世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 新たなステージへ

ベトナム教育訓練省 教育カリキュラム戦略研究院
大舩ちさと

 中等教育段階の日本語教育経験のない国でゼロからスタートしたこのプロジェクトも約4年が過ぎました。2005年に署名が交わされた「ベトナムの中等学校における日本語教育に関する在ベトナム日本国大使館とベトナム社会主義共和国教育訓練省との討議の記録」では、下図のような段階に分けて日本語教育の導入が図られています。2007年9月からは、高校における第二外国語としての日本語教育の立ち上げ(下図1)、第一外国語としての8年生(中学3年生)の教育開始(下図2)、普及段階*の日本語教育の立ち上げ(下図3)という新しいステージの幕が開きます。この1年間は日越双方の関係者と共に、2007年から始まる新たなステージのための準備に奔走した1年でした。

ベトナムの中等学校における日本語教育に関する在ベトナム日本国大使館とベトナム社会主義共和国教育訓練省との討議の記録による日本語導入計画

1.教科書制作

 ベトナムでは中高7年間のための教科書制作**に取り組んでいます。2006年度中に中学校高学年用の教科書及び付属CDの制作が終わり、各モデル校に配布されました。そして高校における日本語教育開始に先立ち、2006年7月からは高校の教科書制作に着手しています。
 高校教科書執筆委員は4名。ベトナム人の大学の先生2名と、日本人専門家2名という体制です。まずは制作済みの中学校の教科書の課題を執筆委員で確認し、リストアップしました。そして、第二言語習得理論、各国中等教育段階のスタンダード、日本語や英語の教科書等を分析・研究しました。その上で、ベトナムの高校生が目指すべき目標の設定、及び学習事項・文法項目等の選定、シラバスの作成、そしてプロトタイプ(模範的な1課)の作成を行い、プロトタイプを模擬授業の形式で評価しました。その結果を元に高校1年生用の教科書を編集し、現在教育訓練省の検定を受けています。高校の教科書は、学習者にも教師にもより良質な学びの機会を提供できる教材になっていると思います。
 この夏からは、高校2年生用の教科書制作に着手します。ベトナム人の若手大学教師2名が執筆委員に加わることになり、教科書制作は新体制でますます盛り上がっていきそうです。

2.高校日本語教育の立ち上げ

 上図の通り、2007年9月からは第二外国語として日本語を学んできた生徒たちが高校へ進学します。モデル校にはチューヴァンアン高校が指定され、入学試験は数学と国語、そして日本語の3科目で実施されました。日本語は現段階では第二外国語ですが、特例として日本語の試験が課され、日本語の成績が重視されています。
 2008年9月には同じく第二外国語としての日本語教育をホーチミンの高校で立ち上げ、2009年9月には第一外国語としての日本語教育をハノイ市、フエ市、ダナン市、及びホーチミン市の高校で立ち上げます。今年のハノイにおける高校日本語教育の立ち上げは、今後に続く高校日本語教育のためにも非常に重要だと考えています。

3.ベトナム中等日本語教育の拡大

 ベトナムの中等学校における日本語教育は課題を抱えながらも順調に規模を拡大し、2003年の1市1校71名の学習者から、2006年には4市10校1843名にまで増加しています。2007年9月にも約800名の生徒が新たに日本語学習を始めることが見込まれています。

4.日本語環境のパソコンがモデル校に!

 現在ベトナムでは教育のIT化が進められており、パワーポイントを使った授業の実施等が求められています。しかし、日本語の入力できるコンピュータがモデル校になく、日本語科目はなかなかIT化の波に乗れていませんでした。そんな中、中等学校における日本語教育の趣旨に賛同したパナソニックベトナム社からモデル校等11校に2台ずつノートパソコンを寄贈するという、非常にうれしいニュースが飛び込みました。今後はこのパソコンを使って、より魅力的な教材や教案が作られていくことでしょう。まずは、教師のIT技術の獲得から始めなければなりませんが、今後の可能性にワクワクしています。

5.今後の課題

フエの交流活動「どの字がきれい?」の写真
フエの交流活動「どの字がきれい?」

 ベトナムの中等学校における日本語教育の特色は、まさにこの拡大のスピードにあるといえるでしょう。しかしながら、課題は多く残されています。
 まずは、教師の育成。教師研修の拡充。そして、日本語を使った交流の機会の充実。日本の絵本や漫画、小学校の教科書が手に入らないか、といった要望も我々の下に多く寄せられています。
 全てを一度に解決することはできませんが、学習者が日本語という一つの科目をきっかけに世界を広げていってほしいという共通の願いの下、関係者とのより一層の協力関係を築きながら、一つずつ解決の道を探っていければと思っています。

* 普及段階:モデル校以外の学校でも日本語科目が開講できるようになる段階。

** ベトナムでは、小学校5年、中学校4年、高校3年という学制を採っている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ベトナム教育訓練省の管轄下にある研究機関で、政府方針、社会経済上の発展・要求に基づき、教育科学分野からの提案、教育ストラテジーおよびカリキュラム等の開発を行う。幼稚園から高等教育レベル、生涯教育も含めたすべての教育レベルにおける研究を担当する。中等学校における日本語教育プロジェクトにおいては、教育訓練省の指示を受け、ガイドライン作成、教科書開発、教師研修などに関し具体的提案を行い、実施に際しても指導的役割を担う。
ロ.派遣先機関名称 ベトナム教育訓練省 教育カリキュラム戦略研究院
National Institute for Education Strategy and Curriculum,
Ministry of Education and Training Vietnam
ハ.所在地 101 Tran Hung Dao, Hanoi, Vietnam
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名、ジュニア専門家:1名

ページトップへ戻る