世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 中東欧をカバーし、課題遂行型教科書の使用を推進するセンターとして

中東欧をカバーし、課題遂行型教科書の使用を推進するセンターとして

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
境田 徹・三森 優

 ブダペスト日本文化センター(以下、JFBP)は、ハンガリーのほか中東欧13ヵ国(オーストリア、チェコ、スロバキア、スロヴェニア、ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、クロアチア、セルビア、モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニア、コソボ)をカバーする広域事務所として位置づけられています。現在2名の日本語教育専門家(以下、専門家)が派遣され、これら中東欧地域の日本語教育支援・ネットワーク作りのほか、日本・ハンガリー協力フォーラム(以下、フォーラム)事業のプロジェクトとして行われているハンガリー国内向けの研修会およびハンガリーの日本語学習者のための教科書制作、JFBPで行われている一般を対象とした日本語講座の運営などの業務を行っています。

『できる1』が「できた~!」~新教材の完成・出版と講座での使用開始~ 

JFBP日本語講座初級クラスの教師と学生たちの写真
JFBP日本語講座初級クラスの教師と学生たち

 JFBPではフォーラムの一事業として、2007年より現地の先生方にご協力いただきながら、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)のCan-Do(能力記述文)を軸とした課題遂行型教科書「できる」の作成に取り組んできました。そして、2011年夏、晴れて『できる1』が完成し、国立教科書出版社より出版されました。8月にはヨーロッパ日本語教師会によるヨーロッパ日本語教育シンポジウムでの同教科書の試用クラスの実践についての研究発表、9月にはそのささやかな完成披露会も行われ、作成に携わった多くの方々と出版を祝いました。披露会には在ハンガリー日本国大使館伊藤大使にも足をお運び頂き、お祝いの言葉を頂戴しました。

 JFBP日本語講座では昨年の試用クラスに引き続き、この新しい教科書『できる1』を使うクラスを新たに設置し、現在では全8クラス中半分の4クラスで『できる1』を採用しています。この教科書では、異文化理解や相互理解も重要な柱となっており、授業では課題遂行と併せて異文化理解にも重点を置いて指導を行っています。

 現在この教科書は、JFBP日本語講座以外でも、ブダペストのヴァーロシュマヨリ高校、ブダペスト商科大学、アラニー・ヤーノシュ小学校で主教材として採用されています。また、第2分冊『できる2』の作成作業も現在、鋭意進められています。この『できる2』も昨年同様、現在JFBP日本語講座のクラスで試用を行っています。このほか、JFBP日本語講座では、この教科書の有効利用のために、授業で使う副教材の開発や、「ポートフォリオ」の作成にも取り組んでおり、フォーラム事業の一環として実施している日本語教育研修会や、JFBP日本語講座講師勉強会などの場でも、情報の共有を図っています。

 これから、多くの方々に新しい教科書を手にとっていただき、その実践について話し合いながら、日本語教育にとっての相互理解・課題遂行能力とは何かを考えることができれば、とても嬉しいです。(三森)

JFBPがカバーする国に赴いての活動

 専門家はカバーする国の地域内・地域間のネットワークづくりや日本語教育支援を行うため、主に派遣専門家が不在の国に赴いてセミナーで講演したり、スピーチコンテストの審査に協力したり、日本語能力試験について説明会を開いたりする活動を行っています。特に、CEFR、JF日本語教育スタンダードを取り入れた教育へ移行しつつある現段階は、各国の浸透状況に合わせながら、これらに関連した講演、ワークショップを積極的に実施しています。

 教師に対するこれらの研修会のほか、例えばごく限られた先生によって日本語教育が維持されている機関の多いクロアチアへの訪問時には、複数の機関からの学習者が参加する2時間程度の「日本語合同授業」を首都ザグレブで2010年の秋から実施しています。

 この取り組みは、学習者にいつもとは違った教師による日本語の授業にふれてもらい、合同授業のテーマに関連した自律学習の道筋をつかんでもらうことを目的にしています。過去3回は、「WEBを使った日本語学習」「初級レベルのショートスピーチ」「“聞く”力をつけよう」というテーマで行いましたが、回を追う毎に日本語学習者だけではなく教師の参加も増えて教え方の新たな発見の機会ともなっており、合同授業終了直後に次回テーマの要望が寄せられるまでになりました。

 今後はクロアチア以外のJFBPがカバーする国のなかで、一人の教師の日本語にしかふれられないというような環境にある学習者に対しても、テーマや伝えるべき情報を考えながら、自律学習のヒントをつかんでもらえるような授業を行っていきたいと考えています。(境田)

中東欧日本語教育研修会2012

ワークショップの様子の写真
「中東欧日本語教育研修会2012」
ワークショップの様子

 ここ数年、ブダペストでは毎年2月中旬の土・日、一日半の日程で、主にJFBPがカバーする中東欧各国とハンガリーの日本語の先生方を対象に、「中東欧日本語教育研修会」を開催しています。

 2012年は昨年と同じGoethe Instituteを会場に「課題遂行型授業の授業実践と教授法」というテーマで、JFロンドンの福島上級専門家、JFマドリードの熊野上級専門家を招き、講演・ワークショップを行いました。研修会には、中東欧10ヵ国からの代表とハンガリーからの参加者、招聘講師を合わせて会場の定員いっぱいの60名が参加し、6ヵ国10本の参加者代表による実践発表も行われました。

 この研修会は、現在の日本語教育の動向を知り、新しい教材を使った教授法について理解を深めること、地域内・地域間のネットワークを構築することを大きな目的にしていますが、講義・ワークショップや各国の実践発表から参加教師が自国での日本語教育の進み具合を客観的に見つめることのできる機会ともなっており、研修会後、各国で開催するCEFR、JF日本語教育スタンダードに関連したセミナー等での参加者のモチベーション向上にもつながっています。

 今年はハンガリー国外から招待参加の先生のほかにも一般参加として7名の先生方が来てくださいましたが、中東欧地域の日本語教師にとって重要性を高めつつあるこの研修会をさらに有意義なものとして継続開催していけるよう、主催者として地域の状況、世界の日本語教育の動向を注視しつつ計画を練っていきたいと思います。(境田)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Budapest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブダペスト日本文化センターはハンガリーおよび中東欧13ヵ国を活動範囲とする広域事務所として位置付けられており、日本語上級専門家と日本語専門家の2名が派遣されている。
業務内容は一般を対象とした日本語講座の運営のほか、ハンガリー国内外での勉強会・研修会などの企画・実施、日本語教育機関・教師への助言・支援、日本語教育関係者のネットワーキング、スピーチコンテスト等日本語関連行事への協力、日本語教育関連情報の収集と提供、機関訪問など。 このほか日本-ハンガリー協力フォーラム事業が進行中の現在は、同事業制作によるCEFR準拠教材『できる』の制作および普及も業務の大きな柱となっている。
所在地 1062 Budapest, Aradi u. 8-10. Hungary
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2000年

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