世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ミンスク国立言語大学における日本語教育(2007)

ミンスク国立言語大学
菅井綾子

ミンスク国立言語大学正面玄関の写真
ミンスク国立言語大学正面玄関
日本語コース教室の写真
日本語コース教室

 「フリーターやアルバイト・パートで働く人が増えるのはいいことではないのですか?自由な時間で働きたい人、責任ある仕事を避けたい人、人件費を減らしたい会社の、それぞれが満足できる働き方でしょう?」「社会保険などの保証やボーナスがなければ安心して働けない。私は非正規雇用には反対です」。2007年6月に卒業した5年生の、卒業試験も近いある日の「日本事情」の授業である。ディスカッションでは学生からはさまざまな発言が飛び出した。

 ミンスク国立言語大学通訳学部は、ベラルーシにおける国立としては唯一の外国語専門大学である。中でも通訳学部は、専門的な通訳の養成機関として、国際的な舞台で活躍できる人材を輩出している。ドイツ語学科、また東洋言語科日本語コースで学ぶ学生も、通訳や翻訳家など、言葉を専門とした職業につくことを目指している。本年度の卒業生の進路は、せっかく身につけた日本語を存分に振るう職場に、とはいかなかったが、以前の卒業生は会社勤めのかたわら日本語教室の講師や不定期に通訳・案内の仕事などを引き受けており、機会は皆無ではない。

 国内における日本語人材の需要や学部予算等の関係により本コースでは、学生の入学は5年に一度に限られている。15名程度の学生をコース長であるただ一人の専任講師が5年間手塩にかけて育て上げる。日本語の授業は週6-7コマ(1コマは80分)組まれており、日本語教育専門家はそのうち週1コマを担当する。学生はほぼ毎日日本語の授業を受ける学習環境である。

 本コースでは学年が上がるにつれて和露/露和ともに通訳・翻訳訓練の比重が高くなり、テキストも国際経済や外交、日本の社会問題の新聞記事等、広範囲を扱うようになる。辞書を真っ黒になるまで使い、豊富な語彙力を身につけて4年次までに多くの学生が日本語能力試験2級に合格する。日本語の学習だけでなく、日本事情や社会情勢等の理解、報道文をさまざまな角度から読み考える態度、議論やインタビューを通してお互いの意見を引き出す技術なども存分に鍛えられる。冒頭のようなディスカッションを通して、単なる文化的表面的な興味にとどまらず、より深い部分に目を向けより高度な運用能力を学生自ら獲得しようとする姿勢を、コース長と日本語教育専門家の二人三脚で育てているところである。

 また日本政府(文部科学省)奨学金日本語・日本文化研修留学あるいは日本語学習者大学生訪日研修(国際交流基金関西国際センター)など、留学・訪日のチャンスは5年間で1-2名に与えられる。熱意ある教師と学生が少しでも多く日本語および日本事情に接触できるよう、日本語教育専門家は情報収集と提供を続けている。

 しかしながら、ベラルーシ国立大学(以下「BSU」と略す)の紹介でも述べたように、ベラルーシ国内で入手できる日本関係の情報はインターネットを除いては極端に少なく、学生が利用できる資料は充分な量とは言いがたい。現在教室の本棚に並んでいるのは日本語教育専門家の携行教材やコース長私蔵の資料、在ベラルーシ大使館等寄贈の雑誌や冊子が中心であるが、本年度は最新のもの、わかりやすいものを多数補充し、学生にも活用法を指導した。

 2007年9月には新1年生が入学し新たな5年間のサイクルが始まるが、入門初級からのコースデザインをじっくり話し合う時期となった。二人三脚の利点を生かしたきめ細かい指導がはじまるのが、今から楽しみである。

 最後に、本コースとBSUの2機関のみが、国内で日本語が専攻できる貴重な場であることを紹介したい。両大学の教師学生が引き続きよき仲間よきライバルであるよう、さらに交流を促していきたい。中心になって行事運営を行なうベラルーシ日本語教師会の活性化と発展も、課題の一つである。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
専門家は、日本語母語話者として主に日本語会話の授業を担当している。当大学は、ベラルーシ国内最大の外国語専門大学であり、日本語専攻コースは通訳学部に設置されている。通訳学部では、プロの通訳・翻訳家の育成をを目指しているが、現段階では、ベラルーシ国内における日本語需要は、低いと言わざるをえない。そのため、日本語コースの学生募集は、5年に1度である。
ロ.派遣先機関名称 ミンスク国立言語大学
Minsk State Linguistic University
ハ.所在地 St Zakharova 21, Minsk , 220034
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
通訳学部ドイツ語学科東洋語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1993年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2002年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻1年生15名(2007年9月入学予定)
(2) 学習の主な動機 「日本への憧れ」「日系企業への就職」
(3) 卒業後の主な進路 不定期な翻訳・通訳業務 官公庁 民間企業
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定1級受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 1名程度

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