世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ミンスク国立言語大学における日本語教育(2006)

ミンスク国立言語大学
星野 智子

5月28日日本語教育巡回セミナーの写真
5月28日日本語教育巡回セミナー

2002年にNIS日本語教育専門家(現ジュニア専門家)派遣の始まったミンスク国立言語大学(MSLU)。日本語コースの新入生の受入れは5年に1度に限られており、現在日本語コースに在籍する学生たちは4年生になる。

2005年度、学期初めに突如発生した教員不足のため、筆者は「日本語」をはじめ「語彙論」「日本文学」等も担当することになった。概論書や研究論文などを読み込み、学生たちに如何にその内容をわかりやすく伝えるかを考える日々。教材はなければ作るを繰り返した。しかし、筆者がMSLUで求められたのは、なんといっても唯一の日本語母語話者としての役割である。そこで、授業で最も力を入れたのは、聞き手にわかりやすい話し方だった。モデル会話や談話構造を示し、ロールプレイやプレゼンテーションなどを行って練習を進めた。しかし、教師から与えられた知識を獲得していくという勉強方法が身に付いている学生たちにとって、自主性を必要とする授業内容は大きな負担だったようである。(彼らにできないことまで求めすぎてはいないだろうか?)授業後は何度も自分にそう問いかけ、シラバスを見直した。

その際、常に教条を語り合えたのが、日本語コース長である。以前、そのコース長からある言葉を教えられた。Под лежачий камень вода не течет.これは、字義通り訳すと「地表の石に水を流しても、その水は石下の土には入り込まない」つまり、「何もしない怠け者には変化(なんら効果)は起こらず、変化を望むなら自ら行動を起こすべきだ」という意味の諺だそうだ。この言葉のとおり、コース長は怠けること諦めることを嫌い、強い意思のもとご自身も日本語力を磨く努力を絶やさない。常に長い目で学生の将来について考え、決して妥協を許さなかった。

このコース長のもとで日本語を学び、これまでに卒業した学生は10名弱。日系企業の進出も日本人観光客の極めて少ないベラルーシで、日本語を活かした仕事を得るチャンスは、決して多くはない。しかし、力をつけた卒業生たちの多くは、今、限られた少ないチャンスをしっかり手にしている。不定期ではあるが公的機関や企業において日本語力を活かした仕事をし、中には、ミンスク市内の日本語教室で教鞭をとる者もいる。筆者がそこへ訪問指導を行った際は、いつもお礼の言葉とともにその何倍もの質問や意見が投げかけられ、授業を楽しむ姿勢ともっといい教師になりたいと真摯に願うエネルギーが伝わってきた。

今年5月、そのような若い教師も交えて日本語教育セミナーを開催した。昨年度末に改修工事を終え、清潔で明るくなった日本語コース専用の教室は、語学に長けた学生たちが日本語や通訳を学ぶ場所としてだけでなく、同セミナーの会場などとしても利用させていただいた。

優秀な卒業生を輩出し、各種大会やセミナー時にはベラルーシの日本語教師会メンバーが集う場所。そのMSLUに赴任していた2年間、教師の言葉をどれも聞き漏らすまいとする学生たち、常にMSLUの日本語教育の発展のために努力なさるコース長、そして才気溢れる卒業生たち、彼らのサポートができたことを心からうれしく思う。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
専門家は、日本語母語話者として主に日本語会話の授業を担当している。当大学は、ベラルーシ国内最大の外国語専門大学であり、日本語専攻コースは通訳学部に設置されている。通訳学部では、プロの通訳・翻訳家の育成をを目指しているが、現段階では、ベラルーシ国内における日本語需要は、低いと言わざるをえない。そのため、日本語コースの学生募集は、5年に1度であり、現在当コースに在籍している学生は、4年生のみである。
ロ.派遣先機関名称 ミンスク国立言語大学
Minsk State Linguistic University
ハ.所在地 St Zakharova 21, Minsk , 220034
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
通訳学部ドイツ語学科東洋語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1993年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2002年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻4年生11名
(2) 学習の主な動機 「日本への憧れ」「日系企業への就職」
(3) 卒業後の主な進路 不定期な翻訳・通訳業務
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定1級受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 ほとんどなし

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