世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) HCMCの日本語教育

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン担当)
小松原 奈保・藤島 夕紀代

Ho Chi Minh Nihongo Speech Contest(ホーチミン市日本語スピーチコンテスト)

2013年5月12日に、毎年恒例のホーチミン市日本語スピーチコンテストが開催されました。今年はベトナムと日本の外交関係樹立40周年という記念すべき年なので、その年にふさわしいスピーチコンテストを開催しようと、ホーチミン市の日本語教育機関の教師たちが熱くなりました。ひとりでも多くの学習者に生の日本を体験してほしいという気持ちからスポンサーを集め、今年は5名の入賞者を日本へ招待していただけることとなりました。また来場者数も900人を上回りコンテストは大成功のうちに幕を閉じました。日本旅行を手にした発表者はもちろん、スピーチコンテスト実行委員会にボランティアで参加した教師たちも大きな達成感を味わったことでしょう。これからも、この実行委員会を中心として、ホーチミン市の日本語教師が協力し合える体制を築いていってほしいです。

Chuutou Project(中等プロジェクト)

ホーチミン市の中等学校日本語教師の写真
ホーチミン市の中等学校日本語教師

10年間に渡り実施してきた「ベトナム中等学校における日本語教育試行プロジェクト」(以下プロジェクト)が今年8月でいよいよ終了します。プロジェクト開始当時、まだ6年生だった生徒たちは身体も心も大きく成長し、ベトナム国内の大学進学や日本留学を果たしています。 

こうした生徒たちを育ててきたのは、他でもなく、日々生徒とともに歩んできたベトナム人教師たちです。長い教師はもう9年も基金派遣の専門家たちと、時に楽しく、時に苦しみながら、一緒に授業準備をしてきました。自分の授業スタイルを確立し、6年生から12年生までどの学年でも教えられる教師も多いです。しかし、ホーチミンの教師たちはそれでもまだ現状に満足することなく、大学院進学を目指す人、日本での研修を希望する人、また、日本語能力試験N1を目指す人と、それぞれがみな向学心に燃えています。ベトナム人教師たちが日本語能力や教授能力だけでなく教師として精神的に成長したこともプロジェクトの大きな成果だと思います。

中等学校における日本語教育はいよいよ試行段階から普及段階に移行し、今まで以上に広がりを見せることでしょう。基金はこれからもベトナム人教師を支援していきます。そして何よりベトナム人教師自らが当地の中等教育における日本語教育をますます盛り上げてくれると期待しています。

MARUGOTO(『まるごと 日本のことばと文化』)

続いて、JF日本語講座(以下、JF講座)についてご紹介します。ハノイでは2012年3月に開講したJF講座ですが、ここホーチミンでも2012年10月から総合日本語A1コースとして開講しました。JF日本語教育スタンダード準拠コースブック『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を使い、課題遂行能力と異文化理解能力の育成を目標に週2回、1回2時間の授業を行っているものです。

では、『まるごと』を使った授業はどのような授業でしょうか。「教科書がきれいで楽しい、面白い、会話をたくさん学べる、わかりやすい、覚えやすい」というのが、この『まるごと』で学んでいる受講生の反応です。しかし、その一方で、従来の学習方法(暗記と文型積み上げ式)になじんだ学習者からは、文法の練習や復習時間が足りない、という感想も聞かれます。『まるごと』の特長を活かしつつ、ベトナムの学習者に適した教え方を試行していくことが今後の課題です。また、『まるごと』を使った授業では、自律的な学習者を育てるということも求められています。ベトナムでは、教師の与えた課題や宿題をこなすという学習方法が一般的ですが、自習用サイト「まるごとプラス」を有効に活用してもらうなど、学習者が自ら学べる環境を整えていきたいと考えています。

Culture(日本文化体験講座)

JF講座は日本語の授業だけではありません。ホーチミンでは2012年9月から、日本語を使って日本文化を体験したり学んだりする日本文化体験講座も開始しました。これまでに切り紙、落語、茶道、ひなまつりを題材に講座を実施してきましたが、特に茶道は、申込開始から3日間で定員になるほど、大人気の講座となりました。私たちが教室を借りているベトナム日本人材協力センターに茶室があることから実現したこの講座ですが、講師は日本に茶道留学経験のあるベトナム人の先生にお願いしました。茶道で使う日本語を習っただけではなく、本格的なお点前でお茶をいただき、点てる体験もできましたので、大変満足度の高い講座となったようです。

年中行事で学ぶ日本語(こどもの日編)の受講生の写真
年中行事で学ぶ日本語(こどもの日編)の受講生

2013年5月には年中行事シリーズ第2弾として「年中行事で学ぶ日本語(こどもの日編)」を実施しました。講座では、色模造紙でかぶとを作ったり、折り紙でこいのぼりを作ったり、唱歌「こいのぼり」を歌ったり、こいのぼりクッキーにデコレーションするなどしました。かぶとは参加者それぞれに模様を描いてもらいましたが、勇ましいかぶとから、かわいいかぶとまで、個性あふれたものになりました。今後も大人気の「茶道」をはじめとして、「浴衣の着付けと盆踊り」「お正月」「節分」などを題材にした講座を計画しています。当センターのウェブサイトの他に、Facebookにも情報を載せていますので、どうぞご覧ください。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Viet Nam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つとしてハノイに設置された。 日本語教育支援事業を中心に、様々な文化交流事業を実施している。日本語教育支援事業の中心に、ベトナム教育訓練省と在ベトナム日本国大使館が実施する「ベトナム中等学校における日本語教育試行プロジェクト」がある。具体的には、中等学校教師向け教師研修の実施、教科書制作、モデル中学・高校でのティームティーチング、巡回指導などが挙げられる。また、ホーチミン市でも2012年9月よりおもに一般成人を対象としたJF日本語教育スタンダード準拠日本語講座および日本文化体験講座を開始した。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Viet Nam
国際交流基金からの派遣者数 専門家:2名、指導助手:1 名
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
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