世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)ヨーグルトとバラの国での3年目

ソフィア大学
三森優

2014年9月に「ヨーグルトとバラ」で有名なブルガリアに赴任し、既に2年半強が経ちました。いよいよ任期の終わりも見えてきたここブルガリアでの3年目、これまで力を注いできた仕事の内容などをお伝えします。

派遣先での仕事

ブ授業で発表をする4年生の画像
授業で発表をする4年生

日本語専門家(以下、専門家)は、派遣先であるソフィア大学で通常2年生から4年生までの授業を受け持ちます。ソフィア大学には専門家以外にも日本語指導助手(以下、助手)も1名派遣されています。授業は現地の先生方とチームティーチングで行っています。2016~2017年度は、前期に助手が不在だったため、専門家は2年生と4年生をメインに受け持つことになりました。4年生は1年間の日本留学から帰国してくる学生がクラスの大勢を占めており、大学も卒業時にはCEFRのCレベル到達を目指しています。そのため、3年生までは主に市販の日本語教材を用いて授業を進めますが、4年生の授業に関してはオーセンティックな素材を活用して授業を行っています。私は赴任以来、卒業時に日本語で16,000字程度のレポートを書かせることもコースに組み込みました。また、4年修了の卒業試験では口頭運用能力を測る発表試験が課せられるため、授業では発表の練習を行います。発表練習以外にも、2016~2017年度は日本のドラマや小説を授業の素材として取り上げました。専門家はこのように、派遣先であるソフィア大学日本学専攻コースの到達目標に少しでも近づくよう、授業内容の質の向上に取り組んでいます。

ブルガリア全体、近隣諸国との仕事(アドバイザー業務、ネットワーク構築業務)

以上のように、専門家は派遣先であるソフィア大学で日々授業を行いますが、これと同様にとても重要なのがブルガリア全体の日本語教育を支援する仕事です。ブルガリアの日本語教育界における一大イベントは毎年4月に行われる日本語弁論大会です。これまで、2017年4月に行われた弁論大会で第23回を数えました。2016年、2017年の弁論大会では、弁論の様子をインターネットでライブ配信も行っています。

ブルガリアには以前、日本語教師会が存在していましたが、2012年1月に解散され、私が赴任した2014年にはブルガリアの日本語教師間をつなぐネットワークが存在していませんでした。私は赴任後、何とかネットワークを再構築したいと、2016年と2017年にはソフィアだけではなく地方で日本語教育の携わる先生方もお呼びして日本語教育に関するセミナーをソフィア大学で実施しました。そこで日本語教育に関する講演や、各機関の現状報告、関係者間の会議を行い、Facebookでのグループ作成による情報共有や通年での勉強会の実施について話し合いました。ブルガリアでは現在、ソフィア大学と地方の古都にあるヴェリコ・タルノヴォ「聖キリル・メトディ」大学(以下、ヴェリコ・タルノヴォ大学)が「JFにほんごネットワーク」メンバーとなっています。ヴェリコ・タルノヴォ大学は2016年に新規にメンバーとなりました。2017年9月にはこのヴェリコ・タルノヴォ大学でも日本語教育に関するセミナーを行います。このように赴任以降、少しずつですが、ブルガリアの先生方を「つなぐ」仕事を進めています。

キャンプの「フラッシュ・モブ」に集まる参加者たちの画像
キャンプの「フラッシュ・モブ」に集まる参加者たち

また、ブルガリアだけでなく近隣諸国とのネットワークの構築も行っています。ソフィア大学は、既に5年以上、毎年6月もしくは7月に黒海に面した地方都市で「バルカン半島日本語サマーキャンプ」を実施しています。このキャンプにはルーマニア、セルビア、マケドニア、トルコからも参加者を招待し、日本語や日本文化の勉強を行っています。2016年は地方都市のブルガス市の市庁舎前で「よさこい」のダンスを中心とした「フラッシュ・モブ」を行うことを目標にし、キャンプを行いました。キャンプに参加した学生たちはみな、堂々と現地の人々の前で日本文化の紹介を行っていました。このキャンプには2017年より新たにボスニア・ヘルツェゴビナからも参加者を招待します。

私が日本語専門家として伝えたかったこと

以上、簡単に私の仕事内容をお話ししましたが、最後に、任期終了も見えてきた現在、私がブルガリアでお伝えしたいと思っていたことをお話しします。

ICTなどの技術が発展している近年、おそらく近い将来人々は外国語を学ぶことなく、意思の疎通が図れるような手段を得られるでしょう。それはそれで、人々の交流の幅が広がる画期的な環境となるのではないかと思います。しかし、外国語を学び、それを使うことは、自分の思っていること、考えていることをより直接的に伝えるときに、役に立つものであり続けるのではないかと思います。また、外国語を学ぶことを通じて得られる、その国の文化に関する知識や経験も大きな財産となるはずです。私はここで日本語を学ぶみなさんに、お互いの「聲」を伝え合う、また異国の文化への扉を開く、そんな手段としての「日本語」を知ってほしいと思いながら、仕事に携わりました。ブルガリアで日本語に関わるみなさんがこれからも自らの「聲」を通して、人と人、そして国と国とのつながりを構築していける、そんな未来に少しでも役に立てていたら、私はとても嬉しいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Sofia University "St. Kliment Ohridski"
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ソフィア「聖クリメント・オフリドスキ」大学日本学専攻はブルガリアにおける日本語教育の最高峰の機関である。日本語専門家は2年生から4年生までの週計6コマの授業を担当し、学習者の更なる成長を目指すとともに、チームティーチングや勉強会により、ネイティブ教師の日本語力や教授力の向上を目指す。そのほか、カリキュラム・教材に関する助言、日本語教育ネットワーク構築のための支援も行う。
所在地 CIEK, 79 Todor Alexandrov Blvd, Sofia 1303, Bulgaria
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名、指導助手:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
古典及び現代言語学部、東アジア言語文化学科、日本学専攻
日本語講座の概要
What We Do事業内容を知る