世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ブダペスト日本文化センターのアドバイザーという仕事

ブダペスト日本文化センターのアドバイザーという仕事

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
栗原 幸則

 日本語教育専門家の業務内容は日本語教師をはじめとする日本語教育関係者からの教授法等相談に対する助言、日本語教育関係者とのネットワーク作り、日本語教育関連情報の収集と提供、勉強会、研修会などの企画および実施、機関訪問を行い、授業見学および問題点に対する支援などを行っています。それでは、私が行ってきた仕事のいくつかを紹介しましょう。

日本語学習者数でみるハンガリー

 国際交流基金ブダペスト日本文化センターでは毎年日本語機関調査を行い、日本語学習者数、機関数、教師数などのデータを取っています。
 ハンガリーには1255人(2005年11月ブダペスト日本文化センター調べ)の日本語学習者が日本語を学習しています。学習者の多い韓国や中国、オーストラリアでは10万人単位の学習者数です。またヨーロッパではイギリス、フランス、ドイツが多く1万人単位の学習者であるのに対し、中東欧諸国はルーマニア、ポーランド、ハンガリーがようやく千人単位となっています。いかにハンガリーを含めこの地域の学習者数が小さなものであるかがお分かりいただけると思います。学習者数こそ少ないですが、みなさん日本や日本語については強い関心をもって日本語を学習しています。

日本ハンガリー協力フォーラム日本語教育研修会の実施

日本語教育研修会の様子の写真
日本語教育研修会の様子

 2004年に日本とハンガリーの両首相の会談がきっかけとなり日本ハンガリー協力フォーラム事業が立ち上がりました。この研修会はそのフォーラム事業の一つです。ハンガリー在住の日本語教師を対象にした研修会で、2ヶ月に一度行われ、中学・高校・大学で教える教師、一般の語学学校やプライベートで教える教師など様々な教師が参加し行われています。第1回目は2007年5月に首都ブダペストで行われ、遠く約250キロ離れた町からの参加もありました。研修に来られたみなさんからは、大変熱心に内容に取り組む様子がうかがえました。教師にとって学ぶ場のあること、そして教えることだけでなく、学ぶことの大切さを改めて感じました。

国外でのセミナーの開催

日本語教育セミナーの様子の写真
日本語教育セミナーの様子

 上記のほかにもブダペスト日本文化センターは中東欧12カ国の担当国として指定されているので、時にはハンガリーから外の国へ出張し日本語教師を対象としたセミナーも行なっています。2007年3月にはポーランドのワルシャワで「初級の発展的な練習方法」をテーマに3時間ほどセミナーを行いました。日本語の動詞の形の中に「食べて」「見て」「来て」など「~て」になる形があります。また「食べない」「見ない」「来ない」など「~ない」になる形があります。これらの形を頭の中で理解するだけでなく、瞬時に声にするためのアイデアを示したり、自然な会話に近づけるための活動を会話の型を通して捉える話をしたりしてきました。私が話すだけではなく、参加した先生方が実際に体験し、話し合いながらの3時間としたので、大変賑やかなセミナーになりました。

教材開発への支援

 ハンガリーの日本語学習者が利用できるようにと教材の開発をお手伝いしています。ハンガリーでは、高校生の卒業試験科目の中に日本語があるため、その模擬試験問題集の作成です。問題には、読解、聴解、作文、文法、会話の問題があります。それぞれ数問ずつ問題を作るのですが、問題の形式や文字の大きさを統一したりするよう教師のみなさんと話し合ったり、日程が遅れないようスケジュールについて助言を行ったりしながら、時間をかけ完成に向けて支援を続けています。

機関訪問・授業見学

 普段ブダペストで仕事をしているので、地方へ行くことはあまりありません。そんな中で地方大学を訪問する際には、日本語教育関係の情報収集だけでなく、授業見学も行い、見せていただいた授業についての助言も行っています。訪問回数の関係で地方教師とはあまり面識がない場合が少なくありません。このような状況での助言には言葉の選び方に気をつけるよう心掛けています。また、授業見学後、何日かして電子メールで、授業の様子を伝えてくださる先生がいます。その文面の中に「思い切って教え方を変えてみたら、学習者がわかってくれた」「助言が役立った」などの連絡が入っている時には訪問してよかったとやりがいを感じます。



幅広い年齢層の日本語学習者に対応する

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
飯野令子

 国際交流基金ブダペスト日本文化センター(以下、「JFBP」と略す)のジュニア専門家の担当業務は、JFBP日本語講座の運営とハンガリーの中等教育段階の日本語教育の支援です。

JFBP日本語講座

講座の高校生クラスの授業風景の写真
講座の高校生クラスの授業風景

 ハンガリーでは小学校から大学までの各教育段階で日本語教育を実施する学校がありますが、日本語が開講されていない学校の生徒・学生や社会人の中にも、日本語を勉強したいと思っている人がたくさんいます。そのような、学校教育以外で日本語学習を希望する人のためにJFBP日本語講座(以下、「講座」と略す)があります。講座は、初級から中級まで継続的に日本語が学習できる、ハンガリーの学校教育以外で唯一の機関だと言えます。
 講座は1年間のコース(9月から6月まで)で、1回90分の授業を週2回、年間30回、計90時間の授業を行います。初級から中級まで、約110名(2007年2月後期開始時)の受講者が6レベル8クラスに分かれて勉強しています。2006年9月の開講時には未習者が60名以上集まり、社会人クラス、大学生クラス、高校生クラスの3つに分けました。
 受講者は15歳の高校生から50代の社会人まで、幅広い年齢層の人たちですが、多くの受講者が「日本文化に興味がある」「日本のアニメが好き」「ヨーロッパ以外の言語に挑戦したい」など、趣味として学習しています。しかし、趣味で学習するには日本語は予想外に難しいようです。そのため、1年間の学習を続けられない受講者がいるのも確かです。それを防ぐために講座では、受講者が日本語でコミュニケーションできる力をつけるだけでなく、日本や日本語への興味を持ち続けられるように、魅力的な授業になるように工夫しています。受講者は講座の授業以外では、ほとんど日本語を使わない環境にいますが、日本人ビジターとの交流などを積極的に取り入れることで、これまでの学習の成果を感じたり、今後の学習意欲につなげたりする機会を作っています。
 講座の授業を担当するのは、ジュニア専門家以外に、現地在住の日本語教師たちです。現在はハンガリー人教師1名、日本人教師7名およびジュニア専門家が協力して、授業を担当するとともに、カリキュラムや講座の方向性についても話し合って決めています。ひとつのクラスを2人の教師が交互に教え、毎回、教案と授業を振り返る報告を提出して次の教師に引継ぎ、授業を進めています。授業の報告や講座内の連絡はメーリングリストによって行いますし、教師同士が授業を見学し合ったり、講師会・勉強会を開いたりして、講座全体で影響を与え合い、共に成長していけるような環境も作っています。

全国に散らばる幅広い年齢層の学習希望者

地方の高校に展示してあった書道の作品の写真
地方の高校に展示してあった書道の作品

 ハンガリーは高等教育段階だけでなく、初等・中等教育段階でも日本語教育が盛んな国です。ハンガリーの教育制度では、8年間の小学校の後、4年間の高校に進みます(学校により修学年数が異なる場合もあります)。小学校では選択科目や課外活動として日本語教育が行われていますが、高校では選択必修科目として実施される学校もあり、高校卒業試験(大学入学試験を兼ねる)の科目のひとつにもなっています。
 高校で日本語を学習する生徒の多くは、日本文化に興味を持って日本語を選択するようです。しかし、4年間、学習意欲を保ち続けることは難しく、生徒によって日本語力の差も大きくなります。また、一部の生徒は高校卒業試験の科目に日本語を選ぶので、受験のための勉強も必要になります。高校生への日本語教育は、日本語への興味を失わせない魅力的なものであると同時に、大学受験のための勉強も視野に入れなければならないという難しさがあります。
 これまで、ブダペスト市内のみならず、地方の高校も訪問し、日本語の授業の様子や教育設備などを見てきました。そして、各地域の日本語教育についても聞き取り調査をして、支援の糸口を探してきました。特に地方を訪問してわかったことは、どの地域も、ひとつひとつの高校の日本語学習者数は多くないのですが、高校生以外にも、幅広い年齢層の学習希望者がいるということです。そして学習希望者が多いにもかかわらず、教材も教師も学習できる機関も不足していることです。ハンガリーでは日本語の教材がほとんど手に入らないため、独学で日本語を学習するのは難しいです。そして、特に地方においては、高校や大学に所属する日本語教師は、その地域でただ一人の日本人ということで、社会人や他の大学・高校の学生・生徒から日本語を習いたいという要望がどんどん寄せられるそうです。余裕があれば、教師が個人的に、プライベートレッスンやグループレッスンで対応するのですが、引き受けきれずに断ることも多いようです。
 各地の日本語教師に聞くと、それぞれの地域に、小さな子供から熟年層まで幅広い年齢層の学習希望者がいることがわかります。ハンガリー全国に散らばる、潜在的な日本語学習希望者に学習の機会を提供する方法を考えることが、今後の課題といえるでしょう。

派遣先機関の情報
イ. 派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブダペスト日本文化センターはハンガリーを含む周辺中東欧地域を活動範囲とした広域事務所として位置付けられている。
日本語教育アドバイザーの業務内容は日本語教師をはじめとする日本語教育関係者からの相談に対する支援、日本語教育関係者とのネットワーク作り、スピーチコンテスト等日本語関連行事への支援、日本語教育関連情報の収集と提供、勉強会、研修会などの企画および実施、機関を訪問し授業見学および問題点に対する支援などを行っている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation, Budapest
ハ.所在地 1062 Budapest, Aradi u. 8-10. Hungary
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語専門家1名、ジュニア専門家1名 計2名

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