世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) チェコで日本語を学ぶ若者たち ―日本人ビジターを迎えた会話クラスと日本語弁論大会―

カレル大学
三上 京子

 2006年の国際交流基金の調査によれば、チェコでは810人の日本語学習者が、26の様々な機関で日本語を学んでいます。その中で日本語教育が最も早く始められ、現在でもその中心的存在となっているのが、国際交流基金の派遣日本語教育専門家(以下、派遣専門家)が所属するカレル大学日本研究学科です。今回は、カレル大学での授業の様子と、学生たちが参加した日本語弁論大会の様子をご紹介します。

カレル大学の日本語授業 ―日本人ビジターを迎えて―

 チェコの首都プラハにあるカレル大学は歴史が大変古く、中欧最古の大学として1348年、カレルⅣ世によって創立されました。日本研究学科の設立は1947年ですから60年の歴史を持つことになります。これまでに数多くの優秀な日本研究家を輩出してきました。チェコの大学は他のヨーロッパ諸国の大学と同様に、2005年にこれまでの5年で修士課程卒業のシステムから3年で学士課程、2年で修士課程卒業のシステムに変更されました。現在1年生から3年生まで50名ほどが熱心に学んでいて、今秋には新システムになって初めての修士課程生が誕生します。

 日本語の授業は1年生が週に6コマ(1コマは90分)、2年生が5コマ、3年生になると日本研究の専門科目が増えるため3コマしかありませんから、決して十分な時間とは言えません。それでも3年間で日本語能力試験1級~2級、日系企業などで通訳の仕事ができるほどの日本語力を身につけます。大学での派遣専門家の第一の仕事はもちろん日本語の授業を担当することです。派遣専門家は母語話者として主に会話や作文の授業を担当し、日本語表現能力の育成に力を入れています。

2年生クラスでのビジターセッションの写真
2年生クラスでのビジターセッション

 最初の写真はある日の2年生の授業風景です。ここ数年のチェコのめざましい経済発展、それに伴う日系企業の進出等により、今プラハには1700人ほどの日本人が住んでいます。しかし学生たちが実際に日本人と接し、学んだ日本語を使って色々なことを自由に話すという機会はそう多くはありません。そこで、プラハにチェコ語をはじめ音楽や映画など芸術を学びに来ている日本人留学生にビジターとして大学の授業に参加してもらい、それぞれ小さなグループを作って自由に話し合うというセッションを企画しました。

 普段からもちろん真剣に勉強に取り組んでいる学生たちですが、写真を見てわかる通り、この日は学生たちの目の輝きが違いました。話した内容は大学生活のこと、留学の目的や研究しているテーマのこと、日本人とチェコ人の生活の違い、アルバイトや将来の仕事のこと、日本の歴史、文化、伝統芸能、またアニメなどのポップカルチャー、さらに教科書で勉強した環境問題、男女格差の問題など実に様々だったようです。今回、学生たちが本当に生き生きと日本語で話している姿を見て、来年度もぜひ同じような企画で様々な在留邦人の方々に来て頂けたらと思いました。

日本語弁論大会

 さて、この学生たちが年に1度、日頃の学習の成果を発表する絶好の機会になっているのが、今年で32回目を迎えた「チェコ日本語弁論大会」です。年々出場者数も増えてきて、今年はスピーチの部門に25名もの応募者があり、大会実行委員会は嬉しい悲鳴をあげました。スピーチは学習時間が300時間未満の「初級」の部とそれ以外の「中上級」の部に分かれて競われます。それぞれ2分、4分という制限時間の中、原稿を一切見ることなく、みな必死に覚えてきた日本語のスピーチを披露します。

 初級の部では、趣味の音楽やスポーツ、アニメ、休日に行くコテージやよく行く喫茶店の話など、日常の生活の一こまを紹介するテーマが多く見られました。それが中上級の部となると、「ものの哀れ」「謎の多いお守り、招き猫」「日本の焼き物と渋いという言葉」「めがねの固定観念」などのように、日本の伝統文化、日本人の感性や言葉の問題といった抽象的なテーマを扱ったスピーチも登場します。日本人の審査員たちも、その内容の高度さとスピーチの完成度の高さに目を見張っていました。

 今年、カレル大学では初級の部に3名、中上級の部に5名もの出場者を送りだしました。大会の前2週間ほどは、連日学生たちを研究室に呼んでスピーチ原稿の読み合わせ、発音やイントネーションのチェックなどを行いました。大会当日は、観客席で見ているほうも緊張してしまいましたが、学生たちは全員ほとんどミスもなく時間内にスピーチを終えることができました。指導してきた学生たちの素晴らしいスピーチを聞くことができ、感慨もひとしおでした。

日本語弁論大会 スピーチ初級の部の写真
日本語弁論大会 スピーチ初級の部

 写真は、スピーチ初級の部で優勝したカレル大学の1年生です。大学に入る前に少しだけ日本語を勉強したということですが、日本のアニメの大ファンで実に様々な言葉や表現をアニメから学んでいるようです。また発音やイントネーションなどを本当に自然に身につけているのも、いつもパソコンでアニメを見て生の日本語に接しているからなのだと思います。アニメが日本語学習の動機となっているだけでなく、まさに生きた教材として日本語学習に貢献していることを実感させられました。

 派遣専門家としてチェコに赴任して8ヶ月がたち、5月には大学の年間の授業もすべて終わりました。授業終了後も旧システムの修士課程生と新システムの3年生の卒業試験、学部学生の定期試験とまだまだ業務は続きますが、新年度の始まる10月に向けて、学生たちのさらなる日本語能力向上のために、専門家としてこれからもできる限りのことをしていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
チェコにおいて日本語・日本研究専攻の学科をもつ2大学のうちの一つであり、同国の日本研究・日本語教育の中心的な役割を担っている。日本研究の専門家の育成を目指し、日本語だけでなく日本の社会・経済・歴史・文学・思想史等について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。派遣専門家は日本語教授、カリキュラム・教材作成への助言を行うほか、他の教育機関の日本語教師への協力・助言、日本語弁論大会等日本語関連行事への協力、日本語教育関係者のネットワーク作りを業務とする。
ロ.派遣先機関名称 カレル大学
Charles University, Prague
ハ.所在地 Celetná 20, 116 42, Praha 1, Czech Republic
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
カレル大学哲学部東アジア研究所日本学専攻(通称:日本研究学科)
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1947年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1991年
(ロ)コース種別
専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤4名(うち邦人0名) 非常勤2名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   1年生:22名 2年生:20名 3年生:21名
(2) 学習の主な動機 日本の伝統文化や文学・歴史への関心、日本語に対する興味、アニメへの関心など
(3) 卒業後の主な進路 日系企業に就職、通訳・翻訳、ガイド、日本語教師など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級~1級程度
(5) 日本への留学人数 短期も含め7名程度

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