世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ベラルーシ国立大学における日本語教育(2005)

ベラルーシ国立大学
星野 智子

ミンスク市内の路面電車の写真
ミンスク市内の路面電車

 ベラルーシ国立大学(以下、BSUとする)への日本語教育専門家派遣は、2002年より始まった。BSUの良さは、なんと言っても優秀な教授陣である。「宗教哲学」「歴史」などに関する豊富な知識を有しており、BSUの日本語教育は、彼らによって支えられているといっても過言ではない。

 一方で、派遣開始当初より取り組まれていたチームティーチングや教材の整備、各教員の教授技術向上のための勉強会などは、どれも定着や改善を行うには至っていない。加えて、既存カリキュラムと現行授業内容との著しい齟齬、決定事項の不履行、そして、教員間のミスコミュニケーション、それがもたらす学年による学習進捗状況の違いなど、基本的な問題も山積している。また、現在の社会情勢のもとでは、日系企業の誘致や日本人観光客の増加も見込めない。それを理由に教員からは、「日本語を習得しても、それを生かせる場所がほとんどないのだから、優秀な日本語話者が増加した場合、職を得るための競争が激しくなり、自分たちは仕事を失う可能性があるのではないか」と危惧する声さえ聞かれる。

 赴任直後より、このような問題に直面し、何度となく、現地教員との話し合いを重ね、解決に向けた方策を示したが、結局は毎回一蹴された。将来を見据えた質の高い教育に必要なものを訴えても、多くの方が耳を傾けてはくれるものの、その必要性を認識し、共に実行していただくことは容易ではなかった。

 「ことばで伝わることには限界がある。ならば、できることから結果を残そう。」

 そう思い、まず、最初に取り組んだのが、新人教員の育成である。定期的に彼女の授業を見学させていただき、アドバイスを2つに絞ってするようにした。彼女自身が勉強熱心だったため、指摘した点は必ず次の時間には改善された。残念ながら彼女は来期以降産休に入ってしまうが、この授業見学と見学後の話合いにおいて、彼女が教師として自信を持ち「すべての活動に意味を持たせることの重要性」を感じてくれたことは、何よりの成果であると思う。

 次に、学生の目標達成能力を養うことにも努めた。BSUの学生は極めて従順である。それは彼らの長所でもあるが、教師の指示を待つばかりという短所でもあった。そのため、教師への絶対的な依存だけではなく、自ら目標を定めそれに向かって突き進む力をつけてほしいと考えた。そこで、例えば「実践スピーチ」の授業では、毎回自らの発表について「自己評価」をさせ、各人に「その日の到達目標を定め」「目標が達成できたか」「それはなぜか」「次回の目標は何か」を考えさせた。このようにして、彼らに目標に向かって努力すること、それが達成できれば新たな目標を設定すること、そうすることで自己成長を続けられることを知ってもらえたことも、1つの成果だと言えるだろう。

講座室にての写真
講座室にて

 その他、国内弁論大会を開催することで日本語の使用機会を学習者に提供し、また、日本の大学生との作文交換や日本国大使館より臨時代理大使を通常授業へお迎えすることで、教師以外の日本人の声を学生に届けることなどを試みた。また、希望者を対象に日本語能力検定試験の対策授業を行い、受験者には「やればできる」ということを、受験者以外にも学ぶことの楽しさを知らせることもできたと思う。いったん、勉強の楽しさを知った学生は、強制でないにもかかわらず、どんなに朝早くても積極的に参加し、「もっと知りたい」「もっとわかるようになりたい」と貪欲にくらいついてきた。普段、笑うことの少ない彼らが、終了時間になると満足した明るい表情で挨拶し、教室をあとにしたのは、非常に印象的である。

 このように、ベラルーシで前任者が耕した日本語教育の畑は、種を蒔いても荒地に戻り芽が出ても枯れてしまうという状態を繰り返しながらも、徐々にではあるが、タフな芽も生え始めている。根気強く「与えられた環境下で全力を尽くす」ことで、近い将来、博学な教授陣や将来性豊かな学生たちによって発展を遂げるに違いない。どんな花を咲かせるのか、今から楽しみで仕方がない。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
専門家は週に10時間の授業を担当するとともに、シラバス開発や、他教師へのアドバイスなどを行う。本大学では、日本語・日本研究コースは、国際関係学部の中にある。国際関係学部は、ベラルーシの政治や外交の場面で活躍できる人材の輩出を目指している。そのため、当コースでも、日本の政治や経済、外交問題についても造詣が深い知日家を育成し、ベラルーシと日本との国家レベルでの交流を担う人材を輩出することを目指している。
ロ.派遣先機関名称 ベラルーシ国立大学
Belarusian State University
ハ.所在地 Akademicheskaya st. 25-402, Minsk, Republic of Belarus
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
国際関係学部 東洋語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1995年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2002年
(ロ)コース種別
1年生から3年生までは専攻、5年生は第一外国語
(ハ)現地教授スタッフ
常勤3名、非常勤講師1名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻で各学年10名程度    
第一外国語で6名
(2) 学習の主な動機 日本(東洋)への憧れ       
国際関係の専門家を目指して
(3) 卒業後の主な進路 政府機関、国営企業に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
現3年生からは日本語能力検定試験1級合格可能な程度
(5) 日本への留学人数 毎年3,4人程度

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