世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ベラルーシ国立大学における日本語教育(2004)

ベラルーシ国立大学
神吉宇一

ベラルーシ国立大学授業の写真
ベラルーシ国立大学授業

 ベラルーシ国立大学への専門家派遣は、2002年 9月から始まり、現在、派遣2年目が終わろうとしています。

 専門家として、現地の日本語学習環境を整えるために、試行錯誤の連続から少しずつ環境の改善を図っていっています。 ベラルーシ国立大学では、専門家は、週に 10 時間の授業を担当するとともに、カリキュラム開発や、他教師の授業へのアドバイス、教師研修などを行います。本大学では、国際関係学部の中に日本語専攻コースがあります。当国際関係学部は、ベラルーシの政治や外交の場で活躍出来る人材を育成することを目指しています。そのため、本大学での日本語教育の位置づけは、日本語が話せるということにとどまらず、日本の政治や経済、外交問題、文化、歴史などについても造詣が深い知日家を育成することです。そして、ベラルーシと日本との、国家レベルでの交流を担う人材を輩出することにあります。

 従来、日本語は国際関係学専攻の学生の「選択外国語」という位置づけでした。しかし、専門家派遣が始まった 2002 年度と時を同じくして、日本語・日本学主専攻コースが新設され、専門的日本語教育が本格的に始まりました。

 派遣一年目であった昨年度は、新しい教科書の導入、各教師の授業分担の明確化、一学年を複数の教師で担当する、いわゆる「チームティーチング方式」の導入などを図りました。そして、非常にラフな形ではありますが、カリキュラムの策定も行いました。その結果、授業内容の偏りや、クラスによる日本語能力の偏りがなくなり、日本語コース全体の日本語能力の底上げに成功しました。このように、一年目はいわば「変革期」であったと言えます。そして、二年目の今年度は敢えて言うならば「第一次安定期」と言えるでしょう。今年度は、昨年度からの流れを踏襲し、事前にある程度策定したカリキュラムをもとに、チームで日本語教授に取り組んでいます。その結果、授業分担や各授業の位置づけの明確化が、ごく自然に実現できました。そしてカリキュラムという大きな枠組みに基づいて、さらに新たな教材を導入したり、授業内容を変革したりしました。今後は、各教師の日本語教育実践をより一層洗練させていき、質の高い日本語の授業を提供していく必要があると思われます。

ベラルーシ国立大講座スタッフの写真
ベラルーシ国立大講座スタッフ

 ところで、日本語の授業が徐々に形になって来るにつれ、新たな問題点も見えてきました。それは、日本学の授業をどのようにしていくかということです。当地の現地人日本語教師は、みな日本研究の専門家であり、高度な日本語能力と、日本に対する専門的な知識を有しています。例えば、日本の民俗学、宗教学、華道、武道、文学などについてです。しかし、現在はその先生方の専門性が十分に発揮されるカリキュラム編成にはなっていません。日本語の教育について徐々に形ができつつある今、それと平行して、これら諸先生方が有している高度な専門性を、どのように生かしていくかも考えなければならないでしょう。そして、そのことが、日本語も含めた日本学の専門家を育成するという、本学部の最終的な目標を達成するための、非常に重要な点になってくると思われます。

  大学外に目を向けると、当地に特徴的な問題点としてあげられるのが、日本語需要の低さと日本語使用機会の少なさがあげられます。これを解消するために、在留邦人と学習者のネットワーク構築や、学習者の日本語使用機会の増加に取り組むことも、専門家の重要な仕事と言えます。今年度は、日本人ゲストスピーカーに授業に出席していただき、生の日本語に触れる機会を作りました。また、学習者たちが作った日本語劇を上演し、在留邦人の方々に見に来ていただいたりもしました。ネットワーク構築というところまではいっていませんが、学習者と在留邦人が互いのことを知り合い、学習者が日本語を使う機会が生まれたことは事実です。

現在、ベラルーシでの日本語教育は、まだまだ発展段階にあります。そして、ベラルーシ国内における日本語需要、日本学専門家の需要は、決して高いとは言えません。しかし、来るべき民主化、市場経済化を見越して、日本語および日本学の専門家育成を地道に継続していくことが、これからの日本とベラルーシの関係構築のためにも非常に重要なことだと言えるでしょう。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
専門家は、日本語の授業を担当するとともに、カリキュラム開発や他教師へのアドバイスを行う。派遣先機関は、学部数、学生数ともにベラルーシ最大の国立大学である。専門家が派遣されている国際関係学部は、ベラルーシの政治や外交を担う、国際関係学の専門家を育成することを目的としている。当学部東洋語講座では、2002年度より、日本語・日本学専攻専攻コースが新設され、日本研究者の本格的育成が始まった。当専攻コースは、6年制のカリキュラムに基づいており、修士号取得までを視野に入れた専門教育を展開しており、現在、1、2年生が10名前後在籍している。
ロ.派遣先機関名称 ベラルーシ国立大学
Belarusian State University
ハ.所在地 Akademicheskaya st. 25-402, Minsk, Republic of Belarus
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
国際関係学部東洋学科日本語・日本学専攻
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1995年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 2002年
(ロ)コース種別
4、5年生は選択外国語科目、1、2年生は主専攻。
(ハ)現地教授スタッフ
常勤2名,非常勤2名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻1年:12、2年:10、外国語科目4年:5、5年:2
(2) 学習の主な動機 日本研究、国際関係の専門家、国際機関への就職希望
(3) 卒業後の主な進路 ベラルーシ外務省、日本留学、国内民間企業
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定1級を受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 毎年3名程度

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