世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ベラルーシにおける日本語学習環境 -書籍・教材面-

ベラルーシ国立大学
菅井綾子

 ベラルーシ国立大学(以下、BSU)国際関係学部東洋語講座には中国語をはじめ6言語のコースが設置されている。このうち日本語を専攻する学生は約40名おり、2008年6月に専攻科として2回目の卒業生が8名誕生する。
BSUにおける学科運営の概要は昨年度述べたが、今回は学習環境、特に図書や教材について紹介したい。

書籍流通

カードをめくって借りる本を選ぶ(大学図書館)の写真
カードをめくって借りる本を選ぶ(大学図書館)

 一般に読書家が多く、街に本屋もよく見かける。学生は書籍を「本の市場」で安く購入するか図書館を利用するなどして、ドストエフスキーやプーシキンをはじめノンフィクションからファンタジーまで幅広く読んでいるようである。ところで日本語科の学生からは「日本語学習を通して“日本人の暮らし方”や“メンタリティー”を知りたい」という声がよくあがるが、これは映像や授業で扱う文化紹介もさることながら文芸作品等によってより理解されるべき分野ではないだろうか。現在、三島由紀夫や村上春樹などが中心にロシア語に翻訳されているが、将来はより幅広いジャンルの作品が紹介されたいものである。

 首都ミンスク市において流通する書籍は、多くがロシアの出版物である。多少の英語本を除いて外国語書籍の流通は非常に少ない。東洋・日本関連のロシア語書籍でよく見かけるのは「合気道」「風水」「スシ」等のハウツー本である。日本語教材は、会話本あるいは「一人で学べる日本語」といった薄い教科書等、10種類弱を見かける程度である。

 若年層はインターネットを通じてアニメはもちろん、映画はキタノタケシを中心によく見ている。街のDVD店でも日本アニメ数十作品の流通を確認した。

教材・辞書

 さて、この環境で日本語が専攻できる国内拠点2大学(BSUおよびミンスク国立言語大学)の学生がどのように取り組んでいるかというと、学生用教材および教師の参考書は国際交流基金派遣のジュニア専門家の携行教材、国際交流基金(以下、JF)の寄贈プログラムによる寄贈教材、現地教師が個人的に日本から取り寄せたものおよび自作教材である。周辺教材や日本語能力試験対策教材も近年充実しつつある。メインテキストは人数分の寄贈を受け大学から学生に1冊ずつ貸し出される。学生は学年末に返却、後輩も使うため書き込み等は厳禁である。

 また現在はほとんどの学生がパソコンでDVDを見るため、VHSビデオテープやカセットテープ教材は既に役目を終えた。音声や映像教材等を貸し出し自習を促したいが、それにはCD・DVD教材を充実させる必要がある。

 辞書については、学生がまず入手するのはロシア出版の小型の15000語程度のもので、日本語専攻の学生にはすぐに物足りなくなる。毎年の日本語弁論大会では入賞者に日本の「和露辞典」などが授与されるため、これを目標に努力する者もいれば、日本へ行き来する知人を見つけてこの高価な辞書や電子(英和)辞書の購入を頼む者もいる。

大学および公立図書館

 大学図書館は閉架式で新刊紹介棚も小さいため、蔵書が増えても利用がすすまない。そのため日本からの到着教材等は学科本棚の保管とし、日本関連情報を必要とする学生の目にできるだけ触れるようにしたい。しかし本棚のある学科室はキャンパスの教室不足によりしばしば授業にも使われ、使用時に教師によって開錠されるため、学生は気軽に利用しにくい。したがって教師も図書・教材利用の促進には工夫が必要である。「エリンが挑戦!にほんごできます。」テキストの到着時には教室へ持参して紹介したところ、学生も喜んで借りていった。

文化紹介拠点の図書室

日本大使館の図書室の写真
日本大使館の図書室

 在ベラルーシ日本大使館の図書室は、主に外務省広報予算による購入図書、過去の在留邦人の置き土産など、日・露・英語合わせて900冊程度を蔵する。また、ミンスクに長年お住まいの日本人が運営する「日本文化情報センター」は公立図書館の一室に設けられており、蔵書も日露語ともに充実している。

 ところで「授業外の日本語利用機会の提供」もベラルーシにおける派遣専門家の大事な業務のひとつであるが、直接指導よりも、学習者が自主的に知識獲得に動くように、広く間接的に働きかけていく必要を感じている。上記機関の利用が増えるよう、積極的に紹介していきたいと思う。

おわりに

 書籍一般の市場流通拡大のためには国策や経済構造の変化が待たれる。また日本とベラルーシの交流が今後盛んになれば、将来は民間交流による古書寄贈なども行われて硬軟幅広い書籍が学生や卒業生、および一般の手に取られたいと願う。受け取り方法や保管場所の確保にも困難を伴う国の事情も鑑みながら、働きかけをはじめたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
当大学では、日本語・日本研究コースは、国際関係学部の中にある。国際関係学部は、ベラルーシの政治や外交の場面で活躍できる人材の輩出を目指している。そのため、当コースでも、日本の政治や経済、外交問題についても造詣が深い知日家を育成し、ベラルーシと日本との国家レベルでの交流を担う人材を輩出することを目指している。専門家は週に6時間の授業を担当するとともに、シラバス開発や、他教師へのアドバイスなどを行う。
ロ.派遣先機関名称 ベラルーシ国立大学
Belarusian State University
ハ.所在地 St.Akademicheskaya, 25/404, Minsk, 220072, Belarus
ニ.国際交流基金派遣者数 ジュニア専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
国際関係学部地域言語研究科
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2002年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2002年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤4名 (うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻あるいは第一外国語として履修。各学年10名程度
(2) 学習の主な動機 「日本への憧れ」「難解な言語への興味」「日系企業への就職希望」
(3) 卒業後の主な進路 官公庁、国営・民間企業、留学など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験1級受験可能な程度
(5) 日本への留学人数 各学年2名程度

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