世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)地方でも日本語頑張っています!

バリアブンタウ大学
笹村はるか

バリアブンタウ?

日本からの旅行先として人気のあるベトナムですが、“バリアブンタウ”という地名をご存じの方はまだまだ少ないと思います。私が派遣されているバリアブンタウ省ブンタウ市は、大都市ホーチミンからバスで約2時間半、のんびりとした海のきれいな町です。バリアブンタウの沖合では石油・ガスが採掘され、重要なエネルギー拠点となっています。日本企業誘致も進められていることから、省としても日本語教育に力を入れており、現地には第二外国語として日本語が導入されている高校もあります。

新しい大学校舎の画像
新しい大学です 

バリアブンタウ大学は省唯一の4年制高等教育機関で、2006年設立の比較的新しい私立大学です。まだまだ歴史も浅いため、大学としての目標・方向性が明確ではない印象で、数か月後どのような体制になっているのか予想がつきません。しかし、方向性が定まっていないため新しいことを始めやすいという利点もあります。その一つが、理系学生への日本語学習機会の広がりです。これまで日本語授業は、日本語専攻の学生と、第二外国語として学ぶ英語専攻の学生のみが対象でした。それが今夏からは理系を含む他学部の学生も対象となったのです。突発的で急な提案でしたが、担当ベトナム人日本語教師と共に頭を悩ませながら新しい授業、カリキュラム作成に向けて動き始めています。

私はここで、学生への授業、勉強会を通した教師支援、カリキュラム整備の三つを主な柱として現在活動しています。

“頑張る”学生たちと“頑張りたい”学生たち

日本語専攻の授業はクラスによっては40人近くになり、校内にいると言葉や文型をリピートしている大きな声が聞こえてきます。ただ、40人近くもいるため、どうしても講義形式になりがちで「日本語を使う」という時間がとれないのが現実です。日本語を使いたいという思いの強い学生は、日本人教師と積極的に交流したり、フェイスブックで日本語を使ってやりとりを楽しんだりしています。また、授業外の時間に大学の空き教室や共有スペースでは小グループになって勉強会をしたり、一人で黙々と勉強したりする学生の姿を見かけることが多いです。「日本語の先生になりたい」「通訳になりたい」「日本に留学したい」と卒業後の目標を持っている学生は時間を見つけて学習に取り組んでいます。

キャッチアップクラスはグループで!の画像
キャッチアップクラスはグループで!

一方で、「日本語が勉強したかったわけではない…」という学生が多数存在するのもこの大学の一面であり課題です。その学生たちに対する取り組みとして、今学期はキャッチアップクラスを設定しました。普段は大人数クラスの中に埋もれてしまい、わからないことをそのままにしていた学生に、気兼ねなく質問したり相談したりしてもらおうというのが狙いでした。このクラスは私が担当していますが、日本語教師志望の4年生がサポーターとして毎週活躍してくれています。先輩が相手ということで参加学生も緊張せずに質問ができています。また、クラスに参加している学生にとってはこの4年生たちがとてもいい身近なロールモデルでもあるはずです。

キャッチアップクラスは対症療法でしかありません。キャッチアップが必要な学生が少しでも減るように日本語専攻の授業、カリキュラムを改善していくことが第一です。ただ、自信が持てない学生がリラックスして学習に取組める機会として、形を変えながらもこのような場を設定し続けたいと思います。

忙しいベトナム人日本語教師

ベトナム人教師は授業や会議、また家事・子育ても抱えており、非常に多忙な毎日を送っています。忙しい中、自信を持って中級以降が教えられるよう、授業準備を兼ねた勉強会を毎週実施しています。開始当初こそ私がひっぱり私が説明するという形でしたが、今では、抽象的な言葉をどのように学生に説明したらよいか、どのような例文を出せば学生が理解できるか、毎回ベトナム語で議論が行われています。ベトナム語でのやりとりは私にはわかりませんが、笑いながら、時には言い合いながら、きっと深い話をしているのだと思います。時間はかかりますが、本当の意味での「勉強会」になっている気がします。

今後の課題と目標

学生たちに対して、そしてベトナム人教師に対しても、「場を作ること」が私の仕事ではないかと思います。学生が日本語を使う場、学生が日本語で発信する場、学生が自信をつける場、教師が勉強する場、教師が自信をつける場、教師同士がつながる場。場さえ作れば、相手は大学生と教師です。こちらから促せば、学生から、教師から、バリアブンタウ大学に合うアイデアは出てくるのではないかと思います。

次回、このレポートを書く時に、そのアイデアが一つでも二つでも形になりましたという報告ができるよう、大学の一員として学生、ベトナム人教師に寄り添いながら日々の活動に取組もうと思います。

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