世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) アゼルバイジャンで日本語!?

バクー国立大学
立間 智子

アゼルバイジャン

 アゼルバイジャンはカスピ海に面した北海道ほどの国で、グルジア、アルメニアとともにコーカサス地域を形成している。トルコ語とほぼ同じ言語、テュルク語系アゼルバイジャン語を用い、文化的、民族的にもトルコと非常に近い。人々は人懐こく、好奇心旺盛でコミュニカティブである。旧ソ連時代の影響から、首都バクーではロシア語が広く使われ、イスラム教国だがロシア正教のクリスマスにはツリーが街並みにお目見えする。様々な文化や習慣、民族が混在する地域である。

 首都バクーでは、主要産業である石油関連ビジネスの外国人が多数滞在しているため、若年層ではロシア語に代わり英語教育が主流となってきている。「昔はロシア語ができないと仕事がなくて、今は英語ができないと仕事がない」。年配のタクシードライバーの言葉は、アゼルバイジャンが変換期にある現状を映し出している。

「遠い国」における日本語教育の役割

 2006年3月のアゼルバイジャン大統領の訪日、今後の経済協力強化などの背景を受け、当地における日本への関心は高まっており、日本語学習希望者は確実に増えてきている。

 一方、アゼルバイジャンの在留邦人は希少であり、日本語の実用場面も日本語を生かした職もほとんどない。しかし、日本語学習者の学習動機は「日本企業で働きたい」「将来、就職に役立つ」など実益に直結している。学習者はいずれ理想と現実とのギャップに目標を失ってしまう。学習者が「日本語を学んでよかった」と思えるように、日本語教育には何ができるのだろうか。

 日本と物理的にも心理的にも遠いと感じられる地域の日本語教育だからこそ、日本語学習者は重要な鍵を握っていると筆者は考えている。日本をはじめ世界において、日本と物的、人的交流のあるコミュニティーに対して日本語を用いて自ら発信することができる。或いは、その橋渡しとなることができる。それは双方向の流れを生み出し、相互理解の源泉となり得る。アゼルバイジャンの日本語教育は実用の手段という小さな枠組みではなく、相互理解や個々の自己成長という大きな枠組みで捉え、その一助として果たせる役割があると考えている。

アゼルバイジャンの日本語教育

後期授業最終日、笑顔の1年生の写真
後期授業最終日、笑顔の1年生

 現在、アゼルバイジャンにおける日本語教育機関は筆者が所属するバクー国立大学のみである。日本の支援による日本語専用LL教室、コンピューターが完備され学習環境には非常に恵まれている。また、国立の年少者教育機関(初中高一貫教育・452制 6,7歳~17,8歳)1機関において、クラブ活動として実施されてきた日本語コースが正式な選択履修科目として加わることになった。バクー国立大学の学生が教師を務め、筆者は随時アクティビティー実施や学校側との懇談のため訪問している。

 アゼルバイジャンにおける日本語教育は5年と浅く、小規模ではあるが着実に発展している。現在、複数の大学において日本語学科開設へ向けた動きがみられる。近い将来、新たな日本語教育機関が開設され、修了生が教職に就くことによって日本語や日本関連分野の研究者育成にも繋がると考えられる。

風の町から発信

大学にて学科発表会(アゼルバイジャンと日本の衣装で)の写真
大学にて学科発表会
(アゼルバイジャンと日本の衣装で)

 当大学においては学習者のモチベーションの多様化に向けた活動を行っている。日本への文化的興味の向上、視野を広げ積極性と自立性、発信能力を養う機会を提供することである。具体的活動としては「バクー日本語弁論大会」、日本大使館に場所を提供いただき新たに月1回開催している「日本語会話クラブ」、経済や産業などをテーマにしたビジターセッション、当学キャンパスツアーなど当大学学習者と邦人とのコミュニケーションの場を設けた。また書道大会、和歌発表会、日本・アゼルバイジャン料理体験など学習者と邦人二者間にとどまらず、現地社会へ向けた発信を意識して行っている。現在、学習者が自主的にサークル活動やコンサートの企画、日本語学科HP作成を思案中である。

 風の町(「バクー」はペルシャ語で「風の町」という意味)から、カスピ海の風に乗って日本語によるメッセージが皆さんの元にも届くかもしれない。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
バクー国立大学日本語講座は2000年に開講され、国内唯一の専門日本語教育機関である。ジュニア専門家の主な役割は、学習者、教師の日本語能力の向上、学習環境の整備、現地教師への専門的指導と補助、新しい人材の育成など、総合的なコーディネートと、緻密なサポートである。邦人社会、現地社会とのパイプ形成も需要である。首都バクーはじめ地方都市における日本語教育の普及が求められる。また、グルジア、アルメニアを含むコーカサス地域全体の日本語教育の核となるよう連携強化に努めている。
ロ.派遣先機関名称 バクー国立大学
Baku State University
ハ.所在地 370145 Z.Khalilov St.23, Baku, Azerbaijan
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
東洋学部 極東言語学科 日本語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2000年9月
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2001年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名(うち邦人0名)  非常勤1名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   37名(1年8名 2年12名 3年5名 4年12名)修士7名
(2) 学習の主な動機 日本企業、日系企業への就職希望、日本への憧れ
(3) 卒業後の主な進路 日系企業就職、通訳、母校に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験1~2級
(5) 日本への留学人数 長期1名、短期2名

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