世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 生徒の成長は教師の成長とともに

レークイドン中学校
黒田朋斎

 75名(2003年度)→ 289名(2004年度)→ 1031名(2005年度)→1843名(2006年度)。

 これはベトナムの中学校で日本語を学んでいる生徒数の変遷です。

 2003年12月にハノイで始まった中学校での日本語教育は年を追うごとに拡大し、学習する生徒数も2006年度にはついに1800名を越えました。この2年、当ページで紹介してきたように、生徒たちのほとんどは高い意欲を持ち、楽しみながら日本語を学習しています。

 そして、それを支えているのがベトナム人の日本語の先生たちです。

 2006年度は15名の先生がベトナム4都市の中学校で日本語を教えています。私の赴任地であるホーチミン市(以下、HCM)では3名の先生が、また巡回指導を担当している中部のダナン市では2名、そしてフエ市では、3名の先生が日々生徒たちと向き合い、日本語教育に取り組んでいます。そこで今回は、私の業務の中でも最も重要な業務の1つで、私自身も力を入れている教師育成支援についてご紹介します。

 先生たちのこれまでの経歴はさまざまです。高校で英語教師を長年務めていた人もいれば、義務教育段階でのフランス語教育プロジェクトに携わっていた人もしますし、民間の日本語学校で教えていた人もいます。また、ホテルのレセプショニストとして働いていた人や、日系企業に勤めいていた人など教育以外の仕事に携わっていた人もいます。そうした人たちが今中学校教師として日本語を教えているわけです。

 教育関連の仕事をしていた人でも日本語を教えたことがある人はまれですし、日本語学校で教えていた人も中学生に教えるのが初めての人がほとんどです。ましてや一般の企業で働いていた人などは教壇に立つのも初めて、という人もいます。そのため、教師育成が重要な意義を帯びているのです。

 育成支援として最初に挙げられるのが教師研修です。全国の中学校の日本語の先生が参加する全国研修会(1)と各地方で行うミニ研修を実施しています。全国研修会では教科書の全体的な内容を扱い、ミニ研修で全国研修会の内容をさらに展開した具体的な教授法などを指導します。今年(2007年)も全国研修会は6月に実施されました。ミニ研修は今年9月に実施予定です。

チームティーチングでの授業の様子の写真
チームティーチングでの授業の様子

 そして次に挙げられるのが、教案指導とチームティーチング(以下、TT)での授業です。教案指導では、先生が作成した教案を先生と私の2人で見直し、改善していきます。そして、一緒に教室に入ってTTで授業をします。そうすると、実践に沿った形で問題点と改善点が明らかになるので、先生たちの吸収の速さが違います。HCMでは教案指導を授業前にほぼ毎回行い、TTでの授業もレークイドン中学校(2)では日本語授業全体の約3分の2、ヴォーチュオントアン中学校(2)では約3分の1実施しています。中部の2都市でも巡回時に約1週間滞在して同様の支援を行っています。このようにして研修で得られた知識と技術が実際の授業に生かされるように心がけています。

 このような支援を継続した結果、授業技術も向上し、生徒の興味と意欲を引き出す授業をしようという意識も先生たちに浸透してきました。行事への取り組みにも自主性が出てきたように感じます。生徒のことを常に考える姿勢ができつつあるようです。うぬぼれのようですが、これまでは日本人教師のほうがベトナム人の先生よりも生徒に人気があると自負していたのですが、このごろは日本人教師よりもベトナム人の先生を慕う生徒が増えてきて、先生の成長を喜ばしく見つつも一抹の寂しさを感じずにはいられません。

 HCMから2名の先生が2007年7月に民間財団が開催する日本語教員研修に参加するため訪日する予定です。これによって更なる成長を期待しています。

ホーチミン市日本語スピーチコンテストで生徒がスピーチした。これも成長した教師による1つの成果(3)の写真
ホーチミン市日本語スピーチコンテストで生徒がスピーチした。これも成長した教師による1つの成果(3)

 しかし、待遇など先生たちの働く環境はまだまだ厳しく、職を離れてしまう人も出てきました。現職の先生たちも中学校の収入だけでは生活が難しく、ほとんどの先生が副業を抱えています。そのような先生たちをどのように励まし、長く働こうという意欲を持ってもらうかが大きな課題になっています。そのひとつの解決策となるのが、訪日研修機会の提供です。国際交流基金の海外日本語教師研修のほか、先に挙げた民間財団等が実施する研修もあり、訪日の機会は増えています。その一方で、そういった機会の提供が不均等になると先生たちの不信を招き、意欲を削いでしまう可能性もあります。各地方の先生たちにいかに均等に機会を提供し、効果を上げるかもよく考えなければならないでしょう。

 これまで生徒の興味と意欲を引き出すことを主眼に支援をしてきましたが、やはりそれには先生の成長が欠かせません。まさに生徒の成長は教師の成長とともにあるのです。

  1. (1)全国研修会の主催はベトナム教育訓練省。
  2. (2)レークイドン中学校、ヴォーチュオントアン中学校ともHCMの試行日本語教育モデル校。
  3. (3)生徒はスピーチコンテスト本選ではなく、アトラクションの1つとしてスピーチをした。
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ベトナムは中等教育段階における外国語科目として日本語の導入を検討しているが、レークイドン中学校はその導入に先立つ試行教育を実施するモデル校である。ジュニア専門家は、ベトナム人教員とティームティーチングで授業を担当するほか、教師育成や、教育訓練局・学校と協力し教育環境の整備に携わる。
ロ.派遣先機関名称 レークイドン中学校
Le Quy Don Secondary school
ハ.所在地 2 Le Quy Don, P. 6, Dist. 3, Ho Chi Minh City
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2004年9月から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2005年
(ロ)コース種別
第一外国語科目および選択科目
(ハ)現地教授スタッフ
常勤3名(うち邦人1名:ジュニア専門家)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   8年生:76名、7年生80名、6年生:92名
(2) 学習の主な動機 日本への憧れ、興味。
(3) 卒業後の主な進路 高校進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定4級を受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 なし

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