世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 新しい動き

カレル大学
柴倉映子

  チェコのプラハに来て8か月になり、赴任一年目の後半に入りました。カレル大学での授業のほかに、チェコのさまざまな機関で日本語教育に携わる人々を繋ぐネットワークを作ることも、ここでの重要な仕事のひとつです。

 チェコにおける日本語学習は少しずつその幅が広がってきています。そうした中、昨年(2004年)の秋からいくつかの新しい取り組みが始まっています。

チェコで日本語を学ぶ人たち

 日本から遠く離れた中欧のチェコでも、さまざまな人々が日本語を学んでいます。日本研究の専門家を目指す人、日本の伝統文化や歴史・文学に関心を持ちそれらをより深く知るために日本語を理解しようとする人、自らの母語とは大きく異なる日本語という言語そのものに興味を抱いて学び続ける人、皆さんそれぞれの目的を持って熱心に取り組んでいます。最近では日本のマンガやアニメーションに魅せられ日本語学習を始める人も増えてきました。ここ数年日系企業の進出が相次ぎ、在留邦人の数も増加し、学んだ日本語を仕事や友人との語らいに生かす機会も増えています。

 これまでは大学生以上の成人の日本語学習者がほとんどだったチェコですが、より若い世代の学習者も徐々に増えつつあります。現在わずかながら、日本語の授業を取り入れている中等教育機関もあります。さらに年少の子どもたちの中にも日本語を学んでみたいという人が見られるようになってきました。それを受けて昨秋、チェコ・日本友好協会の日本語講座に初めて「子どものための日本語」のクラスが誕生しました。少人数の小さなクラスですが、新しく始まったこの試みが根を下ろし育っていくよう、できる限り支援していきたいと思っています。

日本語教育に携わる人たちのネットワーク

勉強会の仲間たちの写真
勉強会の仲間たち

 数年前に始まった日本語教師の勉強会が、2005年1月、「日本語教育勉強会」として新たなスタートを切りました。将来の「チェコ日本語教師会」の設立を視野に入れつつ、皆で力を合わせて具体的な活動を進めていこうと張りきっています。

 大学での専攻科目や選択科目として、高校の外国語科目のひとつとして、公立や私立の言語学校で、友好協会の日本語講座で、個人教授で、企業の中でなど、さまざまなところでさまざまなかたちで日本語を教えている先生方がいます。これらの方々が教育機関の垣根を越えて協力していこうと、月1回プラハで集まり、授業活動のアイディアを紹介し合ったり弁論大会などの日本語関連行事の相談をしたりしています。

 1月から、勉強会のメンバーのメーリングリストを立ち上げ、それを活用したやりとりも始まりました。このメーリングリストは、日本語関連のいろいろな相談ができるコミュニケーションの場となることを目指しています。日本・日本語に関する行事の「連絡」のほかに、授業で困った点や分からないことについて他のメンバーに聞き皆で一緒に考えるための「質問」、授業活動のアイディアや教材を共有する「教材紹介」などの項目を設け、活発なやりとりを期待しています。プラハ以外の地域にいてなかなか勉強会に参加できないメンバーともメーリングリストを通じたやりとりができるようになり、距離がぐんと縮まりました。

教材作りの写真
教材作り

 同じく1月から、新たに教材作りに取り組んでいます。チェコでは現地で作成された日本語の教科書はまだ極めて少ない状況です。また、日本語を学んでいる人は、将来日本に留学したり仕事で日本へ行ったりする人ばかりではなく、ずっとチェコで日本語学習を続けチェコに住む在留邦人やチェコを訪れる日本人旅行者との会話を楽しむ人もいます。チェコで日本語を学ぶ人たちにとって、より身近な場面を想定した親しみやすい教材があればという思いで、勉強会の場での教材作りを提案しました。メンバーの皆さんの賛同を得て、「チェコで使える日本語会話スキット集」の共同作成が、勉強会の新たな活動として進められています。

 先日、その第1弾、プラハやオロモウツといったチェコの町の地図を使った、道案内をテーマにした教材ができあがり、何人かの先生方からさっそく授業で使ってみたとの嬉しい報告がありました。学習者の反応や使ってみて気づいた点を勉強会でフィードバックし合い、さらに手を加え、より使いやすいものにしていきたいと思っています。

 この教材作りは始めたばかりでまだ手探りの状態です。通訳やガイドの仕事をしながら日本語教師を続ける先生方も多く、相談のための十分な時間がとれない場合も少なくありません。しかし、ゆっくりではありますが、着実にひとつずつ形にしていきたいと思います。こうして作りあげた1ページ1ページが積み重なってやがて1冊の「スキット集」となり、それはチェコの日本語教育の現場で皆が気軽に使えるひとつの財産となっていくことでしょう。それと同時に、知恵を出し合ってひとつのものを作るという作業を地道に重ねる中で築きあげられてくる絆が、今後チェコの日本語教育を発展させる原動力となるにちがいないと思っています。

 メンバーは少しずつ増え18名になりました。現在のところそのほとんどが日本語教師ですが、日本語を教えているか否かに関わらず、チェコの日本語教育に関心のある方々に広く参加してもらえる場になっていったらと願っています。

次回の日本語弁論大会に向けて

 チェコの日本語弁論大会は長い歴史があり、昨年の大会は第29回を数えました。その間、日本語を学ぶ人々も増え、その学習形態も多岐に渡るようになってきました。弁論大会もまた、そのような変化に対応した変革の時を迎えています。第30回という節目の大会を開くにあたり、これまでの大会で育まれてきた伝統を大切にしつつ、より良い大会にするための検討が、今、勉強会の場で始まっています。

 次の弁論大会は来年の春に行われます。日本語を学ぶ人たちの目標ともなり励みともなる実り多い大会になることを目指して、これから、さらに具体的な細かい部分についての話し合いが続きます。

 チェコの日本語教育は今、少しずつ新たな動きを見せ始めています。五年十年そしてさらに先の時代にも、この地域で日本語を学ぶ人々にとって魅力ある日本語学習の場が広がっていることを願い、そのために必要なことは何なのか、今できることは何なのかを探りながら、多くの方々と力を合わせ一歩ずつ前に進んでいきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
チェコにおいて日本語・日本研究専攻の学科を有する2大学のうちのひとつであり、同国の日本研究・日本語教育の中心的な役割を担っている。日本研究の専門家の養成を目指し、日本語だけでなく日本の社会・経済・歴史・文学について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。専門家は日本語講座での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言を行う。同時に、他の教育機関の日本語教師への協力、日本語弁論大会等日本語関連行事への協力、日本語教育関係者のネットワーク作りも行う。
ロ.派遣先機関名称 カレル大学
Charles University, Prague
ハ.所在地 Celetná 20, 116 42, Praha 1, Czech Republic
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
カレル大学哲学部東洋研究所日本学専攻(通称:日本研究学科)
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1947年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1991年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤4名(うち邦人0名) 非常勤1名(邦人)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   3年:17名 5年:14名 留年:20名 博士課程:8名
(2) 学習の主な動機 日本の伝統文化や文学・歴史への関心、日本語に対する興味、日本のアニメへの関心など
(3) 卒業後の主な進路 通訳、翻訳、ガイド、日本語教師、日系企業に就職など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級~1級程度
(5) 日本への留学人数 短期も含め現在9名

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