世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ベトナム日本文化交流センター1日ツアー

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
有馬淳一 横山直子

 ベトナムの首都、ハノイの観光名所の一つホアン・キエム湖から南西へ600mほど行ったところに、ここ国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(以下、センター)があります。ひっきりなしに鳴らされる車とバイクのクラクションを聞きながら、通りから柵越しに敷地内を見ると、白い洋館風の建物が目に入ります。オフィスビルの一室ではなく、一軒家であることに、初めて訪れた多くの人が驚きます。

 敷地に入って、左手にあるのが「本館」で、そこの3階に私たち派遣教師が普段仕事をしている部屋があります。そこには、国際交流基金から派遣されている上級専門家1名、専門家1名、指導助手2名の机が並んでいます。さらに、JENESYSプログラムの若手日本語教師もときどき、次の授業のための資料を探しに来たりもしますので、ハノイにいながらにして、ここだけは日本の学校の職員室です。

 このセンターにいる専門家はみな、ベトナムの中学高校の日本語教育に関わっています。それは、ベトナム教育訓練省(日本の文部科学省に相当)と在ベトナム日本国大使館との合意に基づいて2003年から実施されている「ベトナム中等学校におけるモデル的な日本語教育プロジェクト (以下、中等プロジェクト)」です。センターに派遣されている日本語専門家には、ハノイの他に、南部のホーチミン市で活動をしている専門家も1名いて、ベトナム人教師と組んで授業内容について相談したりティームティーチングをしたりしています。

 ハノイとホーチミンの他にも、中部のフエとダナンでも中等プロジェクトを実施していますので、これら4都市の中学高校を回って授業を見学するのも仕事の一つです。郊外の学校を訪ねるときには、日本語を学んでいる生徒はもちろんのこと、そうでない生徒も含め全校生徒かと思うくらい大勢の子どもたちがかけ寄ってきたり、ノートを差し出されてサインをねだられることもあったりと、ちょっとしたアイドル気分に浸れます。

 また、よい教師を育てていくことも私たちに課せられた使命の一つで、年に1度、全国の中等日本語教師が集まって数日間の研修会を実施しているほか、学期中何回か、ハノイ、中部、ホーチミンの各地でも研修をおこなっています。中学校高校で使っている教科書を用いて実際的な教え方に関する授業、教師自身の日本語運用力をさらに高めるための授業などを通して、1人1人が自立的に教え学んでいく教師になってくれることを目指しています。

 第1期生として2003年から日本語を勉強し始めた生徒たちが、2010年6月、中学高校での学びを終えて巣立ちました。日本語を通して知った世界をさらに広げ、大きく羽ばたいていってほしいと願っています。

中学校の教室の写真
中学校の教室
~ハエを捕まえているわけではありません!

 中等プロジェクトでもう一つ大きな仕事は、教材制作支援です。中学高校での日本語クラスで使う教科書を作るための仕事です。現在は、最終学年の12年生 (高校3年生) 向けの教科書を制作中です。その一方で、これまでにできた低学年用の教科書を改訂する作業もほぼ同時に進めていかなくてはならないため、地道な作業が求められます。しかし、教科書の指定書店に『にほんご6』『にほんご7』そして2010年8月には『にほんご8』が並び、カラーになった正式版の教科書を生徒たちがうれしそうに胸に抱える姿を目にできるのは、うれしい限りです。

 さて、いったん1階に降りて、今度は敷地内の「別館」をご案内しましょう。別館には小さな教室が2つと40人ぐらい入れる多目的ホールとがあって、ここを使って2009年7月からセンター講座を始めました。

高校生の願いの写真
高校生の願い
~ベトナム大学なんてないけどね

 現職のベトナム人日本語教師が対象で、まずは初級レベルの教え方を学ぶ教授法コースを開きました。さらに、2010年2月からは、同じく現職教師を対象に、自分の日本語力をさらに磨くための会話コースも開きました。これらは、大学や民間の日本語学校で教えるベトナム人教師を対象にするもので、センターでは今後、こうした高等教育や民間の日本語教育支援にも力を注いでいきたいと考えています。

 平日の夜、自分の授業が終わって急いで教授法コースに駆けつけてくれたり、週末も欠かさず会話コースに来てくれたりする受講生の様子を見ていると、授業を担当する私たち講師も決して手を抜くわけにはいかないという責任を感じます。また、教授法コースを修了して、次に会話コースにも申し込んでくれた受講生がいると、大きなやりがいを覚えますし、要望に応えてさらにいろいろな講座を開こうという意欲も湧いてきます。

 次期開講コースの受講希望者に対するインタビュー試験が明日あるので、教室の設営を終えて外に出ると、本館3階の私たちの部屋はまだ灯りがついています。おそらく『日本語12』の教科書執筆作業がまだ続いているのでしょう。行き交う車とバイクのクラクションの音が静かになるのが早いか、3階の電気が消えるのが早いか、さて今日はどちらでしょうか。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Viet Nam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。  日本語教育支援事業で特に力を入れているのが、日本とベトナム両政府が協力して進めている「中等学校日本語教育プロジェクト」で、中等日本語教師向け研修の実施、教科書制作、モデル中学・高校でのティームティーチング、巡回指導などをおこなっている。  また、今後は、高等教育機関や民間日本語学校に対する日本語教育支援も積極的に展開していく予定で、当センターで現職教師対象の教授法講座や会話講座も開講している。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:2名 指導助手:2名 (うち日本語専門家1名は、ホーチミン市に派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年

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