世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) チェコにおける専門家の活動について(2003)

カレル大学
近藤正憲

模擬試験の写真
模擬試験

 中世の街並みが残るプラハにあるカレル大学は中欧最古の大学の一つです。学生たちもまじめでよく勉強します。日本学科で勉強している学生の多くは日本に文化的な憧れを持ってこの学科で勉強することを選んだ人たちです。話を聞いてみると「合気道を始めてから日本に興味を持った。」とか、「高校生の時、書道を習っていた。」という文化的な興味関心が日本語学習の動機になっていることに驚かされます。最近では旧西側のヨーロッパ諸国と同様、日本の漫画やアニメーションフィルムに強い関心を持っている人もいます。EU統合に向けた動きがさらに活発になればこのような傾向はますます強くなると思います。

 大学が日本語教育専門家に期待している役割は、当然のことながら大学教師としての役割です。つまり学生に対する指導(毎日の授業とその評価)と進級や卒業における評価です。ひとたび授業をあてがわれたら、その評価や単位の認定は責任を持って自分ひとりでしなくてはいけません。それだけでも、とても重い責任を負っているということができます。

 しかし、私は大学が期待する仕事以外にも基金専門家がこの国でするべき仕事はあるような気がします。それは一言で言って、「日本を知ってもらうこと」だと思います。チェコにおける日本語教育は殆どが大学で行われていて、中等学校で行われているところは少なく、学習者も多くはありません。大学以外では国立の言語学校、民間の語学学校が一般人向けの教育を施していますが、教育機関の数も学習者の数も少ないです。ですから日本語教育が広く一般に普及しているとは言えませんし、地方では更に日本は知られざる存在です。日本企業の工場進出は非常に多いのですが、日本や日本人についての情報は決して多くはありません。ですから日本語をはじめ、日本の様々な文化を多くのチェコ人に知ってもらうことがとても大切なことだと思うのです。

 これまで私は大学での業務のほかに二つのことをしてきました。ひとつはチェコの日本人会や、チェコ日本友好協会、在チェコ日本大使館に働きかけて、在外公館にある日本映画の上映会をしてもらったことです。これは定期的な上映会活動として位置づけられ、2003年5月までに8つの日本映画作品を上映しました。観客は多い時で50名ほど集まります。楽しみにしている常連さんもできてきたので、今後も続けていく予定です。活動の幅を広げるためにカレル大学の学生のなかで興味を持つ人に、翻訳などの実務を手伝ってもらっています。

 先日この映画会の常連になった学生の一人が、「アルバイトの予定を入れるので次回の映画会の予定を教えてほしい」と聞いてきました。彼らが毎回楽しみにしてくれているのが分かり、とてもうれしかったです。今後は地方の上映会の可能性を探っていきたいと思います。

 さて、もう一つの取り組みですが、私は日本語教師の勉強会を大体月一回のペースで行っています。この勉強会の目的は日本語教師に勉強の機会を持ってもらうことと、新しい教師の候補者を学習者の中から発掘することです。現状では日本語教師の仕事に金銭的な魅力を持たせることは非常に難しいといわざるを得ません。しかし、自分にとっての勉強になると考えてもらえば、教師の仕事も少しは魅力的に思えるのではないかと思います。そして学んで人に教えることに魅力を感じる人たちにこの国における未来の日本語教育を担ってほしいと思っています。この勉強会には今のところまだ毎回2~3名しか集まりませんが、興味を持ってくれる人の数は増えているのを感じます。今後人数が少しずつでも増えていくよう、また現地教師のネットワークの要となる会にするよう努力したいと思います。

 チェコ人の学習者の中には、地道な努力を積み重ねることのできる人たちが多いと思います。私は学生たちや教師たちの心に火をつける人でありたいです。私の取り組みのどれかが彼らの向学心や好奇心の発火点になり、大きく育っていってくれたらとてもうれしいです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
カレル大学は、1348年に創設された中央ヨーロッパ最古の大学である。日本語学科は1948年に開設され、1987年にコメンスキー大学(現スロヴァキア)、1993年にパラツキー大学に日本学科ができるまでは、当国で日本語学科を有する唯一の大学だった。カレル大学は現在も優秀な日本研究者を輩出し、毎年100~150名程度の入学希望者がいる人気学科でもあり、チェコでの日本研究に対しての貢献は大きく、日本語教育の中心的役割を果たしている研究・教育機関である。専門家は日本語講座での日本語教授、単位認定、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。
ロ.派遣先機関名称 カレル大学
Charles University
ハ.所在地 Celetna 20, 110 00, Praha 1, Czech Republic
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
カレル大学哲学部東洋学研究所日本学専攻
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   専攻:1948年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1991年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤5名(うち邦人専門家1名)、非常勤4名(うち邦人2名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年19名、3年10名、4年16名、5年16名 その他23名
(2) 学習の主な動機 日本の伝統文化や文学・歴史に高い関心。1年生はアニメに関心も。
(3) 卒業後の主な進路 通訳、翻訳、ガイドのほか、日系企業や官庁に勤めるものもいる。
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級と1級の間ぐらい。
(5) 日本への留学人数 各学年1名から3名

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