世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 夢が叶う時

バクー国立大学
黒岩 幸子

現地人教師の授業風景の写真
現地人教師の授業風景

 当大学で日本語を学んだある学生の言葉です。

 「私たちの夢は、クラスメートの全員がいつか日本で会えることでした。それが実現するなんて、本当にうれしい。」日本から遠く離れたコーカサスの小国アゼルバイジャンでの日本語教育ですが、NIS専門家派遣4年目にして、夢が実現しました。

 北海道よりやや大きい面積を持つアゼルバイジャンは、グルジア、アルメニアと共にコーカサス地域を形成しています。日本からは地理的・心理的に遠いコーカサス地域ですが、規模こそ小規模ではあるものの、着実に日本語教育が根付きつつあります。

 アゼルバイジャン初の専門的に日本語が学べる機関として、バクー国立大学に日本語講座が開講されたのが2000年9月、その翌年にNIS専門家派遣が始まり、今年6月に4年目の終了を迎えます。つまり、専門家が入学時より指導を行った学生が初めて卒業を迎えることになり、冒頭の言葉はその学生によるものです。

 専門家派遣が始まった当初は専用の教室も教材もなく、まさに無い無い尽くしのところからのスタートであったようですが、現在は日本語専用LL教室ができ、コンピューターを使用した自習まで行えるほど学習環境は整備されました(文化無償による)。また学内組織においても、以前はアラビア語学科内に組み込まれていたものが、極東言語学科が新たに作られ、日本語講座は中国語講座とともに極東言語学科を形成し、学内での立場も強固なものとなりました。

 もちろん、ここに至るまでには、その陰に各専門家の努力があったことは言うまでもありません。当講座には講座自体が開講した翌年に専門家派遣が始まっているため、旧ソ連他の地域でしばしば聞かれるような「日本学の権威の先生たちはなかなか新しい教授法を受け入れてくれなくて」等の問題に頭を悩ます代わりに、「日本語教育」への理解を大学内関係者へ訴えるところから始めなければなりません。

 派遣先機関は、よく言えば「専門家が柔軟に業務が行える」、悪く言えば「全部、日本からの専門家がお好きなようにどうぞ」との姿勢が見られます。日本語講座への理解と支援を学科長とともに大学へ要請しつつ、全学年の授業をチームティーチングで行い、学習状況を見ながらの進度調整、必要であれば現地教師へのアドバイスを行う等、日々の授業を質の高いものに保たなければなりません。これ以外にも、シラバス・カリキュラム整備から始まり、テスト作成、課外活動、学内外への日本語講座のアピール、邦人社会とのパイプ役等、日本語講座の多くが現状では派遣専門家の手にかかっているといっても過言ではない状態です。派遣専門家が行っている業務が少しずつ現地教師にシフトする「現地化」が進むと、アゼルバイジャンの日本語教育も「第2段階」へと発展を見せるのでしょうが、大学講師の月給が40$のこの国では、教職より企業を目指す傾向が非常に強く、「第2段階」への移行にはもう少し時間がかかると思われます。学習者の将来は学習者自身が決めることでありますが、日々努力する教師の背中を学習者へ見せ続けることが、今後も必要であると思われます。

第2回コーカサス弁論大会の一こまの写真
第2回コーカサス弁論大会の一こま

 ここで、学外へ目を向けてみましょう。当国における派遣専門家は、当国唯一の日本人日本語教師でもあり、学外の日本語教育機関へも必要に応じた支援を行うことは、公的派遣者の重要な業務のひとつであると思われます。当国ではなかなか広がりが見えなかった日本語教育でしたが、ようやく昨年、バクー市内中等教育機関(選択科目)、一般成人向けの日本語講座(16週間)が新たに開講されました。このいずれもで、筆者の派遣先機関の学生が講師をつとめていますが、学生が自分の学んだ日本語を生き生きと教えている姿を見るのは、業務上の困難を忘れさせてくれるひと時だと言えるでしょう。

 また、筆者のポストはコーカサス地域唯一の公的派遣者であるとも言えます。2003年に行われた第1回大会に続き、2005年3月には「第2回コーカサス弁論大会」がグルジアで開催され、筆者は派遣先学生の弁論指導の他に、隣国より大会開催実施補助を行いました。日本との接触が希少なコーカサス地域では、学習者のモチベーション維持・向上のために、このような大会は非常に重要な機会であり、今後も大会実施を続けていくことがコーカサス地域の日本語教育の活性化にもつながると思われます。

 さて、冒頭の学生ですが、日本からの留学・研修プログラム4名、日本企業就職者2名(日本採用)、アゼルバイジャン文化省の業務1名と、4年生全7名がそれぞれの滞在目的でこの5月、日本で再会することができました。

 学生の夢は教師の夢でもあります。今後、学生のより大きな夢が叶うことを祈りたいと思います。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
専門家は、日本語の授業を担当するとともに、カリキュラム整備、現地教師のバックアップを行う。派遣先機関は、2000年に開講され、国内唯一の、専門的かつ継続した日本語教育を行っているが、中上級以上の指導が行える次世代の日本語教師の育成が必要である。今後は、バクー市内他の教育機関、コーカサス地域の他の教育機関との連携も念頭におき、コーカサス地域全体の日本語教育の中心の役割を果たせる機関として発展することが望まれる。
ロ.派遣先機関名称 バクー国立大学
Baku State University
ハ.所在地 370145 Azerbaijan Baku Z.Khalilov St. 23
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家: 1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
東洋学部 極東言語学科 日本語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2000年9月
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2001年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち 邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年8名 2年5名 3年10名 4年7名 修士1年 4名
(2) 学習の主な動機 日系企業への就職 伝統文化への興味
(3) 卒業後の主な進路 日本企業への就職 (日本採用)日系企業、現地通訳
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験1~2級
(5) 日本への留学人数 本年度7名

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