世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) この1年間で達成できなかったこと

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
有馬淳一 横山直子

 ベトナム日本文化交流センター(以下、センター)での仕事も丸2年になりました。この1年間をふり返ってみると、実にさまざまなことがありました。達成できたこともあれば、残念ながら達成できなかったことも数多くあります。

 ベトナムでは、毎年、北部、中部、南部のそれぞれで日本語スピーチコンテストが開催されていて、大きな大会だけでも4回あります。優勝すると副賞として訪日研修が贈られる大会、初級の学習者でも参加できる初級部門がある大会、大学生はもちろん、社会人の参加もある大会など、特色もあります。

ペア練習中に見回りますの写真
ペア練習中に見回ります

どの大会にも共通しているのは、パフォーマンス部門あるいはアトラクション部門があり、個人や団体で歌、踊り、劇などを披露する時間もあることです。どの大会でも必ずと言っていいほど、YOSAKOI踊りがあり、下手をすると1つの大会で2つもYOSAKOIの発表があるので少々食傷気味になりますが、それでも、日本語学習者たちの日頃の成果を目の当たりにするのはうれしいものです。

 全ベトナムチャンピオン大会はまだ実現していませんが、近い将来、北部、中部、南部の上位入賞者が集って日本語のスピーチを競い合う、そんな機会があるとよいと思います。

 できなかったことと言えば、出張の連続記録の更新もその1つです。ふだん、各地での教師研修会の開催や学校の授業見学や、あるいは上記のようなスピーチコンテストでの審査員のため、出張が多いのですが、ベトナムの学校は6月から8月にかけて夏休みに入ります。そのため、2010年の9月から毎月、多いときには月3回あった出張の連続記録がついに6月には途絶えてしまいました。

 2009年からセンターで始めた、ベトナム人日本語教師向けの講座ですが、2010年度には初級の教授法の他、読解の教え方の講座も開きました。初級レベルの読解、中級上級レベルの読解の指導法について学んだ後で、各受講生が読解の素材を選んで、自分で考えた活動を紹介するミニ模擬授業もおこないました。

 また、教師である参加者の日本語力アップを目的にした会話のコースでは、「JF日本語教育スタンダード」を導入し、Can-Doによる到達目標の設定と自己評価を取り入れました。コースに参加したのは、ハノイ市内の大学や民間の日本語学校の教師ですが、自分たちが教えている学校の学習環境とはずいぶんちがうので、私たちのセンター講座で学んだことをすぐさま応用するというのは難しいでしょう。それでも、参加者の教授力や日本語力の向上に役立ち、そして、彼らが今後教えていく上で何かしら触れるものがあったと信じています。

理科室で日本語を習ってもいいんですの写真
理科室で日本語を習ってもいいんです

 達成できないこともありました。コース修了者から要望が高い聴解の指導の講座も、さらに上のレベルの会話コースも、残念ながら開くことができませんでした。

 最後に、2003年から実施されている「ベトナム中等学校における日本語教育試行プロジェクト」ですが、この1年間で日本語を教える中学校が新たに3校増え、2010-11学年度終了時点で、全国で26の中学高校で日本語教育が実施されています。1つでも多くの学校で、1人でも多くの生徒に日本や日本語について学んでもらうための支援ができるのは大きなやりがいです。

 2011-12学年度には、いよいよ最終学年の12年生(高校3年生)まで正式科目としての日本語クラスが進みます。そして、それに合わせて、ついに12年生用の教科書『日本語12』(試用版)が完成しました。『日本語12』はベトナムの大学の教師4名と専門家1名がチームを組んで作成しました。文法に詳しい先生が留学のために抜けて、3+1名体制になりましたが、チームリーダーの先生がまとめ役となってチームを引っ張り、スターティングメンバーだった大先輩の先生と、活力溢れる若手の先生と一緒に取り組みました。いろいろなアイデアを出し合い、和気あいあいと作業をすることもあれば、ピリッとした雰囲気の中、執筆することもありましたが、一年以上かけてようやく完成することができました。これで『にほんご6』から『日本語12』まで、ベトナムの中学校(4年間)と高校(3年間)用の教科書が一通りそろったことになります。

 教科書について達成できなかったこともあります。それは、なかなか手に入らないことです。『にほんご6』から2011年8月出版の『にほんご9』までは正式版で、市販される教科書です。ベトナム人学習者のために作られ、ベトナム語の指示や説明が付いて、ベトナムの生活・文化に即して日本語を学べるものとして貴重な教材です。しかし、市場の規模が小さいためか、学ぶ生徒の数に応じてしか発行されず、一般の人が書店で目にしたり、手にとって買ったりすることが難しいのが現実です。この教科書が欲しい人なら誰でも手に入れられる、いつかそんな環境が整ってくれることを願っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
 国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
 日本語教育支援事業で特に力を入れているのが、日本とベトナム両政府が協力して進めている「中等学校日本語教育試行プロジェクト」で、中等日本語教師向け研修の実施、教科書制作、モデル中学・高校でのティームティーチング、巡回指導などをおこなっている。
 さらに、高等教育機関や民間日本語学校に対する日本語教育支援も積極的に展開していく方針で、その一環として当センターで現職教師対象の教授法講座や会話講座も開講している。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名、指導助手:2名
(うち専門家1名は、ホーチミン市に派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年

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