世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) チェコ日本語教師会の活動とその成果

カレル大学
三上 京子

 2007年1月に発足したチェコ日本語教師会(以下、教師会)は、今年で4年目を迎え、現在26名(うち邦人20名)の会員が登録、様々な活動を行っています。教師会が関わる年間行事として最大のものは、「チェコ日本語弁論大会」と「日本語能力試験模擬試験」ですが、そのほかに毎月1回、日本語上級専門家が中心となって「日本語教育勉強会」を開いたり、年に一度、外部から講師を招いてセミナーを開催したりしています。そして一昨年からは、教師会メンバーの手による、チェコ人のためのオリジナル教材作成という大きなプロジェクトもスタートさせました。

カタカナ教材の出版

  その教材というのが、最初の写真にある緑色の表紙の「絵でおぼえるカタカナ」です。外国人にとって、46のカタカナの字形と発音を覚えるのは決して容易ではありません。そこで、カタカナの音をもつチェコ語の単語を絵で描き表し、その絵の中にカタカナの字形を描き入れることで、絵と音を結びつけてカタカナを覚えてもらおうというのがこの教材の目的です(これは英語教育で考え出された方法で、アソシエーション法と言います)。例えば、チェコ語で博物館は「ムゼウム」ですから、博物館の絵の中にカタカナの「ム」が書き入れてあることで、「ム」の字形と「mu」という発音がイメージで結びつけられるというわけです。

カタカナ教材の出版の写真
カタカナ教材の出版

 写真のオレンジ色の教材は、カタカナ教材の前身として2007年9月にチェコ・日本友好協会から出版された「絵でおぼえるひらがな」です。実は、このひらがな教材が出版された時、学習者たちから次はぜひカタカナもという要望が強く出されました。そこで、カタカナ教材作成のプロジェクト・チームが2008年8月にスタートしました。一つ一つのカタカナに何の絵をあてはめるか、というところから始まり、書く練習のための言葉を選んだり、クイズ形式で楽しく練習してもらうためのページを考えたりするなど、総勢18名もの教師会会員が知恵を出し合って少しずつ作っていきました。途中いろいろな難しい問題にもぶつかり、完成までに1年7カ月を要しましたが、教師会会員にとって一つの教材を完成させたことは、大変いい経験になったと思います。完成した教材は早速、プラハにある「チェコ・日本友好協会」や地方都市ブルノにある「日本センター・ブルノ」で販売されていますが、学習者にも大変好評とのことです。

日本語教育オープンセミナーの開催

 2つ目の写真は、2010年3月に開かれた「日本語教育オープンセミナー」の講演風景で、講師は早稲田大学大学院日本語教育研究科教授の川口義一先生です。この日は、「外国人に日本語を教えること ―初級教授法の考え方―」というタイトルで、大変わかりやすく、また興味深い講演をしていただきました。また、サイレント・ウェイという教授法による「ひらがな・カタカナの指導法」も紹介されました。

日本語教育オープンセミナー開催の写真
日本語教育オープンセミナー開催

 教師会ではこれまでにも外部の講師を招いてセミナーを開催してきましたが、その対象は教師会会員に限られていました。今回初めて、教師会会員だけでなく広く一般の方に日本語教育について少しでも知ってもらおうという趣旨で「オープンセミナー」として開催しました。大使館ホームページや日本人会会報にもセミナー開催のお知らせを載せていただいた結果、当日の参加者22名のうち半数の11名が一般からの参加でした。途中の休憩時間には、講師の先生による珍しい楽器の演奏もあり、また講演後は次々と講師のところに質問に行く人もいて、セミナーは大盛況のうちに終わりました。

「日本語能力試験」実施が決定

 今年度の教師会活動にとってもう一つの大きな出来事は、今年からチェコでも「日本語能力試験」が実施されることが決まったということです。これまでチェコでは「日本語能力試験」(以下、本試験)が実施されていなかったため、受験したい学習者はハンガリーのブダペストやドイツのベルリンまで行かなければなりませんでした。しかし、外国での受験は学習者にとって費用も時間も大変な負担でした。そのため、何とかチェコでも本試験を実施してほしいというのが、学習者や教師たちの願いでした。

 そこで、教師会では本試験実施を目標に、2005年から「日本語能力試験模擬試験」として、本番と同じような模擬試験を実施してきたのですが、受験者数も年々増え70名ほどになりました。そこで、その実績をもって今年思い切って本試験開催を申請した結果、実施が認められことになりました。模擬試験実施という教師会のこれまでの地道な努力が実を結んだのだと思います。

 カタカナ教材の作成、セミナー開催、模擬試験実施等を通して、教師会組織や会員同士のネットワークもいっそう強化されてきたことは間違いありません。今年は専門家交代の年となりますが、後任の専門家にも教師会活動をしっかりとサポートしてもらうよう引き継ぎ、チェコ日本語教師会の活動が今後ますます盛んになっていくよう応援していきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 カレル大学
Charles University in Prague
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
チェコにおいて日本語・日本研究専攻の学科をもつ3大学のうちの一つであり、同国の日本研究・日本語教育の中心的な役割を担っている。日本研究の専門家の育成を目指し、日本語だけでなく日本の社会・経済・歴史・文学・思想史等について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。日本語上級専門家は日本語教授、カリキュラム・教材作成への助言を行うほか、日本語教師会勉強会の開催、他の教育機関の日本語教師への協力・助言、日本語弁論大会等日本語関連行事への協力、また日本語教育関係者のネットワーク作りを業務とする。
所在地 Nam. Jana palach 2, Praha 1, 116 38 Czech Republic
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
カレル大学哲学部東アジア研究所日本学専攻(通称:日本研究学科)
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1941年
国際交流基金からの派遣開始年 1991年
コース種別
専攻
現地教授スタッフ
常勤5名(うち邦人0名)、非常勤2名(うち邦人0名)
学生の履修状況
履修者の内訳   学士:15~16名、修士:5名~8名
学習の主な動機 日本語、日本文化や文学・歴史・日本社会への関心、留学・就職のため
卒業後の主な進路 日系企業就職、通訳・翻訳、研究留学、日本語教師など
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級~1級程度
日本への留学人数 短期も含め7~8名

ページトップへ戻る