世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)「つなぐ」、そしてやりとりの活発化をめざすセンターとして 

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
林敏夫・大室文

国際交流基金ブダペスト日本文化センター(以下、JFBP)では、中東欧13か国(ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、チェコ、セルビア、スロバキア、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、マケドニア、コソボ)の日本語教育の支援をしつつ、ハンガリー国内の日本語教育支援やJFBPにおける日本語講座の実施を行なっています。ここでは、中東欧全域を担当する林と、ハンガリー国内を担当する大室がそれぞれの仕事をご紹介します。

2015年の機関調査結果を受けて

国名 ポーランド ルーマニア ブルガリア ハンガリー チェコ セルビア スロバキア スロべニア クロアチア ボスニア・
ヘルツェゴビナ
モンテネグロ マケドニア コソボ 中東欧
13か国
2012年 3985 1905 1570 1554 825 292 252 208 125 0 0 0 0 10716
2015年 4416 2052 1245 1992 1175 533 275 275 175 88 0 23 0 12249

2017年3月に公開された「2015年度海外日本語教育機関調査」の結果報告書によれば、管轄の中東欧13か国のうち、2012年から2015年にかけて日本語学習者数が減少したのは、ブルガリアの325人減のみでした。また、数は少ないのですが、今回の調査では新たにボスニア・ヘルツェゴビナとマケドニアで日本語教育を実施する機関が確認できました。モンテネグロとコソボについては、機関は確認できなかったのですが、前任の村上吉文専門家がコソボを訪問した際に、それまでオンラインコースで学んでいた学習者70名ほどが日本語学習方法のセミナーに参加しました。その後も「 コソボで日本語」というfacebookのグループ活動が続けられており、現在では147人の参加者がいます。このような自律的な学習者に対する支援も広域支援の重要な仕事になってきています。

中東欧日本語教育プラットフォーム

JFBPはこれまで中東欧日本語教育研修会、日本語上級専門家によるアドバイザー活動等、様々な広域対象事業を実施してきました。その成果を共有し、連携を強化し、共同事業の創出を目指すという目的で、2015年度より「 中東欧日本語教育プラットフォーム」の作成が始められ、2017年度より本格的な稼動段階に入りました。日本語教師、日本語教育機関関係者のみが会員登録できますが、会員でなくても公開設定されたコンテンツは閲覧することができます。

中東欧日本語教育プラットフォームの画像

「データベース」のページでは、会員の業績等の情報を公開することができます。「ビデオ」のページでは、日本語教育に関するビデオ(セミナー、研究発表、日本語教材教師・教育機関の紹介、日本語学習者ヘのインタビュー等)を閲覧することができ、「情報共有掲示板」のページでは、日本語教育に関する資料(シンポジウムの情報、教材等)を共有できます。これらのページでは、会員登録したユーザーは著作権を侵害しない限りにおいて、自由にビデオや資料をアップロードできます。その他に「日本語教育Q&A」、「リンク集」、「日本語教育関連イベント・カレンダー」、「FOLLOW US ON FACEBOOK」などのページがあります。特に、オンライン研修を中心としたビデオは2017年5月現在ですでに73本に達しており、今後も配信を続けます。

高等教育における「質」の高さ

中東欧の場合、ブルガリア以外の国の教育機関における日本語学習者数は、高等教育機関が圧倒的に多いという特徴があります。最近こそ、アニメ・マンガやJ-POPを通じて日本に興味を持ったという層も増えていますが、伝統的に文献学に基づいた日本の文化や歴史の研究が主流であったこの地域では、日本に対する学生たちの異常なほどの「熱愛」が感じられます。そして、外国語については日本語の人気が大変に高く、中には日本語学科が哲学・文学部全体の中で二番目の人気を誇る大学もあります。そのため、日本語学科への入学は難関となっており、そこには大変優秀な学生が集まってくるのです。

一般的には、学部3年、修士課程2年という教育制度の中で、大学2年次になると様々なテーマについて発表したり、それに基づいてディスカッションが行なわれたりという活動もあります。驚くべきことは、学生が日本に関する多様な関心を持っており、それを論理的に組み立てて発表し、アカデミックなやりとりができるという点です。こうした質の高い陶冶を受けた知日家が確実に育っているという点に、私たちはもっと目を向けるべきではないでしょうか。(林)

『できる』の実践を発信

ハンガリーの日本語学習者のための教科書『できる』が出版され、6年が経ちました。2017年4月からは公教育用教科書として国の教材リストへ登録もされており、国内での認知も確かなものとなっています。これまで、JFBPでは『できる』を使用した講座を運営するほか、 反転動画やQuizletなどの副教材を作成し『できる』使用環境の充実を図ってきました。現在はこれまで積み重ねてきた取り組みを発信することに、より力を入れています。今年2月の中東欧日本語教育研修会では、大室が『できる』を使用するクラスでのポートフォリオ実践について発表しました。発表後に生まれたやりとりは示唆に富むものばかりであり、講座でも来期はさらによい実践を目指したいと思っています。また、「『できる』で教える日本語教師」というfacebookグループ(非公開)を作成し、日々の授業のアイディアを共有することも試みています。発信することで、やりとりが生まれ、互いの実践に反映される――この循環を生み出せるよう、これからも発信を続けたいです。

ポップカルチャーイベントで日本語体験!

「せっしゃ、タマーシュと申す者でござる。」

昨年の秋と今年の春、ハンガリー国内最大のポップカルチャーイベント「MONDO CON」に参加し、ステージでの日本語紹介とブース出展を行ないました。「アニメ・マンガの日本語」サイトを利用したミニレッスンでは、みなさんキャラクターになりきって日本語を楽しんでくれました。中には、日本人と日本語を話してみたい!と直接声をかけてくれる方も。専門家として接する機会が多いのは教育機関で日本語を学んでいる人々です。しかし、イベントを通じて日本語教育機関のない地方からの参加者や独学で学ぶ人たちの声も聞くことができました。

ポップカルチャーイベントでの日本語体験の写真

国際交流基金では「みなと」や「Memory Hint」など様々なリソースが開発されていますが、このようにハンガリーで日本語学習に関心を持っている人とリソースをつなぐことも大切な仕事だと感じています。(大室)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Budapest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブダペスト日本文化センターはハンガリーを含む中東欧計13か国を活動範囲とする広域事務所として位置付けられている。主としてハンガリーを除く中東欧12か国の日本語普及およびアドバイザー業務を担当する日本語上級専門家と、ハンガリー国内支援およびセンターの日本語講座運営を担当する日本語専門家の計2名が派遣されている。
業務内容は、研修会等の企画および実施、日本語講座運営、スピーチコンテスト等日本語関連行事への協力、日本語教育関連情報の収集と提供、日本語教育機関・教師への助言や支援、機関訪問等がある。JF日本語教育スタンダードの普及の他、ハンガリーではCEFR準拠教材『できる』の普及にも力を入れている。
所在地 1062 Budapest, Aradi u. 8-10. Hungary
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
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