世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 中等学校教師たちの成長

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
稲見由紀子・伊藤愛子

 私たちが所属する国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(以下、センター)は、2008 年3月に開所したばかりの新しいセンターです。日本語教育支援事業をはじめとする、様々な文化交流事業を実施しています。日本語教育支援事業の中心となるのは、ベトナム教育訓練省と在ベトナム日本国大使館の合意に基づいて2003年から実施されている「ベトナム中等学校におけるモデル的な日本語教育プロジェクト(以下、プロジェクト)」です。センターに派遣されている4名(*1)の日本語教師は、教師研修、巡回指導、ティーム・ティーチング、教材制作支援などを通してプロジェクトに協力しています。

 プロジェクトが始まって早6年。中等学校の日本語教育は、モデル校11校、教師数18名、学習者数約3,200名にまで広がりました。この間の大きな成果の一つは、教師たちの成長です。このレポートでは、その教師たちの成長を支える、ベトナム国内での教師研修についてお伝えします。

2008年度全国研修の様子の写真
2008年度全国研修の様子

 プロジェクトでは、中学4年、高校3年の計7学年(*2)にわたって、日本語教育を実施します。つまり、2003 年のプロジェクト開始時に中学1年生だった学習者の進級にしたがって、日本語を学ぶ学年が、毎年上へ上へと伸びていくのです。したがって、教師たちは毎年、新しく開講される学年の学習内容を理解し、教え方を考えていかなければなりません。そんな教師たちを支援するために、私たちは2種類の研修を実施しています。

 一つは教育訓練省との共催で年に1回開催する「全国研修」です。全国の教師を一堂に集めて、5日間の集中研修を実施します。全国研修では、次年度に初めて使用する教科書に対する理解を深めることを目標に、教科書分析、文法、教授法などの講義やワークショップを行っています。

ハノイでのフォローアップ研修の様子の写真
ハノイでのフォローアップ研修の様子

 もう一つの研修は「フォローアップ研修」です。こちらは、より具体的に教室活動を考えるための研修で、年に2回、ハノイ、中部(フエかダナン)、ホーチミンの3か所で開いています。期間は2~3日、参加人数3~6名の小規模な研修なので、地域や学校の実情、教師のニーズに合わせて実施します。

 プロジェクト開始当初は、どの研修においても、講師の問いかけに対する受講者である教師たちの反応は弱く、講師からの情報を一方的に受け取ることが多かった、と聞いています。

 ところが、最近では、単純だと思われたトピックにも、教師たちからの鋭い指摘が相つぎ、講師が考えていたものよりレベルの高い議論になることもめずらしくありません。また、ワークショップでも、学習効果を高めたり、教室を活気づかせたりできそうな活動のアイデアが次々と出てきます。ベトナム人教師だけではなく、私たち講師にとっても学ぶことの多い研修になってきています。それは非常に喜ばしいことです。

 なお、中等学校の教師たちには、日本で教師研修を受ける機会もあります。最近は、国際交流基金(以下、JF)の実施する長期・短期研修のほか、他の公的機関や民間団体による訪日研修の機会も増えています。その結果、18名の教師の内14名がすでに訪日研修を経験し、日本語力、日本語教授力、さらには、日本文化についての知識もレベルアップしています。

 教師が経験を積み、力をつけていく一方で、新たな課題も出てきています。上にも述べたように、プロジェクトの年数が進むにつれて、日本語を学習する学年が増加します。そして、2009年8月からは、全国4都市のモデル高校9校で第一外国語としての日本語教育が始まります。日本語教育実施校が増加するのに伴って、新しい教師も採用されることになるでしょう。新規採用される教師たちは、中等学校で日本語を教えた経験がないため、現在の教師たちがこれまで受講したものと同様な研修を受けてもらいたいと思います。

 そこで、私たちは今後、これまでのように教師全員を対象とした研修を行うのではなく、それぞれの教師の経験年数、教える対象学年、日本語力などに合わせて、いく通りかの研修を企画・実施していかなければなりません。その時には、すでに力をつけた先輩教師たちに、講師として参加してもらうなど、効率的で質の高い研修を実施するための新たな方策を考える必要があります。

 ベトナム中等学校での日本語教育がより一層の広がりを見せたとき、私たちJFの専門家が、すべての教師研修に関わっていくことは難しいかもしれません。そのときにはきっと、プロジェクトが育てたベトナム人教師が、新人教師育成の中核的役割を果たしてくれることでしょう。その道筋をつけていくことが、私たちが目指すべき目標であると考えます。

  1. (*1) 内1名(ジュニア専門家)は、ホーチミン市に派遣されている。
  2. (*2) ベトナムの学制:小学校5年(1~5年生)/中学校4年(6~9年生)/高校3年(10~12年生)
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つとしてハノイに設置された。日本語教育支援事業を中心に、様々な文化交流事業を実施している。日本語教育支援事業の中心に、ベトナム教育訓練省と在ベトナム日本国大使館が実施する「ベトナムの中等学校におけるモデル的な日本語教育プロジェクト」がある。具体的には、中等学校教師向け教師研修の実施、教科書制作、モデル中学・高校でのティームティーチング、巡回指導などが挙げられる。また、ベトナム全土の日本語教育実施状況について情報収集を行っている。
ロ.派遣先機関名称 国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Viet Nam
ハ.所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Viet Nam
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名 ジュニア専門家:2名
日本語教育指導助手:1名
(うちジュニア専門家1名は、ホーチミン市に派遣)
ホ.アドバイザー派遣開始年 2008年

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