研修が、2006年夏には7年生担当教員のための研修が、2008年には8年生担当教員のための研修が、というように毎年、研修会が開かれます。そして、2005年8月にハノイで開かれた「全国研修」が、記念すべき第1回の日本語科目の「全国研修」となったわけです。

 全国4市で中学校日本語教育に従事する教員、全11名。日本語教育未経験者を含むこの11名が、中学校で使用する教科書『にほんご6』を使いながら、中学校における日本語教育の目的と目標、生徒自身に考えさせる授業、中学生心理を考慮した授業などについて考えました。講師陣も研修生も初めての経験で、試行錯誤しながらの研修会になりましたが、成功を収めました。とはいえ、まだ見ぬ中学生にやや不安そうな面持ちを残している研修生がいたことは否めません。わたし自身、この先どのように授業が行われていくのか、学習者が日本語という科目についてきてくれるのか、不安な気持ちもありました。そして、このときには、冒頭に書いたような第2回「全国研修」が迎えられるとは想像もしませんでした。

3.巡回指導

 「全国研修」後は、巡回指導に努めました。ハノイ市内のモデル校は、チューヴァンアン中学校に派遣されている日本語教育指導助手と共に、日本人専門家のいない中部のフエ市、ダナン市はホーチミン派遣のジュニア専門家と協力し、教師支援、学習者支援を行ってきました。各地でそれぞれの教員が自分たちの経験を分かち合い、協力し合ってさまざまな実践を繰り広げているのを見て、頼もしく思う反面、経験や情報の共有化がまだまだできていないこと気づかされます。地域を越えたネットワークの強化が今後の一つの課題だと考えています。

4.教科書制作

教育訓練省指定教科書 『にほんご』の写真
教育訓練省指定教科書 『にほんご』

 教科書制作も大きく進みました。報告者も執筆者としてかかわっていますが、6年生、7年生用の教科書は試行版として発行され、全国の学習者に無償配布されました。教科書付属のCDも、在越日本人の協力を得て、完成することができました。8年生、9年生用の教科書もMOETの審査に合格し、発行を待つばかりです。

 2006年からは高校の教科書制作にも着手しています。ベトナムの大学の先生方と共に、内外の研究成果を参考にしつつ、ベトナムの現場に必要な教科書の形を追い求め、現在、試行錯誤しています。

5.学習者支援

 中学生にいろいろな経験をさせてやりたい。教室の中だけでの学習だけでなく、教室を越えた学習をさせたい。これが、ベトナム中学校日本語教育関係者の共通の望みです。そこで、在ベトナム日本国大使館、ベトナム日本人材協力センター(VJCC)、日本商工会、日本人学校をはじめとするその他多くの機関の協力を得て、さまざまな交流活動を行ってきました。その中でも、ハノイ市では日本語教育を実施している4中学合同の文化祭「グァバ日本語祭り」を企画したのですが、350名を超える来場者を迎え、大盛況でした。学習者の評判も上々で、80%を越える生徒が毎年やってほしいと答えています。学校という場を越えた活動の重要性を感じています。

6.これから

 このような1年を経て、冒頭に書いた第2回目となる「全国研修」を中部のフエ市で2006年6月に行いました。この「全国研修」では研修生―教師陣―の頼もしい姿を目にしました。ベトナムの中学校日本語教育は確実に成長し、確実に広がっている。強くそう思います。

 これからも高校の立ち上げ、高校の教科書制作と大きな節目が押し寄せてきます。課題を一つ一つ解決しながら、関係者で協力し合って、よりよい道を切り開いていければと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ベトナム教育訓練省の管轄下にある研究機関で、政府方針、社会経済上の発展・要求に基づき、教育科学分野からの提案、教育ストラテジーおよびカリキュラム等の開発を行う。幼稚園から高等教育レベル、生涯教育も含めたすべての教育レベルにおける研究を担当する。中等学校における日本語教育プロジェクトにおいては、教育訓練省の指示を受け、ガイドライン作成、教科書開発、教師研修などに関し具体的提案を行い、実施に際しても指導的役割を担う。
ロ.派遣先機関名称 ベトナム教育訓練省 教育カリキュラム戦略研究院
National Institute for Education Strategy and Curriculum,
Ministry of Education and Training Vietnam
ハ.所在地 101 Tran Hung Dao, Hanoi, Vietnam
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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