世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) カザフスタン日本センター誕生

カザフスタン日本人材開発センター
国際交流基金派遣日本語教育専門家 杉浦千里

日本語のある風景

カザフスタン日本センターの入り口の写真
カザフスタン日本センターの入り口

 先日、カザフ民族大学日本語専攻科を訪れました。担当教師と共に教室に入っていくと、さっと一斉に学生が立ち上がり、あいさつしてくれました。こちらが面食らうほどの礼儀正しさから授業はスタートしました。2年生のクラスでは宿題になっていた「理想の結婚相手」がテーマ。「私はやさしい人がいいです、いい仕事がある人、頭がいい人、お金がある人!」「私はおもしろい人、いいです」「先生は?」。習った言葉を精一杯並べて会話が弾みます。4年生のクラスでは教育実習が行われていました。同級生を初級の学生に見立てて授業が進みます。できる限り日本語でがんばろうとする教師役の学生。そんな難しいこと、本当の学習者だったらわからないよと思いながらも、日本語を教えること・学ぶことを心底楽しんでいる様子に、こちらの見方もついつい甘くなります。卒業を間近に控えた5年生のクラスはもう少し深刻で、卒業後の就職の難しさを嘆く声があがります。「日本語を5年間も勉強したのですから、必ず日本語を使う仕事をしなければなりません。けれども、日本の会社は、私たちはいりません。英語ができなければいけません。」聞いているこちらの眉間にも皺が寄ります。ため息も出ます。それでも日本語は楽しい、もっともっと勉強したいと目を輝かせる学生さんたち。さて、彼らのために私がここでできることは?という宿題をもらって家路につきました。

カザフスタンの日本語教育

 旧ソ連崩壊後、1991年に独立宣言を行ったカザフスタン共和国では、その翌年にカザフ民族大学に日本語専攻科が設置され、以後、日本語教育が盛んに行われるようになりました。現在では8か所の高等教育機関で日本語教育が行われていて、2002年の基金の調査(「ロシア・NIS諸国日本語事情」)では900名程度の学習者を数えます。昨年からはアルマティ(旧首都、97年に首都はアスタナに移転)で日本語能力試験も実施されるようになり、200名近くが受験しました。

 日本語専攻の卒業生を出しているのは前述の民族大学だけで、そのうちの数名が若き日本語教師として各機関で活躍しています。国際交流基金やNIS諸国派遣日本語教育専門家のプログラムで派遣されている日本人教師もいますし、現地の大学と直接契約して、またはボランティアで教えている日本人教師もいます。しかし、教師不足は当分続きそうですし、日本から遠く、経済関係もそう期待できない当地で日本語を使用する機会を確保するのも難しいことです。

 各種寄贈プログラムで教材や教育機器が揃いつつありますが、次にはコンピュータを導入し、学内で日本のインターネットに接続できる設備を整えることが急務です。日本の情報や書籍がほとんど手に入らないこういう地域だからこそ、インターネットが必須なのですが、機材購入、設置、接続代金を大学側が負担できないため、なかなか整備が進みません。

カザフスタン日本人材開発センター

 こうした状況の中、カザフスタン日本人材開発センターが開所されることになりました。私が今回派遣されたこのセンターは、JICA事業の一つで、「相手国における市場経済化支援の拠点として機能すると同時に、日本の顔の見える協力を実現すること」を目指しています。すでに、ベトナム(ハノイ、ホーチミンの2か所)、ウズベキスタン、モンゴル、ラオスで同センターが活動を開始しており、カザフスタン日本センターは6番目に開かれる日本センターとなります。

 当センターは(1)市場経済化移行を支援するビジネスコースの実施(2)日本語コース実施(3)カザフスタン・日本両国の友好親善促進を三本柱としていて、(2)の日本語コースの担当として国際交流基金が専門家を派遣しています。今年秋の開所に向けて内装工事、機材設置・整備が進められています。

 日本語コースに寄せられる期待は非常に高く、開所前の今も、いつから日本語を学べるのか、日本の映画が見られるのかといった問い合わせを数多く受けます。

 9月から、当センターでは、次のような日本語関連事業を予定しています。  一般成人を対象とした初級・中級・上級クラス、急務とされている日露通訳を養成するクラス、現地日本語教師のためのクラス。開所式に合わせて日本文学についての講演や邦楽演奏の会、日本映画上映会なども企画しています。

 また、9月の本コース開講前に2つのミニパイロットクラス(1週間程度)の開講も検討しています。1つは7月の一般成人を対象とした日本語・日本文化体験クラス。ここでは日本語を学んだり、日本食体験等を通じて、日本について広く知ってもらうことを目的とします。もう一つは現地の日本語教師を対象として、日本語・日本語教育に関したクラスを8月に開講する予定です。

 開所を前に夢は広がりますが、これを実際にどこまで実現できるか、そして、たくさんの日本語を勉強してくれる人たちの期待にどこまで応えられるのか。今年は夏休み返上で宿題の答えを探すことになりそうです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
カザフスタンは1991年の独立後、ほぼ10年の間に高等教育機関において日本語教育が広まった。しかし、大学生以外の社会人、年少者が日本語を学ぶ機会がほとんどないため、日本人材開発センターでは、一般向けの日本語講座を運営し、広く学習の機会を提供することが目的の一つとなっている。また、日本語教育の歴史が新しいこの国では現地の日本語教師も20歳代の若い教師がほとんどであり、これら現地教師に対する支援事業もセンターの重要な事業となる。開所は2002年秋の予定。
ロ.派遣先機関名称 カザフスタン日本人材開発センター
Kazakhstan-Japan Center for Human Development
ハ.所在地 55, Jandsov str. Almaty, Republic of Kazakhstan Kazakhstan Erconomic University
電話    7-3272-210611
ファックス 7-3272-280301
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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