世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 趣味は日本語!

カレル大学
森田 衛

 チェコに派遣されている日本語専門家の業務は、派遣先であるカレル大学での教務のほか、チェコ全体の日本語教育支援を主にチェコ日本語教師会の方々とともに行っています。教師会が中心になって、チェコで毎年定期的に実施している事業には、日本語弁論大会や日本語能力試験などがありますが、そのほかに外国から講師を招いて行う日本語教育に関するセミナーも随時開催しています。それらの行事ではこれまでの伝統を重んじながら、時代に合わせて新しい風を吹き込もうと努力しています。

チェコ日本語弁論大会 

イジー・ケルネルさんのスピーチの写真
イジー・ケルネルさんのスピーチ

 チェコにおける日本語弁論大会の歴史は古く、チェコスロバキア時代から数えて今年で36回目を迎えました。日本語弁論大会は在チェコ日本国大使館、チェコ・日本友好協会、チェコ日本人会、日本センター・ブルノ、チェコ日本語教師会の共催で行われており、協賛企業とチェコ在住の多くのボランティアスタッフによって大会が支えられています。

 チェコでは老若男女を問わず、趣味として日本語を選び、何年もの間、こつこつと自分のペースで学習し続ける学習者によく出会います。

 イジー・ケルネルさんは定年まで高校で数学や物理の先生をなさっていましたが、なんと70歳で一念発起し、独学で日本語学習を開始されました。チェコ語と文法構造が全く異なる日本語を短期間のうちに習得し、76歳になられた今では日本の物理の教科書や絵本を読むことを楽しみにしていらっしゃいます。ケルネルさんとは、時々日本語でメールのやりとりをしていますが、メールには季節の草花を愛でる言葉が添えられていて、いつもこちらの心が温かくなります。そんなケルネルさんと何度か話をするうちに、ぜひ多くの方々にケルネルさんの話を聞いてほしいと思うようになり、弁論大会に特別ゲストとしてお招きすることにしました。

 大会当日は、ケルネルさんが日本語学習を始めるきっかけとなったエピソードや若い頃から抱いていた日本のイメージなどについて話してくださいましたが、特にケルネルさんがスピーチの最後に発した「みなさん若い時は一度しかありません」というメッセージは、会場にいた若い日本語学習者をはじめ、多くの聴衆の心に響いていました。

 今年の弁論大会の優勝者と準優勝者はともにシステムエンジニアとして働いている方で、仕事のかたわら、趣味で何年も日本語学習を続けています。優勝者のスピーチは、東京の終電間際の賑わいを駅のアナウンスのものまねを交えながら紹介したもので、会場は終始爆笑の渦に包まれていました。準優勝者もアニメの舞台になった場所をファンが訪れる「聖地巡礼」について熱く語るなど、弁論大会全体を通じて感じられるのは、内容もさることながらテーマの選択が非常に個性的だということです。日本や日本人のことをもっとよく知りたいという気持ちが、日本語学習を長く持続させる要因になっているのかもしれません。

作文コンテスト

 一方、人前で話すのは苦手ですが、書く方で自己表現をしたいという学習者のために、近年は弁論大会の時期に合わせて、作文コンテストを実施しています。今年のテーマは初級の部は「10年後の私」、中上級の部のテーマは「ヨーロッパの将来」でした。これまで作文の審査は日本語教師だけで行ってきましたが、より多様な視点から審査を実施することを目指してチェコ在住の方々にも作文審査をお願いしたところ、日本語教師10名のほかに37名もの方が一般審査員として作文審査に協力してくださいました。審査に当たっては、国際交流基金が開発したJF日本語教育スタンダードを参考に評価基準を作成し、日本語学習者が書いた作文を読んだことがないという方でも審査がしやすいように評価方法を簡便にしました。審査員からは「時々文法や語彙が間違っているが主張したいことはよくわかる」、「どの作文も一般論ではなく書き手の個性がよく出ている」といった好意的なコメントをいただきました。今後も評価基準の文言をさらに改善するなどして、多くの方が審査に参加できる開かれた作文コンテストを実施していきたいと考えています。

「チェコJF日本語教育スタンダードセミナー」を開催

「JFスタンダードの木」を参考に課題に取り組む参加者の写真
「JFスタンダードの木」を参考に課題に取り組む参加者

 ボン大学の奥村三菜子先生とブダペスト日本文化センターの境田上級専門家を招聘して、チェコ及びスロバキアで活躍している先生方を対象にした日本語教育セミナーをカレル大学で開催しました。「JF日本語教育スタンダード」はヨーロッパの言語教育の基盤であるCEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)の考え方を基礎にして作られていることから、2日間にわたって、CEFRとJF日本語教育スタンダードの中身とその取り入れ方について、ワークショップを交えて参加者全員で考えました。CEFRは「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ共通参照枠」であるため、各教育機関や学習者の状況に応じて柔軟に取り入れていく必要性を今回のセミナーを通じて確認することができました。どの部分をどのように取り入れていくかについては、他国の実践例などを参考にしながら、今後各教育機関で検討していくことになりました。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Charles University in Prague
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
チェコにおいて日本語・日本研究専攻の学科をもつ3大学のうちの一つであり、同国の日本研究・日本語教育の中心的な役割を担っている。日本研究の専門家の育成を目指し、日本語だけでなく日本の社会・経済・歴史・文学・思想史等について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。日本語専門家は日本語教授、カリキュラム・教材作成への助言を行うほか、日本語教師会勉強会の主催、他の教育機関の日本語教師への協力・助言、日本語弁論大会等日本語関連行事への協力、また日本語教育関係者のネットワーク作りを業務とする。
所在地 Nam. Jana palach 2, Praha 1, 116 38 Czech Republic
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
カレル大学哲学部東アジア研究所日本学専攻(通称:日本研究学科)
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1947年
国際交流基金からの派遣開始年 1991年
コース種別
専攻
現地教授スタッフ
常勤5名(うち邦人0名)、非常勤3名(うち邦人0名)
学生の履修状況
履修者の内訳   学士:各学年15名~20名程度 修士:20名程度
学習の主な動機 日本語、日本文化や文学・歴史・日本社会への関心、留学・就職のため
卒業後の主な進路 日系企業就職、通訳・翻訳、研究留学、日本語教師など
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2~N1合格程度
日本への留学人数 短期も含め7~8名

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