世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語導入5年目を迎えるにあたって

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン担当)
伊藤 聡子

 ベトナムホーチミン市の中学校での日本語教育は今年9月で、5年目に入ります。日本語教育実施モデル校に指定されている2つの中学校(*1)での活動をここでご紹介します。

ベトナム人教員はアオザイ着用で授業の写真
ベトナム人教員はアオザイ着用で授業
「先生!私、私!」と元気よく挙手をする生徒たちの写真
「先生!私、私!」と元気よく挙手をする生徒たち

 私の担当業務の1つは、現地の中学校の先生たちのサポートです。中学校での日本語教育がスタートしてまだ日が浅く、中学生に日本語を教えることに慣れていない先生もいます。そのためハノイにいる日本語教育専門家とも協力して、1年に数回「教師研修」(*2)を計画し、実施しています。また、中学校の先生と一緒に授業を考え、教室に入って教え、振り返ることを通して、近い将来、先生たちが一人で授業の計画から振り返りまでできるようになるための支援をしています。そのほかにも、中学校の先生から依頼されて、教科書のテーマや学習項目にあった簡単な読解教材を作成しています。

 もう1つの大切な業務、それは中学生が楽しく日本語を学び続けるための「要素」になることです。言い換えれば、日本人の先生と話したいから、日本語をがんばって勉強しようと思ってもらうことです。大学生や一般学習者と違って、中学生には日本人との接触があまりありません。そういった学習環境の中で「どうやってモチベーションを維持させていくか。」これは大きな課題でもあります。また「日本語の先生」としてではなく、「中学校の先生(日本語)」として、生徒の成長を日本語を介して促していくという側面もあります。

 ちょうど赴任して2か月を過ぎたころの、中学1年生(*3)のあるクラスでの出来事がいまだに忘れられません。ひらがなを黒板に書いて、生徒たちがそれをノートに書き写しているときに、歯科検診の順番が回ってきて、生徒たちが保健室へ呼ばれました。ベトナム人の先生と「今日はもう授業はできないかもしれませんね。」と話しながら、生徒たちの帰りを待っていると、ある生徒が走って戻ってきて、すぐに席に着き、黙々とひらがなを書く練習を始めました。それを見て、他の生徒も次々に、私たちが何も言わなくても、練習を始めたのです。その姿をみて、この生徒たちは本当に日本語が好きなのだと思いましたし、この気持ちを忘れずに勉強し続けていってほしいと思うと同時に、それを支えるのは私たちであることを改めて感じました。

 そのためには解決しなければならないことがまだまだあります。

 中学生にとっての「日本語」は数多くある教科の1つであるため、日本語だけに時間を割いて勉強することができないのが実情です。効率のよい練習や復習を授業内で実施することで、無理なく学習できるサイクルを作っていくことが第一に挙げられます。また、日本人との交流の機会をできるだけ作っていくこともモチベーションの維持の面から重要です。2006年から毎年実施している「ホーチミン市中学校ひらがなコンテスト」の選考や授賞式にホーチミン日本人学校の中学生に協力してもらっていますが、今後はそれだけにとどまらない活動を実施していきたいです。

 また、先生たちへのサポートにおいても、4人いる先生(*4)それぞれの個性を生かし、早い段階での自立を目指して、より個々人に合った適格なアドバイスをしていきたいと思っています。

  1. (*1)レクイドン中学校、ヴォーチュオントアン中学校
  2. (*2)全国研修(ハノイ、フエ、ダナン、ホーチミンの4都市の先生を集めて実施)と各都市で行うフォローアップ研修がある。
  3. (*3)小学校5年-中学校4年-高校3年であるため、ベトナムの中学1年生は日本でいうと、小学校5年の2学期からになる。
  4. (*4)レクイドン中学校2名、ヴォーチュオントアン中学校2名
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ベトナムは中等教育段階における外国語科目として日本語の導入を検討しているが、レクイドン中学校はその導入に先立つ試行教育を実施するホーチミンにおけるモデル校である。ジュニア専門家は、国際交流基金ベトナム日本文化交流センター所属のホーチミン担当として、ベトナム人教員とティームティーチングで授業を担当するほか、教師育成や、教育訓練局・学校と協力し教育環境の整備に携わる。
ロ.派遣先機関名称 国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン担当)
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Viet Nam
ハ.所在地 No. 27 Quang Trung Street, Hoan Kiem District, Hanoi, Viet Nam
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
レクイドン中学校
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2004年9月から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2005年
(ロ)コース種別
第一外国語科目および選択科目
(ハ)現地教授スタッフ
常勤3名(うち邦人1名:ジュニア専門家)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   9年生:74 8年生:76 7年生:89 6年生:85
(2) 学習の主な動機 日本への興味
両親の意向
(3) 卒業後の主な進路 高校へ進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験4級レベル
(5) 日本への留学人数 なし

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