世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)「それ、やってみましょう!」

バクー国立大学
須藤展啓

北にロシアで南にイラン、西はジョージア・アルメニア・トルコ、東にはカスピ海を挟んで中央アジア、そんな文明の交差点のような場所に位置する国、それが「火の国」アゼルバイジャン共和国(以下アゼルバイジャン)です。公用語はアゼリ語ですが、ロシア語も通じればトルコ語も大体通じるという、多様かつ寛容な言語環境を持つ国です。

そのアゼルバイジャンでも日本語教育は行われています。特にバクー国立大学とアゼルバイジャン言語大学という2つの大学では、日本語を専門とする学生達が日々切磋琢磨しながら勉強しています。私はバクー国立大学に籍を置いて日々の業務を行っているのですが、試行錯誤を繰り返しているうちに派遣一年目が終わろうとしています。

「日本語学習者同士が楽しみながら交流できる機会をもっと増やせないかな……。」、アゼルバイジャンに来てまず考えたのはそれでした。もちろん必要とされていない交流を無理に作ることは望ましくありません。ですが、学習者同士の交流の機会が年一回の日本語弁論大会と月一回の日本語会話クラブだけという状況は、改善の余地があるように思えました。

弁論大会のような緊張感のある催しだけではなく、大勢の人が楽しみながら大学間の繋がり・学年間の繋がりを増やすことで当地の日本語教育が活性化すればと思い、様々な人に意見を聞きました。アゼルバイジャンには日本語教師会がまだないので正式な意見交換や合議の場があるわけではないのですが、アゼルバイジャン人の先生方や日本大使館の方、そして学生達にもことあるごとに相談し、様々なアイディアを出してもらい、実現できそうな案を「それ、やってみましょう!」と形にしていきました。

学生のアイディアで日本留学経験者に生け花の授業をやってもらったり、土曜日に浴衣や折り紙の日本文化サークルを定期的に行うようになったのもその一つです。留学経験者にとっては自分の経験を伝達する場として、後輩の学生にとっては日本文化習得の場として、楽しく交流ができるようになりました。

日本留学経験者による生け花の写真
日本留学経験者による生け花の授業。

日本文化祭

そのような活動の一つの集大成として4月に日本文化祭を行いました。国立大学・言語大学の学生がホスト側となり、大学の卒業生や個人学習者、中等機関の子どもたち、在留邦人の方をゲストとしてお迎えし、学習成果として日本文化を発表するお祭りです。一つ一つの演目や展示にも同僚の先生や学生達と合議を重ね、工夫をしてみました。

「文化祭で劇をやるのはどうでしょう。新しい語彙も覚えられるし、発音の改善にも役立ちますよね。」

「でも学生達は人前で演技するのを恥ずかしがるし、衣装も立派なものは準備できませんよね。どうしましょうか。」

「人前に出なくてもいい劇ですか。じゃあ人形劇にしましょうか。」

桃太郎の人形劇の写真
前髪が乱れていますが桃太郎です。

そうして人形劇で日本の昔話を演じました。地元の人形劇場に発注したので日本人から見るとデザイン上少し気になる点もあるかもしれませんが、とても楽しく人形劇ができました。この文化祭には200名以上の来場者があり、学習機関に所属せず個人的に日本語を学習しているような発見しにくい学習者も当地に多数存在することが分かりました。

このイベントの他にも、「こんなことやったらおもしろいんじゃないですか」というアイディアの種火を日頃、多くの方からいただいています。日本大使館にもご協力いただき、大使館広報文化室をお借りしての大学合同授業や、大使館員の方による両大学での日本事情セミナー、日本映画上映会など、学習者のために様々なご支援をしていただいております。また、上記のようなイベントだけではなく、教師一人一人の研修や、アゼリ語対応の副教材の作成など歴代の専門家の先生が行ってきた活動も継続中です。完成した副教材に関しては日本の教材出版元の許可を取り、学内での印刷・出版作業を進めています。

そして貴重な研究発表の機会である第3回コーカサス日本語教育セミナーの準備も始まりました。現在は漢字学習の工夫について、複数の教師の問題意識が集中しています。私もまだまだ知らないことばかりで勉強の日々です。これからも歴代の専門家の先輩方が繋げてきたことを着実に進めつつ、微力ながら当地での日本語教育の普及・発展に努めたいと思います。

What We Do事業内容を知る