世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ベトナム南部の日本語教育

国際交流基金ベトナム日本文化交流センター(ホーチミン担当)
佐藤直樹・池田亜季子

日本語学習者の拡大

ここホーチミン市では2004年から中学校での日本語教育が始まっており、中学6年生から高校12年生まで通算7年間の日本語教育が中等教育段階で実施されています。(中学校は4年制‐6~9年生、高校は3年制‐10~12年生)

2016年6月現在ベトナム南部においては、ホーチミン市で中学校2校、高校3校、ビンズオン省では中学校6校、高校4校、バリアブンタウ省では高校6校で日本語教育が実施されており約5200名の生徒が日本語を学んでいます。2016年8月の新学期から新たに日本語教育を導入する機関があることから機関数も増えつつあります。

また、2016-17年度より小学校3年生からの日本語教育も開始されることになります。次年度はハノイ市において2校の小学校で始まる予定です。その後、順次各都市においても開始されることが見込まれるため学習機関及び学習者の拡大は今後も見込まれます。

HCM市高校生日本語コンテスト開催

第12回目を迎える「ホーチミン市中学生日本語コンテスト」(昨年度の記事参照)の実施に併せて、初めて高校生を対象とした「ホーチミン市高校生日本語コンテスト」を開催しました。

中学生対象のコンテストは「文字の綺麗さ」を競うものですが、高校生は自由な発想と創作性を競うものにしたいという実行委員会であるホーチミン市中等日本語教師会の意向によりグループでポスターを制作するというものになりました。

課題は「日本語と私」、A1サイズの作品制作。グループは3~4名とし、学年と学校を超えたグループ編成も可能とした点がこのコンテストの大きな特徴です。

完成した作品は、主催者側の想像を超えたものが多々あり立体的な作品や教科書や小窓の中に更に作品が隠れているものなど生徒たちの想いが詰まった素晴らしいものが計74点集まりました。

このように日頃の日本語学習の成果を発表できる場を教師会のメンバーが作り上げることができたことが非常に素晴らしく、今後も継続してゆければと思っています。

高校生日本語コンテスト入賞作品4点を並べた画像
高校生日本語コンテスト入賞作品

JF日本語講座

2012年からホーチミンで始まった『まるごと』を使用したJF講座も軌道に乗り始め、現在では、3コース中、2コースが中級(B1)コースとなりました。ホーチミンのまるごと学習者は、Can –doに基づき、自分たちにできること、できないことを自覚し、日々、日本語学習に励んでいます。

「発音の学習をもっとしたい!」という学習者の要望に応え、発音の特別レッスン「まるごと発音クリニック」を開催することになりました。

また、ホーチミンのまるごと学習者は踊ることが大好きなので、日本語の歌詞やリズムから踊りを考え表現することも日本語学習の一環として取り入れられ、「まるごとダンサーズ」が誕生しました。踊りを通して、自己表現をするだけではなく他者との協調性を身につけることも日本語学習の中でも生かされているように思えます。

2016年の夏頃から、中級2(B1)のコースが開講予定ですが、ホーチミンのまるごと学習者らしさを保ちつつ、なお一層、日本語学習に精を出してくれるよう期待しています。

文化体験講座

ベトナムでの日本語ブームにより、二か月に一回開催されている文化体験講座は、申し込み開始と同時にすぐに参加者枠がいっぱいになってしまうことが多々あります。

2015年度は、茶道、生け花、浴衣・盆踊り、和菓子作り、お正月、節分・ひな祭りに関する講座が開催されました。

「お正月」の文化講座では、「うちわに一文字」というキャッチコピーで参加者が自分の好きな漢字を一文字、真っ白なうちわに心を込めて執筆するという活動を行いました。ベトナムの文化体験講座では、文化と言語の接点を参加者に考えさせるという大きなテーマを掲げているため、お正月の書き初め文化となぜその漢字を選んだのか、その漢字にはどんな意味があるのかという言語的な部分が融合した文化体験講座であり、参加者からも好評でした。

そして、「節分・ひな祭り」の文化講座では、前述の「まるごとダンサーズ」が踊りを披露することにより、参加者を喜ばせることだけではなく『まるごと』の広報活動としても活躍してくれました。

2016年度は、「伝統文化」「生活文化」「現代文化」という3本柱で、文化体験講座を展開していく予定です。「まるごとダンサーズ」も手作りのおそろいのはっぴを着て、活動してくれると言っているので、今後のホーチミンの文化体験講座は、大きな発展期を迎えています。

文化講座(うちわに一文字!)で制作したうちわ等成果品を掲げた集合写真
文化講座(うちわに一文字!)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Viet Nam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つとしてハノイに設置された。
日本語事業のほか、文化芸術、日本知的交流事業を実施している。日本語教育支援事業の中心にベトナム教育訓練省が実施する「外国語教育プロジェクト2020」があり、中等日本語教師向け研修の実施、教科書制作、モデル中学・高校でのティームティーチング、巡回指導などを実施している。また、ホーチミン市でも2012年9月よりおもに一般成人を対象としたJF日本語教育スタンダード準拠日本語講座および日本文化体験講座を開始した。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Viet Nam
国際交流基金からの派遣者数 専門家:2名(ホーチミン)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
What We Do事業内容を知る