世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)琴欧洲?ヨーグルト?いえいえ「日本文化祭」です!

ソフィア大学
三森優

私がここソフィア大学へ赴任してから、8か月が経ちます。ここでは私の仕事の内容をご紹介しながら、この間「見た、聞いた」・「知った」・「考えた」ことを簡単にまとめてお話ししたいと思います。

ソフィア大学での仕事

まずは日本語専門家(以下、専門家)の「役割」です。ソフィア大学へ派遣される専門家は、ソフィア大学日本学専攻の2年生~4年生(最終学年)までの授業を担当します。各学年とも非常勤講師の先生方とチーム・ティーチングで授業を進めます。赴任前に予想していた通りソフィア大学の学生の日本語能力は高く、2年生には「欧州言語参照枠組み」(以下、CEFR)/JF日本語教育スタンダード(以下、JFスタンダード)で言うところのA2レベルの課題から授業を始めてみましたが、十分その課題を遂行できる学生がほとんどでした。ソフィア大学では1年次にいわゆる初級レベルの勉強を終えます。つまり、『みんなの日本語初級』の「Ⅰ」と「Ⅱ」を終えたところから2年生が始まるのですが、2年生の多くは学期開始当初の段階で、言語知識のみならず産出能力もA2レベルであればある程度獲得できているように感じられました。

3年生は2年生に比べさらに読み書きの能力が高くなります。ただし、口頭産出能力は2年生に比べると意外に伸びていないようにも感じられます。そのため現在は、3年生のクラスが小規模なこともあり、主教材のテーマに関して彼らの意見を話し合う時間を授業で適宜設けるようにしています。

ICTを利用する4年生の授業風景の写真
ICTを利用する4年生の授業風景

4年生に対しては、現在、卒業に向けて卒業レポート指導とその口頭発表の指導をしています。前期はアカデミックなレポートを書くために必要な書式など、基本的な部分も確認しました。今はそれぞれの興味あるテーマについて、卒業レポート作成の真っ最中です。ソフィア大学では卒業時にCEFR/JFスタンダードのC1レベルを目指すこともあり、上述の通り4年生は専門的な内容を中心に日本語運用能力を伸ばせるよう取り組んでいます。

このように専門家は、現地の教師たちとともに2~4年生までの授業を受け持っていますが、それだけではなく、現地の教師たちの日本語や日本関連の知識アクセスへの「リソース」となる役割も担っています。たとえば、大学の教員には論文を書かなければならない人もおり、そのような教員に対してどのように資料を探すかなどの情報を助言したりもしますし、論文に限らず、日本語授業を受け持つ教員たちには現在の日本語教育の新しい知見を紹介したりもします。ネイティヴ・スピーカーが現地で乏しい現状では、まさにこのような情報を得る「リソース」としての専門家の役割は重要な位置を占めています。

以上が派遣先機関であるソフィア大学内での専門家の主な業務内容ですが、ソフィア大学には日本語指導助手も派遣されていますので、全体的な学生指導業務は、助手を指導しながらともに連携して進めています。

弁論大会

そして、大学での業務以外に重要なのが、ブルガリア国内の日本語教育を支援する国内アドバイザーとしての業務です。ブルガリアでは毎年日本語弁論大会が実施されます。専門家はその弁論大会実施に対して支援・協力をしますが、今年の4月の弁論大会では審査員、質問者、講評という役割に加え、近隣国の日本語専門家による“ヴァーチャル”審査員が今後新たに可能かどうかを確認するための試験をしました。具体的には、ハンガリーの国際交流基金ブダペスト日本文化センターに赴任している日本語上級専門家にご協力いただき、実際にオンラインでの動画配信で弁論審査ができそうかを確認してもらいました。このような試みを追加したため、弁論大会中、弁論を聞いている時には審査をしつつ質問の準備をし、弁士が話し終わってからは質問をし、さらにこれらの作業中も動画の配信を確認し続けるという“マルチ・タスク”を“実行”しました。このようなタスクをこなすのは初の経験で、自分としてはてんてこ舞いでしたが、無事弁論も滞りなく終了し、ほっと安堵しました。ただ、この“マルチ・タスク”をこなすことで精一杯だった感は否めないので、この点は来年度の課題です。

各地で開催される「日本文化祭」

「日本文化祭」の“メイド喫茶”でメイドに扮する2、3年生の写真
「日本文化祭」の“メイド喫茶”でメイドに扮する2、3年生

ブルガリア、と聞いて私たちが連想するのはタイトルの「琴欧洲」や「ヨーグルト」なのではないかと思います。確かにブルガリアでも琴欧洲の認知度は高いですし、ヨーグルトはやはり皆さんよく食べています。しかし、赴任後、日本語をめぐる環境で私が知り、思ったことは「日本文化祭」が多いこと。まだ赴任してから1年も経っていませんが、これまで、ソフィア第18総合学校で12月に実施されたことを皮切りに、“バラの町”で有名なカザンラク市の高校で「文化祭」が実施され、琴欧洲の出身地ヴェリコ・タルノヴォ市のヴェリコ・タルノヴォ大学でも「日本文化祭」が実施され、ルーマニアとの国境の町ルセでも、そして首都ソフィアでも5月終わりに同様の文化祭が実施され、6月半ばには国の東に位置する町シュメンで実施され、と、「日本文化祭」の数が非常に多い状況です。このことからブルガリアの皆さんには、日本の特に「文化」に興味・関心が高いことがうかがわれます。活気にあふれる「文化祭」の様子を見て、私はブルガリアでこのように「文化」を通して広く日本を知ってもらうことはとても大切なことだと思いました。

これからの課題

さて、これからの課題としては、現在のブルガリアの日本語教育界では教師会が解散していることもあり、特にネットワーク再整備が急がれる状況です。ソフィアでは派遣先のソフィア大学だけでなく、高校を始め日本語が学ばれている機関もありますし、上述の「日本文化祭」を実施している都市の多くでも日本語が学ばれています。そのような各機関を繋ぐネットワークの構築が現在喫緊の課題となっています。また、派遣先のソフィア大学自体では、これまで言われているように学生のモチベーション維持が課題となっています。これら2つの課題を解決することが、私の任期終了までの目標となってきます。もちろん、この他、ソフィア大学の自立化支援も重要です。これから自分がブルガリアにいる時間がどれくらいあるのかを念頭に、これらの課題の解決が少しでも進むよう、一層励みたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Sofia University "St. Kliment Ohridski"
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学日本学専攻はブルガリアにおける日本語教育の最高峰の機関である。日本語専門家は週6コマの授業を担当し、学習者の更なる成長を目指すとともに、チームティーチングや勉強会により、ネイティブ教師の日本語力や教授力の向上を目指す。そのほかに、カリキュラム・教材に関する助言、日本語教育ネットワーク構築のための支援も行う。
所在地 CIEK, 79 Todor Alexandrov Blvd, Sofia 1303, Bulgaria
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名、指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
古典及び現代言語学部、東アジア言語文化学科、日本学専攻
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   一般講座:1968年
専攻:1990年
国際交流基金からの派遣開始年 1981年
 
コース種別 専攻
 
現地教授スタッフ 常勤:7名(うち邦人0名)
非常勤:5名(うち邦人0名)
学生の履修状況
履修者の内訳1年生から4年生まで各5名から15名程度(留学者除く)
学習の主な動機日本語や日本文化に対する好奇心、日本への留学
卒業後の主な進路日本・ブルガリア両大使館、ブルガリア外務省、一般企業、進学
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N4~N1程度
日本への留学人数16名程度

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