世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) JF日本語教育スタンダードへの取り組みを始めたカレル大学

カレル大学
森田 衛

創立者カレル4世を囲む1年生の写真
創立者カレル4世を囲む1年生

 神聖ローマ皇帝カレル4世によって1348年に創立されたカレル大学は、中欧最古の歴史を有しており、これまでに多くの優れた人材を輩出してきました。大学の施設はプラハの街中に点在していますが、日本研究学科が入る建物は世界各地から訪れる観光客で賑わう旧市街広場のすぐ近くに位置しています。しかし、建物の中に一歩足を踏み入れると、そこには外の喧騒が信じられないほど落ち着いた学びの場が広がっています。

日本研究者を養成する中核機関として

 カレル大学には知的好奇心が旺盛な学生が多くいるように思います。難関を突破して入学した日本研究学科の学生は日本語の学習に熱心に取り組みますが、その根底には遠く離れた日本のことをもっとよく知りたいという気持ちが感じられます。学生は学科が用意したカリキュラムに沿って、1年次から日本の歴史、現代社会、文学、思想などの専門科目と日本語を並行して学習しますが、意欲のある学生は授業の他に自分で興味のある分野に関する文献や資料などに当たって知識を蓄えていきます。なかには、好きな作家の生涯や牛丼の価格競争について熟知している学生などもいて、その知識の幅の広さに驚かされることもあります。

ユーモアを愛する学生たち

 現在、国際交流基金から派遣されている日本語専門家(以下、報告者)が学科内で唯一の日本語母語話者であるという事情から、報告者は主に発表や会話などの「話す」授業や随筆やレポートなどの「書く」授業を担当しています。修士1年生の授業では、学生が興味のある新聞記事について発表し、それに基づいて意見を述べ合うという活動を行いました。多くの学生は議論に慣れていて、異なった意見を持つ相手とも冷静に意見を交わすことができますが、決してクラスは攻撃的ではなく、和やかな雰囲気に満ちています。先日も、次のようなやりとりがありました。

学生A: インターネットのオンラインゲームやテレビゲームなどで遊びすぎて、規則正しい日常生活を送ることができない若者が増えています。こうした人たちは「ネトゲはいじん」とも呼ばれています。
学生B: すみません、「ネトゲはいじん」の「はいじん」とはどういう漢字を書きますか。
学生A: 「はいじん」です。(と言いながらホワイトボードに「廃人」と書く)
学生B: ああ、そうですか。俳句を作る人、「俳人」だと思いました。
学生A: それなら、だれにも迷惑をかけないからいいんですけれど。

 いつもではありませんが、このようなウィットに富んだやりとりが展開されることもあり、報告者も議論の行方を毎回楽しみしています。

JF日本語教育スタンダードへの取り組み

修士2年生口頭発表会の様子の写真
修士2年生口頭発表会の様子

 カレル大学では、国際交流基金が開発・普及に努めているJF日本語教育スタンダード(以下、JFSD)を今年から一部の授業のコースデザインに取り入れています。先ほどご紹介した授業では、「5分程度の発表を聞いて、その場にふさわしい表現や言い方で意見交換ができる」というコース全体を通じた目標を立てましたが、それを達成するために、授業ごとにさらに小さな目標を立てています。ちなみに、現在、カレル大学のカリキュラムは学士3年と修士2年から構成されていますが、修士1年生の入学時における平均的な日本語レベルをJFSDのB2程度と定め、学年末にはC1レベルへの到達を目指しています。

 また、修士2年生の担当コースでは「専門の学会に出席して日本語で発表することができる」というコース目標を立てて、年間を通じてその目標に近づけるために必要な技能を磨きました。学会等に出席して日本語で発表するためには、どんな技能が必要なのか、コースの最初に学生とも話し合い、話す技術と書く技術の向上を目指したコースデザインを作成して実践しました。最後にコースのまとめとして、後輩等に集まってもらい口頭発表会を開催しましたが、手元のメモだけを頼りに日本語だけで約20分間のプレゼンテーションをやり遂げた学生からは、一定の達成感と自信が得られた様子でした。目標とするC2レベルへの道のりは決して平坦ではありませんが、その足がかりは各自掴んだのではないかと思います。

日本語能力試験をブルノ市で開催

 チェコで初めてとなる日本語能力試験が南東部のブルノ市で開催されました。当初の予想を大きく上回る受験者140名(申込者166名)が、チェコ国内はもとより、近隣のオーストリアやスロヴァキアなどから集まりました。あいにく、試験前日には厳しい冷え込みの上に大雪が降り積もり、公共交通機関が一時ストップしてしまいましたが、試験当日は一転して朝から好天に恵まれ、無事に試験を実施することができました。ここに至るまでには、実施機関の日本センター・ブルノ、チェコ日本語教師会、在チェコ日本大使館等関係者による長年の努力の積み重ねがありましたが、これまでの努力が本試験開催という形で実を結んで本当に良かったと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Charles University in Prague
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
チェコにおいて日本語・日本研究専攻の学科をもつ3大学のうちの一つであり、同国の日本研究・日本語教育の中心的な役割を担っている。日本研究の専門家の育成を目指し、日本語だけでなく日本の社会・経済・歴史・文学・思想史等について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。日本語専門家は日本語教授、カリキュラム・教材作成への助言を行うほか、日本語教師会勉強会の主催、他の教育機関の日本語教師への協力・助言、日本語弁論大会等日本語関連行事への協力、また日本語教育関係者のネットワーク作りを業務とする。
所在地 Nam. Jana palach 2, Praha 1, 116 38 Czech Republic
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
カレル大学哲学部東アジア研究所日本学専攻(通称:日本研究学科)
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1947年
国際交流基金からの派遣開始年 1991年
コース種別
専攻
現地教授スタッフ
常勤5名(うち邦人0名)、非常勤3名(うち邦人0名)
学生の履修状況
履修者の内訳   学士:各学年15名~20名程度 修士:20名程度
学習の主な動機 日本語、日本文化や文学・歴史・日本社会への関心、留学・就職のため
卒業後の主な進路 日系企業就職、通訳・翻訳、研究留学、日本語教師など
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2~N1程度
日本への留学人数 短期も含め7~8名

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