世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ヨーグルトとバラと琴欧州の国

ブルガリア ソフィア大学
須賀 美紀

 専門家の派遣先であるソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学古典および現代言語文学部東アジア言語文化学科日本専攻(以下、「ソフィア大学日本専攻」と略す)は、ブルガリアで唯一日本学を専攻とする高等教育機関です。ブルガリアにはその他に日本語を専攻する(あるいは、ダブルメジャーの一つとして専攻する)中等、高等教育機関や、選択科目、公開講座として日本語講座が設けられている教育機関も幾つかあります。しかし、ソフィア大学日本専攻はその中で唯一、日本語の習得にとどまらず、日本に関する様々な分野において、教授、助教授という地位にある教師が教鞭を振う、正に「ブルガリアの日本学・日本語学の総本山」と称される存在です。従って、ソフィア大学に派遣されている日本語教育専門家には、日本語講座の授業を受け持つだけでなく、以下のような業務も期待されています。
(1)ブルガリア人日本語教師とともにソフィア大学日本専攻、特に日本語講座の高い専門性を維持するため、より良い学習環境の整備と雰囲気作りに努める。
(2)ブルガリアの日本語教育全体の発展と国内および近隣諸国における日本語教育ネットワークの構築に寄与する。
以下では、この二点について簡単にご紹介したいと思います。

ソフィア大学日本専攻の環境整備と雰囲気作り

「ソフィア大学日本文化祭」、「折り紙体験」のひとコマの写真
「ソフィア大学日本文化祭」、「折り紙体験」のひとコマ

 ブルガリア出身の大相撲力士琴欧州の目覚しい活躍により、ここ1、2年の間に日本でのブルガリアの知名度は急速に高まりました。しかし、十数年前から続いているブルガリアの「日本ブーム」はその比ではありません。ソフィア大学日本専攻への入学志願者は年々増加し、ソフィア大学の専攻分野の中でも、最も競争率の高い専攻の一つとなっています。しかし、そのようなブルガリアの人々の強い好奇心や探究心とは裏腹に、ここブルガリアでは今も日本に関する情報や日本語、日本文化に触れる機会が非常に限られていると言わざるを得ません。そのため、ブルガリアの日本語教育専門家は代々、このような厳しい学習環境を改善するため、学生と学生を取り巻く可能な限りの「人的日本語リソース」、例えば、先輩、後輩、卒業生、他機関の日本語学習者、ブルガリア在住の日本人などとの橋渡し役となり、学生が日本語を意識できる機会を少しでも増やすよう努めてきました。現在ある2、3年生による1年生の「チューター制度」、留学経験者による「留学報告会」、弁論大会への出場を希望する1、2年生のための作文指導、留学経験者による「留学試験対策コース」の実施などは、もともと専門家の呼びかけによっト始まったものでしたが、今では立派な「日本専攻の伝統」として学生間で受け継がれるようになってきました。また、今年4月には初めて学生主体の「ソフィア大学日本文化祭」が開催され、学生が持っている知識や技能を互いに共有し合うとてもいい機会となりました。これも、日本人を招いたビジターセッションのような活動を一つ一つ積み重ねてきた成果ではないかと思います。

 その他、大学で唯一の日本人教師として、授業以外でもできる限り個々の学生の要望に応えられるよう気を配っています。その一例として、学年末評価の時期には、日本語によるレポート作成のため、2年生以上の希望者に対して1回1時間から2時間の個別指導を行っています。学生一人一人に対応するのは、時間的にも労力的にも大変なことですが、学生にとってはもちろんのこと、私自身にとっても、日本語で意思を伝え合い、お互いをより良く理解するための貴重な時間となっていることは言うまでもありません。このような活動を通して、日本専攻全体の雰囲気作りとレベルアップのために日々努力しています。

ブルガリアの日本語教育の発展と日本語教育ネットワークの構築

「第二回ブルガリア日本語学・日本語教育シンポジウム」、「研究発表の部」のひとコマの写真
「第二回ブルガリア日本語学・日本語教育シンポジウム」、「研究発表の部」のひとコマ

 ブルガリアには、正式に法人登録された「ブルガリア日本語教師会」(以下、「教師会」と略す)があります。2003年7月に設立されて以来、当教師会は「ブルガリア日本語教育セミナー(2003年9月)」「ACTFL/OPIテスター資格取得ためのワークショップ(欧州日本語OPI研究会と共催2004年6月)」「教師の悩みを話し合う会(2004年6月)」「第一回ブルガリア日本語学・日本語教育シンポジウム(2004年9月)」「第二回ブルガリア日本語学・日本語教育シンポジウム(2005年9月)」などを定期的に開催し、精力的に活動を続けています。

 2005年9月に開催された第二回シンポジウムでは、ブルガリアのみならず、ルーマニア、ハンガリー、セルビア・モンテネグロから合わせて39名が参加し、実践報告7つ、研究発表5つ、その他、他国の専門家による特別講演なども行われました。また、シンポジウム終了後には論文集も刊行されました。このようなシンポジウムの開催には、中東欧地域の教師、研究者たちがお互いの知識を共有し合うという目的だけでなく、当地域の日本語教育ネットワークの促進、若手日本語教師にキャリアアップのための実績の機会を提供するといった幾つもの重要な意義があります。当国の日本語教育専門家は、一教師会会員としてこのような活動に全面的に協力する他、アドバイザー的存在として様々な支援を行っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ソフィア大学はブルガリアにおける最高の研究・教育機関であり、当日本専攻は当国の日本学・日本語教育をリードする立場にある。当機関の専門は日本学で、言語にとどまらず、文学、歴史、政治経済、その他日本を対象としたあらゆる分野の研究を志向している。その中で日本語講座は、日本学の専門家として情報の収集および発信が可能となるような高い日本語力を身に付けること(日本語能力試験では1級が目安)を最終目標としている。日本語教育専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に関する助言、日本語教育ネットワーク構築のための支援等を行っている。
ロ.派遣先機関名称 ソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学
Sofia University “St. Kliment Ohridski”
ハ.所在地 No.79 Todor Aleksandrov, Sofia, BULGARIA
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
古典および現代言語文学部東アジア言語文化学科日本専攻
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   公開講座:1968年
大学の専攻:1990年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1981年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤6名(うち邦人1名)、非常勤3名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各学年12名程度
(2) 学習の主な動機 日本語や日本文化に対する知的好奇心
(3) 卒業後の主な進路 日本語教育機関、大使館、外務省等に就職、通訳・翻訳家、進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級~1級程度
(5) 日本への留学人数 10名弱

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