世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) こんな仕事も仕事です

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
福島青史 柳坪幸佳 宮崎玲子

 日本語教師は教科書、絵カード、クラスで見せる実物をかばんに詰めて教室に向かい、手振り身振り、百面相、時には声色変えたり、歌ってみたり、いろいろ工夫して日本語を教えます。国際交流基金ブダペスト日本文化センター(以下、JFBP)にいる三人の日本語専門家もそうでした。しかし、今、私たちは誰一人として教室で日本語を教えていません。「日本語を教えない日本語教師」なんて「消えない消しゴム」のように、何の役に立っているのか分からないかもしれませんが、実際、私たちは来る日も来る日も仕事をしています。2010年度のこのページは「日本語を教えない日本語教師」の仕事がどんなものなのか、「教科書作成」を例にご紹介したいと思います(※1)。

骨組み屋・福島(日本語上級専門家)の仕事

編集委員会の写真
編集委員会

 教科書のシラバスを作るのが私の仕事です。この教科書のシラバスはCan-Do Statementで構成されているため、CEFRCommon European Framework of Reference for Languages、詳しくはhttp://www.jpf.go.jp/j/publish/japanese/euro/を参照のこと)やJF日本語教育スタンダードを参照しつつ、レベルを確認したり、出来上がったテキストを使って本当にタスクができるのかを確認しながら原稿を編集したりしています。シラバスを作る際には紙やポストイットに(1)ハンガリーの学習者が実際に日本語を使用する場面、(2)その場面で行われる言語活動、(3)ハンガリーの高校卒業試験のシラバス(語彙・文型など)を書いて、(4)ハンガリーのナショナルカリキュラムの教育理念、(5)CEFRの理念などに合うように、ポストイットを縦に横に張り合わせたり解体したりしています。うまく場面と語彙・文型が当てはまるといいのですが、語彙・文型を無理やり場面にねじ込もうとすると、テキストに登場する人物が不自然な行動をとるようになります。語彙・文型シラバスで染まってしまった思考回路ナ、Can-Do Statementを考えるとき、この登場人物の立ち振る舞いがポイントになります。登場人物が大根役者といわれないように、いろいろ苦労しています。

仕切り屋・柳坪(日本語専門家)の仕事

 「教科書作成に関わっています。」

 というと、「格好いいですね」と言われたりしますが、現実には非常に地味な毎日を送っています。

 私の立場は「コーディネイト」。基金のスタッフ4名、現地の中核の先生方3名で構成される編集委員、10数名にも及ぶ執筆者、イラストレーター3名、写真撮影者や写真探しの協力者、事務・翻訳のアルバイト、試用を手伝ってくださる高校の先生。そして外部の機関としては、出版社やデザイン会社、印刷所、CD作成のスタジオなど。

 周囲の人と相談しつつそれぞれの配置と業務内容を検討し、抜け落ちている仕事はないかをチェック。人が足りない場合はどうやって補充するかをひねり出す。指示を出し、遅れがちな作業がないかと目配りもして、それぞれのこだわりの部分は意向を聞きつつ内容とペースを調整。疲れている人はいないか、行き詰って困っている人はいないかと見渡して、そして大切なのはどんな時でも一定の質が維持されるように気を配ること。それが今の仕事です。

 スケジュール表のエクセルの升目に向き合うのが日課という地味な作業の毎日ですが、やはり「教科書ができる」というのは非常に大きなわくわくするようなプロジェクトで、出来上がりを楽しみにしてくださっている方が大勢いらっしゃいます。高校生を主な対象とし、自律学習にも活用してもらうことを意識した教科書。今後は作成作業と平行して、具体的にどうクラスで使っていくか、どうすればいろいろな機関に「使ってみたい」と思ってもらえるかが重要な課題。そこを意識しながら取り組んでいきたいと思っています。

よろず屋・宮崎(日本語指導助手)の仕事

トリミング中の写真
トリミング中

 私の主な仕事はこの編集と編集や執筆に携わってくださっている方々への連絡業務です。

 毎日パソコンとにらめっこしながら、現地在住の先生方が書いてくださった原稿に目を通し、難易度の調整や語彙脱字チェック、表記の確認、使用されている語彙を洗い出してリストを作る作業。そして、現在の一番大きな仕事はイラストや写真の収集をし、それを分かりやすく見栄えの良いようテキストに当てはめていくことです。ネットから集めてきたり、契約したイラストレーターに依頼をして描いていただいたイラストを枠に合うよう切ったり貼ったり大きさを変えたり。また、著作権や肖像権の問題と戦いながら使えそうな写真を探し出し、必要なら写真を加工したりといった作業も湧いてきます。そして、週1回現地の高校の日本語クラスに入り、教材の試用をさせていただいていて、現地の先生、学生の声を生で聞けるいい機会になっています。

 「完成はいつ?」との声にドキドキしながら、限られた時間内で少しでも分かりやすく使いやすいものができるよう、作業を進めていきたいと思っています。

※1「教科書作成」以外のJFBPの活動については、以前の「世界の日本語教育の現場から~日本語専門家の声」のページやJFBPホームページをご覧ください。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Budapest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブダペスト日本文化センターはハンガリーを含む周辺中東欧地域を活動範囲とした広域事務所として位置付けられている。
日本から日本語上級専門家、日本語専門家、日本語教育指導助手の3名が派遣されており、分担して業務に当たっている。業務内容は一般を対象とした日本語講座の運営を始め、シンポジウム・勉強会・研修会などの企画および実施、日本語教育機関・教師への助言・支援、日本語教育関係者のネットワーキング、スピーチコンテスト等日本語関連行事への協力、日本語教育関連情報の収集と提供、機関訪問などである。
所在地 1062 Budapest, Aradi u. 8-10. Hungary
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2000年

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