世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ブダペスト日本文化センターのアドバイザー

ブダペスト日本文化センターのアドバイザー

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
栗原 幸則

 国際交流基金ブダペスト日本文化センター(以下JFBPと略す)は国内だけではなく、周辺諸国も対象に含む広域事務所として位置づけられています。ですから、業務もハンガリー国内から周辺国に及びます。JFBPには筆者であるアドバイザーの他にジュニア専門家がいます。それでは、各々の業務について説明します。

 JFBPのアドバイザーは一日本語教育機関に所属し授業を担当することが業務ではなく、任国を含め周辺国の日本語教育情報を集め提供したり、日本語教師の相談にのったり、研修会などの立案、準備、実施をしたり、機関訪問を行い授業見学をし助言を行ったりしています。一方ジュニア専門家はJFBPで行われている日本語講座の運営と中等教育支援(機関訪問や教材作成の助言など)を行っています。それではアドバイザーが関わった業務を以下に2つ取り上げご説明します。私はアドバイザーの仕事を「人と人とが出会う場を設け、お互いが刺激を受けそれを活力となしその刺激を所属の機関へ持ち帰り還元する環境を作ること」だと思っています。

中東欧日本語教師のための中東欧日本語教育研修会

 2003年より年に1度開催されてきた中東欧日本語教育研修会も今年で3回目(2006年2月10日~12日に実施)を迎えました。以前は中東欧の国間での国を越えた教師間の交流は十分になされていませんでした。また各国の日本語教師にとって教授法や教材などの情報も十分に行き届いているとは言えませんでした。そして現在でも国を越えた交流はインターネットやメールが普及してはいるものの、経済的な理由から直接教師が顔を合わせることは難しいのが現状です。当研修会はハンガリー及び周辺の中東欧諸国における日本語教育支援の一環として行われており、当地域に於ける日本語教育関係者間のネットワーク形成及び日本語教育の質的向上を目的としています。

中東欧日本語教育研修会の様子の写真
中東欧日本語教育研修会の様子

 今回は、クロアチア、スロヴァキア、スロヴェニア、セルビア・モンテネグロ、チェコ、ハンガリー、ポーランド、ブルガリア、ルーマニアの9カ国から、高等教育機関で日本語教育に携わっている先生方9名(日本語母語話者の先生3名、日本語非母語話者の先生6名)が参加しました。

 研修内容は2つに分かれています。その1では研修参加者各機関の日本語教育情報、問題点に関する部が設けられ、教育機関ごとに詳しい情報報告がなされました。その2では高等教育における読解の課題と問題点に関する講演、およびワークショップが行われました。講演には神戸大学から中西泰洋留学生センター長をお招きし「表現力に結びつける読解教育について」のお話をいただきました。続いてのワークショップでは4人程度に分かれたグループごとに「読解教材の作成」または「読解指導における評価」に関して話し合いを行い、紙面にその内容をまとめグループごとに発表を行いました。みなさん非常に熱心にテーマに取り組み話し合っていました。読解に関しては具体的な読解授業の手法が参考になったことや、これがきっかけとなりより積極的に授業に臨むことができるといったコメントが見られました。ネットワークについては、参加者との間で新たなプロジェクトの企画(ある国のA大学の学生作文を他国のB大学で読解に利用する)が生まれたことなどネットワーク構築に効果を上げています。今後は国内や国を越えた規模の研修会やシンポジウムなどのイベント開催に関する企画・実施が現地の教師が中心になりできるよう進めていきたいと思います。

ハンガリースピーチコンテスト

 スピーチコンテストでは審査員およびスピーカーへの質問作成に関わっています。審査員には一般日本人も含まれていますが、筆者は日本語教育の専門的見地から意見を述べ審査会を支援しています。またスピーカーへの質問ですが、これは高校生以下の部、一般および大学生の部に分かれて担当者により事前に作成されます。筆者の仕事は作成された質問が内容的に、難易度的にバランスの取れた質問であるかを吟味し担当者と質問内容を調整することです。

セミナー・シンポジウムへの参加

ルーマニアでのセミナーの写真
ルーマニアでのセミナー

 中東欧地域で開催されるセミナーやシンポジウムには筆者が発表する形で参加することがあります。会に集まる日本語関係者とのネットワーク構築、情報収集がその目的です。2005年9月にはブルガリアのシンポジウムに、11月にはルーマニアのセミナーに参加しました。このような機会は遠隔地の関係者にもお目にかかれる大変貴重な場でもあります。参加される方からは「国外の情報や話に触れることは意義あること、教師にとりいい刺激になる」「いつも同じメンバーで集まる勉強会とは異なり新鮮だ」などのコメントが聞かれました。

機関訪問

 国内外の日本語教育機関へできるだけ足を運び、現場の日本語関係者と接するのも大切な仕事です。その中で授業に対する助言や、教材作成アイデア、日本人との会話機会の創出などさまざまな相談に対応しています。地方で教える教師や教師数の少ない地域の教師は情報の面や相談する相手がいないという面で孤立しがちです。機関訪問後も電話やメールでのやり取りを通して継続的に現場を支援しています。

ハンガリーの学習者

 ハンガリー日本語学習者の学習動機は多様です。日本から遠く離れたハンガリーで漫画や音楽に興味を持ちポップカルチャーに親しむ人、武道など伝統文化の心に惹かれる人、言語や文学を紐解く道具として日本研究を続ける人、そして一番驚かされたのは、「日本語が難しいから学習する気になった」という人です。このように多様化した学習者がこれからも興味を失うことなく日本との関わりを持ち続けることを私は願ってやみません。そのために日本人と学習者との交流会を設けること、そして企画・実施の原動力となる教師会への支援を行うことや機関訪問や勉強会などを通して授業に役立つアイデアを教師に伝えることなどの支援を続けていくつもりです。

ブタペスト事務所のジュニア専門家

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
飯野令子

 国際交流基金ブダペスト日本文化センター(以下、「JFBP」と略す)のジュニア専門家の担当業務は、JFBP日本語講座(以下、「講座」と略す)の運営とハンガリーの中等教育段階の日本語教育の支援です。

講座

JFBPセミナー室(講座の教室)の写真
 JFBPセミナー室(講座の教室)

JFBP講座教師用スペースの写真
JFBP講座教師用スペース

 ハンガリーでは小学校から大学までの各教育段階で日本語教育を実施する学校がありますが、日本語が開講されていない学校の生徒・学生や社会人の中にも、日本語を勉強したいと思っている人が多くいます。そのような、学校教育以外で日本語学習を希望する人のために講座があります。JFBPが講座を直接運営するようになったのは2004年からで、2005年にジュニア専門家が講座担当として赴任しました。

 講座は1年間のコースで、1週間に2回、1回100分の授業を行います。初級から中級までの学習者がレベル別に5つのクラスに分かれて勉強しています。受講者は高校生・大学生や社会人ですから、授業は夜です。みんな、高校・大学の勉強や仕事と夜の講座を両立させているのですが、大部分の人が「日本の武道を習っているから」「日本のアニメを日本語で理解したいから」「ヨーロッパ以外の言語を勉強したいから」など、趣味として日本語を勉強しています。しかし、趣味として勉強するには日本語は予想外に難しいようです。特に初級の学習者にとっては、ひらがな、カタカナ、漢字という、アルファベットとは違う3種類の文字を使うことにも困難を感じるようです。そのため、1年間の学習を続けられない受講者がいるのも確かです。それでも、2005/6年度(2005年9月~2006年6月まで)の講座では、51名の受講者が1年間の学習を修了しました。講座では受講者が日本語でコミュニケーションできる力をつけるだけでなく、日本や日本語への興味を持ち続けられるように、魅力的な授業をしていきたいと考えています。受講者は講座の授業以外では、ほとんど日本語を使わない環境にいますが、日本人ゲストとの交流なヌを積極的に取り入れることで、これまでの学習の成果を感じたり、今後の学習意欲につなげる機会を作っていきたいと思います。

 講座の授業を担当するのは、ジュニア専門家以外に、現地在住の日本語教師たちです。ハンガリー人教師、日本人教師、ジュニア専門家が協力して、授業を担当するとともに、カリキュラムや講座の方向性についても話し合って決めています。ひとつのクラスを2人の教師が交互に教え、ひとりはハンガリー語を使って文法説明などをし、もうひとりはハンガリー語を使わずに練習をするようにしています。教師たちは毎回の授業を振り返る報告を提出して、次の教師に引継ぎ、お互いのやり方を見て、影響を与え合いながら授業を進めています。教師同士が授業見学をしたり、勉強会を開いたりして、共に成長していけるような環境も作っています。

中等教育段階の日本語教育支援

 ハンガリーは高等教育段階だけでなく、初等・中等教育段階でも日本語教育が盛んな国です。ハンガリーの教育制度では、8年間の小学校の後、4年間の高校に進みます(学校により修学年数が異なる場合もあります)。小学校では選択科目や課外活動として日本語教育が行われていますが、高校では選択必修科目として実施される学校もあり、高校卒業試験(大学入学試験を兼ねる)の科目のひとつにもなっています。

 高校で日本語を学習する生徒の多くは、日本文化に興味を持って日本語を選択するようです。しかし、4年間、学習意欲を保ち続けることは難しく、生徒によって日本語力の差も大きくなるようです。また、一部の生徒は高校卒業試験の科目に日本語を選ぶので、受験のための勉強も必要になります。高校生への日本語教育は、日本語への興味を失わせない魅力的なものであると同時に、大学受験のための勉強も視野に入れなければならないという難しさがあります。

 ジュニア専門家はこれまで、現場の状況を知るために、高校を訪問し、日本語の授業の様子や教育設備などを見てきました。そして、教師から話を聞いて、支援の糸口を探してきました。そこでわかったことのひとつは、教材の問題です。ハンガリーでは、小学生向けの日本語教材は出版されていますが、高校生向けや成人向けに出版された教材がありません。そのため、日本で出版された教材を使うことになるのですが、値段が高いですし、購入するルートもありません。それで、多くの学校が、日本からの寄贈プログラムなどで教材を入手し、それを生徒に貸し出して、主教材として使っています。借りた本には書き込みもできませんし、生徒が何代にも渡って使うため、ぼろぼろになります。また、日本で出版された教材といっても、成人の日本滞在者向けのものが使われており、ハンガリーの高校生には、内容が合っていません。このような状況から、ハンガリーで出版され、ハンガリー語の説明があり、ハンガリーの高校生にとって魅力のある教材を作りたいという声が、高校の教師から上がっています。ジュニア専門家は今後、そのような要望をかなえるために協力していきたいと考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ハンガリーだけでなく、周辺の中東欧地域も活動範囲とする広域事務所である。日本語講座については、ハンガリーにおいて学校教育以外で日本語を学習できる数少ない機関のひとつであり、中級クラスについては大学専攻以外では、唯一といえる。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Budapest
ハ.所在地 1062 Budapest, Aradi u. 8-10. Hungary
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名、ジュニア専門家1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
国際交流基金ブダペスト日本文化センター日本語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   2004年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 2005年
(ロ)コース種別
成人教育
(ハ)現地教授スタッフ
4名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   初級4クラス約50名、中級1クラス約10名
(2) 学習の主な動機 日本・日本文化・日本語への興味・関心
(3) 卒業後の主な進路 成人教育であるため、ほとんど日本語とは関係なし
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
中級クラスで能力試験3級程度
(5) 日本への留学人数 1,2名

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