世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 感心・感動・感激ハノイ!!!

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター
有馬 淳一・雄谷 マユミ・石橋 美香

日本語教育試行プロジェクト

2003年に開始された「ベトナムの中等教育における日本語教育試行プロジェクト(以下、プロジェクト)」が10年目を迎えている。プロジェクト実施期間は2003年から2013年までとなっているが、今後もベトナム中等教育での日本語教育は継続される。この節目の年におけるプロジェクトの現在についていくつか報告したい。まず今まではハノイ、フエ、ダナン、ホーチミンの4都市で行われていたが2012年11月よりビンディン省クイニョンの高校でも日本語教育が導入され、計5都市に増えた。また、国際交流基金からの派遣者もハノイ、ホーチミンに加え中部のダナンにも派遣されるようになった。そして教科書については2012年9月より高校2~3年生用教科書の『日本語11』および『日本語12』の2冊の改訂を行っている。2013年9月の新学期には生徒たちが両教科書の市販版を手にできるよう作業を進めており、いよいよ中等教育期間の全てをカバーする『にほんご6』から『日本語12』の市販版がそろうことになる。

業務紹介

いつも元気いっぱい!の写真
いつも元気いっぱい!!この元気を分けてもらっています。

派遣専門家の担う業務の一つに授業担当がある。これはプロジェクトの学校でベトナム人日本語教師と一緒に組んでティーム・ティーチングを行うものである。教案作成に始まり、教材作成、授業実施、授業の振り返りなど一緒に組む教師によってサポート内容は異なる。授業内でも日本の文化紹介、会話練習、アクティビティなど日本人教師に求められる役割は様々である。

ハノイの中学校へティーム・ティーチングに入って感心させられたことがある。それは日本語の授業に参加する生徒たちの姿である。授業中、黒板に答えを書いてもらおうとすると「はい、はい!!」とクラス中から手が挙がる。どうしても教師に当ててもらいたいと立ち上がって手を挙げている生徒もいる。中には当てられて黒板の前に出て来ても、チョークを持ったまま固まってしまう生徒もいる。そして恥ずかしそうに笑いながら自分の席に戻ることも。しかし1度答えられなくても決してめげることなく、リベンジとばかりに手を挙げ続けるのである。自身の中学生時代を振り返るとあまりの違いに反省させられる。生徒たちの授業に対するこの積極性をこれからも大切にしていきたいと思っている。

この1年で生徒たちの最も顕著な成長が見られたのが「第2回ハノイ日本語のうたコンテスト」である。ハノイの中学高校で日本語を勉強している生徒たちが日本語の歌を歌うコンテストである。1人で歌う生徒もいれば、20人以上で歌うグループもいた。やっとひらがなを覚えた段階の生徒たちにコンテストで歌う歌を聞かせた時は「難しい」「早い」などの声が上がり不安そうにしていた。しかし2~3週間の練習の間に自分たちの歌だけではなく、他のクラスの歌まで一緒になって歌えるようになっていた。コンテストに出場した生徒の中には日本語が得意な生徒もいれば、不得意な生徒もいたがみんなが大きな声で元気よく楽しそうに歌っている姿にとても感動した。

学校へ行くと、どんなに遠くからでも私の姿を見つけた生徒が「せんせい、こんにちは」と手を振って挨拶してくれる、そんな彼らが私の元気の素である。これからも日本が大好き、日本語が大好きと生徒たちに言ってもらえるよう努力していきたい。

「〇〇で学ぶ日本語」講座

「UDONで学ぶ日本語」講座で作った讃岐うどんの写真
UDONで学ぶ日本語」講座で作った讃岐うどん(かき揚げ付)

2か月に一度、「〇〇で学ぶ日本語」と称しさまざまなテーマを題材に文化系講座を開講している。たとえば、「切り紙で学ぶ日本語」、「落語で学ぶ日本語」、「生け花で学ぶ日本語」など。2012年12月には「UDONで学ぶ日本語」を実施した。うどんの麺は製麺を使わず参加者たちに打ってもらい、きちんとコシのある本格的な讃岐うどんができあがった。お味の方はというと、感激する美味しさだった。自分たちで一から作ったのでより美味しく感じたのかもしれない。ちなみに、うどん作りの材料はすべてベトナムで調達できたものだったため、参加者たちはまた自分たちだけで作ることができる。また2013年5月に行われたのが「年中行事で学ぶ日本語(こどもの日)」だ。今までは一般向けだったが、テーマが「こどもの日」ということでハノイの中等教育機関で日本語を学ぶ生徒たちを対象に実施された。この日のワークショップでは紙コップを使った工作があったり、「こいのぼり」を歌ったり、最後は「おにのパンツ」を一緒に踊ったりと盛りだくさんの内容だった。参加した生徒たちからも非常に好評であった。今後も様々な「○○で学ぶ日本語」でハノイに日本文化を広めていきたい。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
 日本語教育支援事業で特に力を入れているのが、日本とベトナム両政府が協力して進めている「ベトナムの中等教育における日本語教育試行プロジェクト」で、中等日本語教師向け研修の実施、教科書制作、モデル中学・高校でのティームティーチング、巡回指導などをおこなっている。
 さらに、高等教育機関や民間日本語学校に対する日本語教育支援も積極的に展開しており、その一環として現職教師対象の講座を開講している。
 また一般人対象のJFスタンダード準拠日本語講座も開講している。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:4名 指導助手:4名
(うち専門家2名と指導助手1名は、ホーチミン市に、指導助手1名は、ダナン市に派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
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