世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ミンスク国立言語大学における日本語教育(2005)

ミンスク国立言語大学
星野 智子

ベラルーシ人形の写真
ベラルーシ人形
日本語コース長の授業の写真
日本語コース長の授業

 ミンスク国立言語大学(以下、MSLUとする)への専門家派遣は、ベラルーシ国立大学同様2002年より始まった。MSLUは、ベラルーシにおける国立では唯一の外国語専門大学であり、日本語コースで学ぶ学生は、全員プロの通訳者になることを目指している。

 日本語コースの学生募集は5年に1度であり、現在当コースに在籍する学生は、3年生である。筆者が赴任した2004年9月当初、彼らはすでに豊富な語彙を持っていた。しかし同時に、知っている言葉をうまく使うことができなかったり、あまりに直接的な表現で話しかけ、聞き手をドキっとさせたりすることも度々あった。また、日本についての知識の乏しさが、日本人とのコミュニケーション上、大きな支障になっていたのも事実である。

 そこで、前期の会話の授業では、聞き手を不快にさせないための会話表現の定着に力を入れた。練習を重ねるにつれ、学生の不適切な語彙の使用や、聞き手への配慮に欠ける一方的な話し方は、ずいぶん改善された。今では、皆、「すみません。今、お時間よろしいでしょうか。」と話を切り出し、「お忙しいところありがとうございました。失礼いたします。」と挨拶してから立ち去るようになった。

 後期に入ってからは、筆者は、通常授業で「日本語文法学」「日本語音声学」の授業を担当することになった。本来、MSLUの学生は、言葉に対する好奇心や探究心が非常に強い。そのため、学生の上記授業への関心度は高く、講義後は毎回鋭い質問が出された。そして、3月からは、非日本語母語話者(日本語コース長)との共同授業も開始した。この授業では、例えば、筆者が「石油会社の広報部長」「総合病院の理事長」「翻訳家」といった役を得て、日本語で話をし、その後、日本の経済、環境、医療、文学等をテーマにして通訳の練習を行った。これまでは、リンクし合うことが難しかった現地人教員との授業だが、このようにして共に教壇に立つことで、以前にもまして発展的な授業が行えるようになった。授業後の現地人教員との話し合いにおいては、授業内での改善点はもちろん、言語学習についてのビリーフや、MSLUの将来像などについても意見を出し合うことができた。

 このように、よりよい授業を教員や学生が求める一方で、まだまだ解決の難しい問題もある。例えば、辞書や専門書が十分にはないため、学習方法が限られていること。日系企業や日本人観光客の増加が見込めないため、学生は身につけた日本語力を生かす仕事になかなか就けないこと。そして、そのような環境下、学生に「諦めること」が身に付いてしまい、チャンスに対して消極的なこと。

 これらの問題解決に向け、辞書や専門書といったハード面のさらなる整備や、日本語使用機会の提供、雇用の確保、そして、学生に目標に向かって邁進する力を身につけさせることが、今後の大きな課題である。一朝一夕には解決が望めなくとも、現地教員たちの協力や弛まぬ努力に支えられ、今後も、彼らとともにMSLUにおける日本語教育の発展に努めたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
専門家は、日本語母語話者として主に日本語会話の授業を担当している。当大学は、ベラルーシ国内で最大規模の外国語専門大学であり、日本語専攻コースは通訳学部に設置されている。通訳学部では、プロの通訳・翻訳家の育成を目指しているが、現段階では、ベラルーシ国内における日本語需要は、低いと言わざるをえない。そのため、日本語コースの学生募集は、5年に1度であり、現在当コースに在籍している学生は、3年生のみである。
ロ.派遣先機関名称 ミンスク国立言語大学
Minsk State Linguistic University
ハ.所在地 Zakharov St. 21, Minsk, Republic of Belarus
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家: 1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
通訳学部 東洋語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1993年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2002年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名、非常勤講師1名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   15名
(2) 学習の主な動機 日本(東洋)への憧れ       
通訳者を目指して
(3) 卒業後の主な進路 国内の企業に就職、在ベラルーシ日本国大使館に就職、日本語教師
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定試験1級合格可能な程度
(5) 日本への留学人数 ほとんどなし

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