世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ソフィア大学における日本語教育と日本語教育専門家(2008)

「聖クリメント・オフリドスキ」ソフィア大学
駒田聡

 赴任して10ヶ月にしかならない新参者には偉そうに「ブルガリアの状況」など述べられぬし、誇れるような仕事もしていない。そこで専攻の同僚たちと一緒に書く事にした。しかし言うまでもなく文責は筆者自身に属す。

日本学専攻の所属するCIEKの写真
日本学専攻の所属するCIEK

 ブルガリアでは年々日本語学習者数が増加しており、2008年6月現在全10機関で約830名である。その中で国際交流基金の日本語教育専門家が所属するソフィア大学の日本語講座は1968年設置のブルガリアで最も歴史のあるものであり、「古典及び現代語学部東亜言語文化学科日本学専攻」(以下「日本学専攻」と略す)と拡大発展したのちも、日本学教育研究機関としてソフィア大学はブルガリアの日本研究・教育をリードする立場にある。2008年3月には「国際交流基金日本語教育ネットワーク」の拠点機関の一つになった。
  日本学専攻はブルガリアの最高学府であるソフィア大学でも最難関の定員15名の専攻であり、言語のみならず文学、民俗学、政治学、歴史学、経済学、社会学、文学等の幅広い日本研究科目が開講されている。まだ日本企業も在住日本人の数も少ないブルガリアでは日本に関わる経験をする機会が少なく、専門知識を活かした卒業後の進路を見つけることが学生・教師に共通の課題となっていることも事実だが、教師たちは、優秀で熱意に溢れた学生たちに応えるべく、与えられた環境・条件の下で最大限の努力を続けている。学生たちの自主的課外活動としては年1回の「日本文化祭」、週1回の「日本映画クラブ」、日本語能力試験前には「対策自主ゼミ」等が行われている。

 専門家としての私には、所属大学であるソフィア大学で週6コマを担当する大学教員としての通常の業務のほか、ブルガリア全体の日本研究・日本語教育に目配りをする役割が求められている。状況把握が進むにつれて後者の仕事も徐々に増えてきている。
  通常業務のほかに、教育・研究面で、私は現在ソフィアの若手教員たちと共に、私も編者である『日本語文型辞典』を中心資料として用いながら日本語教育・文法の諸問題を研究する「日本語勉強会」を週1回、言語と関連領域を研究する「日本語研究会」、言語と思想との関連を研究する「日本思想史読書会」をそれぞれ月1回主催している。幸い質・量共に順調に発展してきたこれらの活動はブルガリアにおける日本研究のもう一つの拠点であるヴェリコ・タルノヴォにおいても不定期開催を開始したところである。また有志の学生たちも参加するオンラインの『ブルガリア語-日本語-ブルガリア語辞典』も立ち上げた。

 ブルガリアに限らず、ほとんどの場合専門家は赴任地において仕事を進めるうちにその地を愛するようになる。優秀で熱心な学生や教師たちを同志として仕事をしているのだからそうならないほうがおかしい。私は任期終了後もここの仲間たちと共に学校法人を作ってブルガリアに残る予定にしている。

 上記のような恵まれた環境で仕事をするのだから、課題や困難はと問われてもそう呼べるだけのものは見出せない。あるのはみんなちっぽけな「問題」ばかりだ。強いて言えば、何よりも、専門家自身が彼らの熱意と実力に応えられるだけの人物であるか否か、幸いにしてもしそうなら、あり続けることができるかどうか、ということぐらいが問題になろう。
  「駒田先生は普通の日本人ではないんだよ。日本人がみんな駒田先生のような人たちだと思ってはいけないよ。」と同僚が、まだほとんど他の日本人に会ったことのない1年生たちに言わねばならぬ事態はご愛嬌としても、陳腐なことだが、専門家にできることは、赴任地での期待に応えるために、また日本の納税者への説明責任を果たすために、奇を衒うことなく、日々着実な努力を続けてゆくことぐらいである。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
聖クリメント・オヒリドスキ」ソフィア大学日本学専攻はブルガリアにおける日本語・日本研究・教育の中心機関であり、当日本専攻は当国の日本学・日本語教育をリードする立場にある。当機関の専門は日本学で、言語にとどまらず、文学、歴史、政治経済、その他日本を対象としたあらゆる分野の研究を志向している。その中で日本語講座は、日本学の専門家として情報の収集および発信が可能となるような高い日本語力を身に付けること(日本語能力試験では1級が目安)を目標としている。日本語教育専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に関する助言、日本語教育ネットワーク構築のための支援等を行っている。
ロ.派遣先機関名称 ソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学
Sofia University “St. Kliment Ohridski”
ハ.所在地 CIEK, 79 Todor Alexandrov Blvd, Sofia 1303, Bulgaria
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
古典及び現代言語学部、東亜言語文化学科、日本学専攻
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   一般公開講座:1968年から
専攻:1990年から
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1981年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤:5名(うち邦人0名) 非常勤:5名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生13名 2年生19名 3年生17名 4年生14名
(2) 学習の主な動機 日本語や日本文化に対する関心及び留学
(3) 卒業後の主な進路 外務省等の政府機関及び企業就職、研究者、教師
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定1~2級
(5) 日本への留学人数 年間4~10名

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