世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)古都フエでも学ばれている日本語!

ベトナム日本文化交流センター
近藤麻衣子

古都フエ

私の赴任しているフエはベトナム中部に位置し、ベトナム最後の王朝、グエン王朝の都が置かれていた街です。ベトナム戦争時は激戦地でもあり、王宮も大部分が破壊されてしまいましたが、現在少しずつ再建が進み、世界遺産の史跡群を求め、世界中からの観光客が立ち寄る場所となっています。また、フエの人々は都市部と違い、ベトナム伝統文化の継承、独特の方言など、古き良き時代をそのままに残す古都フエを誇りに生活をしています。

フエの日本語教育

こんな時間がゆっくりと流れている街でも、日本語教育が行われています。私の主な担当は“日本語パートナーズ”派遣事業でベトナムに赴任されている“日本語パートナーズ”の方への教務支援と中学校と高校で行われている日本語教育の支援です。フエでは2008年から3校の中学校で日本語教育が開始され、現在は中学校5校、高校3校で14名のベトナム人教師が日本語を教え、1000名以上の中高生が日本語を学んでいます。その他、2つの高等教育機関、民間の日本語学校などでも日本語が教えられています。

日本語を学び始めるのは中学1年生(日本の小学校6年生にあたる)。授業中も元気いっぱいです。「先生、私を指して!」と時には立ち上がって、手を挙げます。日本語を楽しく学んでくれている様子を見に行くと、いつもとても嬉しくなります。執務室を置かせてもらっている中学校でも6年生が廊下を通るたびに「先生、おはようございます!」と挨拶に来たり、季節の掲示物を声に出して読んだり、見入ったりしている可愛らしい様子を見るのが私の楽しみの一つになっています。

授業中、元気に手を挙げる子供たちの画像
授業中、元気に手を挙げる子供たち

ベトナムはとても親日的な人が多く、日本の「マンガ」や「アニメ」と共に育ってきた世代が増えてきています。最近では「バイン・カー(菓子・魚)」とベトナム語になったベトナム風「たい焼き」や「バイン・バックトゥオック(菓子・タコ)」が大人気です。また、ベトナム人が経営する日本食レストランも増えてきて、日本語を勉強していない人達の間にもマンガやアニメ、日本の食文化を通じて、ベトナムにごく自然に日本の文化が広がってきています。

一方で、ポップカルチャーだけではなく、日本語を学ばせている保護者や校長先生からは日本人の礼儀正しさや道徳心の高さへの評価が高く、将来の留学や仕事の為だけではなく、自分の子どもも日本人のような礼儀正しい子に育てたい、と日本語を学ばせる保護者も少なくありません。

“日本語パートナーズ”の活躍

フエのような地方都市では、外国人観光客が多くても、インターネットが普及し、いつでも日本の情報を読むことが出来たとしても、日本語を使う機会は教室の中だけに限られ、生徒たちが日本人と直接コミュニケーションをする機会はこれまでほとんどありませんでした。ですが、2014年12月からベトナムでも開始された“日本語パートナーズ”派遣事業により、少しずつ日本人と接する機会が増えてきています。“日本語パートナーズ”はベトナム人日本語教師のパートナーであるとともに、生徒のパートナーでもあり、この存在はベトナム人教師にとっても、生徒にとっても日本人と日本語で話す貴重な機会になっています。

若い新人日本語教師の中にはまだ日本に一度も行ったことがないけれど、日本語や日本文化を教えている先生もいます。こうした先生たちにとって、“日本語パートナーズ”はとても頼りになる存在です。自分の日本語力アップだけではなく、授業へのアイディア、生徒への日本文化紹介などを一緒に行うことで、先生たちも教師として成長してきていると感じます。

生徒が作ったキャラおにぎりの画像
生徒が作ったキャラおにぎり

また、生徒にとって“日本語パートナーズ”が定期的にクラスへ来てくれることで、日本語を使う機会は格段に増しましたし、体験型の日本文化紹介の時間ができたことで、日本文化を知るだけでなく、作った作品が思い出になったり、その作品を家族や友だちに見せたり、SNSなどのインターネットツールに載せたりと、教室の中だけではない広がりを見せています。これまで、フエでは体験型の文化紹介として、「浴衣」「料理」「折り紙」などの一般的なものから、「和紙染め」「茶道」「キャラおにぎり作り」「流しそうめん」などの新しいことにも積極的に取り組んできました。今後もより一層、生徒たちが今の日本に触れる機会を“日本語パートナーズ”の方と共に増やしていければと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Center for Cultural Exchange in Vietnam
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金の海外拠点の一つで、日本語事業のほか、芸術文化、日本研究・知的交流の分野で文化交流事業を実施している。
日本語教育支援事業で力を入れているのが、日本とベトナム両政府の協力による「ベトナム外国語教育刷新プロジェクト2020」であり、小中高のカリキュラム・教科書作成、教師研修を行っている。また「中等学校日本語導入プロジェクト」では、教師向け研修の実施、巡回指導などを行っている。
さらに、高等教育機関や民間日本語学校に対する日本語教育支援も積極的に展開しており、その一環として現職教師対象の講座を開講している。
また一般人対象のJFスタンダード準拠日本語講座も開講している。
所在地 27 Quang Trung, Hoan Kiem, Hanoi, Vietnam
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:5名、指導助手:3名
(うちホーチミン市:専門家2名、フエ市:専門家1名、ダナン市:指導助手1名派遣)
国際交流基金からの派遣開始年 2008年
What We Do事業内容を知る