世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)人が集い、育つセンター

国際交流基金ブダペスト日本文化センター
林敏夫・大室文

国際交流基金ブダペスト日本文化センター(以下、JFBP)では、JFBP所在国のハンガリーの他、中東欧12か国(ポーランド、ルーマニア、ブルガリア、チェコ、セルビア、スロバキア、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、モンテネグロ、マケドニア、コソボ)の日本語教育の支援をしつつ、JFBPにおける日本語講座の実施を行なっています。ここでは、中東欧全域を担当する林と、ハンガリー国内を担当する大室がそれぞれの仕事をご紹介します。

日本語教育の多様な環境

中東欧の教育機関は、9月始まりで、5月末から試験期間に入ります。また、12月から2月上旬もクリスマスや試験期間が入るため、出張のスケジュールを組むためには、この時期をはずした実質的には6か月ほどのあいだに各国を回る必要があります。2017年~18年は、9月にブルガリア、11月にセルビア、スロベニア、スロバキア、12月にマケドニア、3月にポーランド、4月にチェコ、5月にクロアチアに出張し、各国の日本語教育機関を視察し、関係者と意見交換を行なってきました。国によっては、シンポジウムや研修会に出席、また、時として同時に開催される弁論大会の審査を担当したりしました。

中東欧のどの国でも、特に大学における日本語専攻の人気は高く、優秀な学生が集まってくる点は共通しています。また、民間の語学学校に通う学習者も非常に熱心に勉強しており、日本関連の様々なイベントにも積極的に参加しています。一方で、中東欧地域では最大の学習者数を誇るポーランド、対人口比で学習者のもっとも多いハンガリー、中等教育機関の学習者が多いブルガリアとルーマニア、というように国による違いも見られます。興味深いのは、チェコでは狂言や落語といったお笑い文化が受け入れられていて、それが弁論大会の内容にも色濃く反映されていたり、マケドニアではマケドニア語の俳句が盛んで、そこから日本文化や日本語学習に興味を持つ人が多かったり、旧ユーゴスラビア時代から日本研究の中心であったセルビアのベオグラード大学が、国を超えて日本語教師を輩出したり、スロベニアのリュブリャナ大学が近隣国にも多大な影響を有する拠点大学として独自の視点からユニークな日本研究・日本語教育を目指していたり、というように、それぞれの国が特徴を持った日本語教育を展開しているということです。こうした各国の特徴を、今後も大いに活かしながらそれぞれの地域から日本語教育の振興を図っていってもらいたいものだと考えています。

中東欧日本語教育研修会2018

中東欧の多様な環境のもとで日本語教育に携わる教師が年に一度集う機会が、中東欧日本語教育研修会です。2018年2月10日~11日にブダペストで実施された研修会には、JFBPが支援を行なっている上記の13か国のうち、日本語教育の実施が確認されていないコソボを除く12か国に加え、アゼルバイジャン、イタリア、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、ドイツ、日本、米国から、主催者も含めて計20か国、53名の参加者が一堂に会しました。ラトビア、ロシアからも1名ずつ参加の申し込みがあったのですが、業務の都合で参加できなくなったのは残念でした。

2018年の全体のテーマは「ことばの教育における文化の問題を考える」で、米国から内容言語統合型学習(CLIL)の専門家として著名な佐藤慎司先生(プリンストン大学日本語プログラムディレクター)を招聘したほか、参加者の発表やグループ・ディスカッションを通じて、参加者同士で日本語教育における文化の問題を中心に検討しました。

この研修会では、2017年より3つの項目に重点的に取り組んでいます。第一は、「公式サイト」の作成(中東欧日本語教育研修会2018の公式サイト)です。これにより必要な情報が即時に共有できるようになりました。2018年版はスマートフォンにも対応しており、研修会当日のハンドアウトもすべてペーパーレスで行なうことができました。第二は、「メーリングリストによるコミュニティ作り」です。研修を一回きりのもので終わらせるのではなく、1か月前から自己紹介や動画作成など行ない、お互いを知り合う機会としました。第三は、「グループ・ディスカッション」の充実です。テーマについてじっくり話し合ったり、参加者がトピックを出す「EdCamp」形式のディスカッションも実施しました。こうしたつながりを通して、仲間意識や問題意識、そして日頃の悩みも共有していただけたのではないかと思います。(林)

パソコンとスマートフォンで表示される「中東欧日本語教育研修会2018」の公式サイトの写真
スマートフォンにも対応している「中東欧日本語教育研修会2018」の公式サイト

参加者と共に育てるコミュニティ

みなさんはお住まいの地域でどんなコミュニティに参加していますか?「もっとよくしたい」と思うコミュニティはありますか?

JFBPでは2か月に一度(2017年6月までは毎月)日本語交流会「しゃべりゅんく」を開催しています。「しゃべりゅんく」はテーマについて日本語で自由におしゃべりをする会ですが、参加者の安定的な確保が課題でした。そんな中、毎回参加してくれる学習者の方からの提案で、昨年の秋からは会のはじめにゲームを取り入れることにしました。毎回、2人のメンバーが中心となってアイディアを出し、当日の説明まで行なってくれています。ゲームのおかげで会に活気が生まれ、この1年は参加者数も安定し、顔馴染みの方も増えました。

「しゃべりゅんく」をもっと盛り上げたい、と参加者が率先して行動してくれること、なによりそのようにコミュニティが成長していく過程に関われたことに喜びを感じています。「しゃべりゅんく」の様子はJFBP日本語講座facebookページにも掲載していますので、ぜひご覧ください。

ゲームを取り入れた日本語交流会の写真
ゲームを取り入れた日本語交流会「しゃべりゅんく」

「日本語教育について語ろう!」

昨年からはハンガリー国内の教師のネットワーク形成にも力を入れ、3か月に一度「日本語教育について語ろう!」という参加者主体の情報・意見交換会を開催しています。これまでに扱ったテーマは「学習スタイル」、「私の文字・語い教育実践」などです。他者とのやりとりを通じて各自が実践をふりかえり、明日からの授業のエネルギーを得られる、そんな会になるよう心がけています。この会がきっかけで教師間の交流がスタートし、ある日本人教師が高校の日本語授業にゲスト参加した、といううれしい報告も聞きました。

新たな出会いの「場」やつながる「きっかけ」を作り出すことを通して、これからもハンガリーの日本語教育に貢献していきたいです。(大室)

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Budapest
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブダペスト日本文化センターはハンガリーを含む中東欧計13か国を活動範囲とする広域事務所として位置付けられている。主としてハンガリーを除く中東欧12か国の日本語普及およびアドバイザー業務を担当する日本語上級専門家と、ハンガリー国内支援およびセンターの日本語講座運営を担当する日本語専門家の計2名が派遣されている。
業務内容は、研修会等の企画および実施、日本語講座運営、スピーチコンテスト等日本語関連行事への協力、日本語教育関連情報の収集と提供、日本語教育機関・教師への助言や支援、機関訪問等がある。JF日本語教育スタンダードの普及の他、ハンガリーではCEFR準拠教材『できる』の普及にも力を入れている。
所在地 1062 Budapest, Aradi u. 8‐10. Hungary
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2000年
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