世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「日本語教育アドバイザーの業務について」

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
日本語教育アドバイザー
岩澤和宏

「ウィーン日本語教師の会」でセミナーを行う筆者の写真
 「ウィーン日本語教師の会」でセミナーを行う筆者

 ブダペスト日本文化センター付の日本語教育アドバイザーとして、ハンガリー国内の日本語教育に対する支援・アドバイスは当然ですが、その他に周辺国の日本語教育も視野に入れ業務を行っています。周辺国への支援・アドバイスに関しては、中でも特に基金から専門家が派遣されていない国、具体的にはオーストリア、スロバキア、ユーゴスラビア等の教員指導・情報提供に重点を置いています。

 ハンガリー国内での業務に関しては、日本語教育機関の情報収集、日本語教育セミナーの開催等と並んで、「教師会」の支援が重要な業務です。後で述べるように、「教師会」の活躍はハンガリーの日本語教育発展の鍵を握っているとも言えるからです。

1.「ハンガリー日本語教師会」の活躍

1-1「日本語教師会発足」

 ハンガリーでは日本語学習者の増加・多様化の流れを受けて、2001年2月に「ハンガリー日本語教師会」が発足しました。「日本語教育セミナー」や各種勉強会を通しての教師自身の研鑚・情報交換・教師間ネットワークの形成などが主な活動内容です。

2002年9月には「ヨーロッパ日本語教師会」と共催で「第7回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム」がブダペスト商科大学にて開催されます。ハンガリーのEU加盟が近づく中、ヨーロッパ内の日本語教師・研究者との連携も重要な課題です。

1-2「初等・中等教育と高等教育の連携」

 ハンガリーにおける日本語教育の特徴は周辺国と比べて初等・中等教育レベルでの学習者が多いことです。ところが、「教師会」が発足するまでは教育段階を超えた教師間の連絡・カリキュラムの連携等はあまり行われていませんでした。折角小中学校で日本語を勉強したのに、日本語の勉強が続けられる高校の情報が少なかったり、高校で日本語を勉強した生徒が大学の日本学科を選ぶのに充分な情報がありませんでした。

 中等教育と高等教育の連携は「第6回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム」(2001年9月英国ケンブリッジにて)のテーマにもなったように世界的な問題ですが、ここハンガリーでも早くから問題として取り上げられていました。

 「教師会」が出来たことにより、高校と大学の先生の情報交換や話し合いを通して、この世界的問題の解決方法を探り始めています。問題が大きいだけに即座に解決とは行きませんが、少なくとも問題意識を共有しその解決に向けて動き出しました。

1-3「卒業試験と語彙リスト」

初級日本語 語いリスト-試用版-の写真
 初級日本語 語いリスト-試用版-

高等学校での日本語教育の位置付けは、必修科目・選択必修科目・自由科目など様々ですが、必修科目や選択科目で日本語を履修した場合は卒業に当たって全国統一試験(筆記・面接)に合格しなければなりません。統一試験ですから、同じ日に同じ問題で行われる訳ですが、教育機関毎に独自の教育カリキュラムを認めているハンガリーで「統一試験」の実施には様々な問題が生じます。

「教師会」ではこの「統一卒業試験」改善のための分科会を結成し、様々な提言を行ってきました。試験問題そのものをどう作成するかということも大きな問題ですが、それ以上に「試験持込用辞書」の問題があります。

英語やドイツ語、日本語など語学の卒業試験では辞書の持込が認められていますが、ハンガリーでは高校生が試験時に使用するのに適切な日本語の辞書がありません。そのため、日本語からハンガリー語に辿り着くのに、英語やドイツ語などを経由しなければなりませんでした。当然、時間もかかるし、誤訳もしばしば。

 

そこで「教師会」では試用版ながら初級日本語の語彙リストを作成しました。『初級日本語 語いリスト-試用版-』は全国の高校で使用されている教科書を調べた上で共通する語彙を抜き出し、それに日本語能力試験の3級までの語彙を加えた約2300語を載せています。ハンガリー語訳は初級で学習する用法に限定し、重要な順に記しています。

 基本的には卒業試験時の持込用に編集されましたが、学習用としても人気が高く、既に第2版を望む声があがっています。

2.周辺国への支援・アドバイス

 

ハンガリーの周辺には日本語教育・日本研究ともに進んだ国もあれば、そうでない国もあります。片方だけ進んだ国もあります。経済的に豊かな国・政治的に安定した国もあるし、そうでない国もあります。

 周辺国の日本語教育機関を調査してみて分かったことは、国境を越えた教育機関同士で交流や情報交換が殆どないこと。同一または類似言語を使っている場合でも、教授法や教科書・文法書など他国のものはあまり参考にされていないことが分かりました。
勿論それには政治的な問題も絡んでくることもあるので、その点はアドバイザーが深入りするべきではないと考えますが、かつてハンガリーでも高校の先生と大学の先生との間で交流があまりなかったように、特に断絶する理由もないまま単に交流がないということもあります。

 ブダペスト日本文化センターから周辺国に足を伸ばし、そこでセミナー等を行う意味は単に教員指導や情報提供だけではなく、その国とハンガリー、また周辺国同士を繋ぐ意味もあります。

 このように国境を越えた日本語教師間のネットワークを少しずつ形成していくことも、広域アドバイザーの重要な任務だと考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 ブダペスト日本文化センターでは、中東欧地域の日本語教師にも参加を呼びかけて日本語教育支援事業を行うなど、広域的な事業展開をしていることが特徴のひとつである。アドバイザーのハンガリー国内での業務は、日本語教育機関の調査・情報収集、日本語教育セミナーの開催、教師会の支援に重点を置き、国外においては定期的に周辺国(オーストリア、スロバキア、ユーゴスラビア等)に出張し、教員指導や情報提供だけでなく、ハンガリーおよび周辺国のネットワーク形成も行っている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation Budapest Office
ハ.所在地 Horvat u. 14-24, 1027 Budapest II, Hungary
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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