世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 任期3年間での大学をめぐる変化

アル・ファラビ名称カザフ民族大学
大庭佐知子

東洋学部入口の写真
東洋学部入口

 カザフスタン共和国最大の都市アルマティにある、ここカザフ民族大学に赴任して、早3年になろうとしている。この3年の間に町には新しい店やレストランが増え、通りには外国車が目立つようになった。そして民族大学でも、赴任1年目には卒業生が5名であったところ、今年は27名もの卒業生を送り出そうとしている。

 日本への直行便がないカザフスタン。アルマティでさえ、町で日本人の姿を見かけることは少なく、学生たちが日本語を使うのは教室の中に限られる。日本語学習のモチベーションを失わせないことが、一つの大きな課題だ。教師11名中、日本人教師は3名。文法、漢字、聴解は現地教師が担当し、日本人教師は週に1~2コマ、生の日本を伝えながら、日本語を使う力の育成を目指して授業を行っている。

 そしてまた、できるだけ日本人と接触する機会を作ろうと努めている。在アルマティ日本人の方々を大学に招いて、日本語科祭や日本文化紹介、カザフスタン紹介ビデオの上映会などを行っている。教師以外の日本語を生で聞き、また話す時、学生たちの目が輝きだす。また日本人も、「カザフスタンにいながら、カザフの若者と話す機会がないので、楽しい」と言う方が少なくなく、定期的に交流する機会を作ることができればよかったと、任期を終えるにあたり、それが心残りだ。

LL教室で勉強中の日本語科3年生の写真
LL教室で勉強中の日本語科3年生

 学生たちの最大の目標は、日本の国費留学試験に合格して日本へ行くこと。大学に交換留学制度がなく、経済的に私費留学は望めない彼らにとって、国費留学は唯一の留学手段に近い。補講を行って試験準備をするが、合格できるのは年間1~2名。狭き門だ。それでも、ある私立大学の奨学金制度が受けられるようになったこともあり、1年目には1名だった留学生が今は5名になり、現在、日本各地の大学で留学生活を送っている。

 カザフスタンには日本企業の数が多くなく、逆に撤退傾向が見られるため、企業等に就職するのは難しいのだが、優秀な通訳・翻訳者のニーズは高い。難しい留学試験を突破して日本留学を経験し、帰国する学生たちに期待がかけられている。

 カザフスタン指折りの名門、民族大学に日本語科が誕生して11年。生え抜きの教師たちも成長し、2名の教師が日本の大学院で日本語教育、日本文学の研究に励んでいる。現在、博士候補以上の学位取得者がいないため、日本語科は極東学科の一部になっているが、「日本語学科」として独立できる日もそう遠くないかもしれない。

 しかし一方、大学を取り巻く経済状況が変化し、暗い影を落としている。国の経営から独立採算制に移ったため、私費学生の割合が急増し、優秀な奨学金生の数が少なくなっているのだ。授業にも出席しない、レベルの低い学生でも落第させることが困難になってきた。そんな中で日本語科のレベルをどう向上させていくか、大学経営とも関わる問題だけあって無力さを感じることもあるが、これから赴任する派遣専門家にも、現地教師をサポートしながら、頑張ってもらいたいと思う。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
民族大極東学科日本語科はカザフスタン初の日本語専門課程である。98年度から他大学においても日本語専門課程が設置され始めたが、まだ卒業生を輩出しておらず、現在民族大卒業生が中心に、日本・日本語専門家として各分野で活躍している。
日本語科の設置目的は、日本語・日本学研究者及び教師、企業において日本語で業務が行える人材、日本語通訳・翻訳者の育成である。従って、言語のみならず、歴史、文化などの専門科目にも重点を置いた教育を行っている。 専門家は日本語科での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。
ロ.派遣先機関名称 アル・ファラビ名称カザフ民族大学
Al-Farabi Kazakh National University
ハ.所在地 Amangeldy St. 61a, Almaty 480121 Republic of Kazakhstan
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
東洋学部極東学科 国際関係学部 
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1992年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1995年
(ロ)コース種別
「専攻」(東洋学部極東学科日本語科) 「選択必修」(その他)
(ハ)現地教授スタッフ
東洋学部 常勤11名(うち邦人3名)
国際関係学部 常勤6名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   「専攻」96 「選択必修」196
(2) 学習の主な動機 「留学」「通訳志望」「就職のため」「日本文化への興味」
(3) 卒業後の主な進路 日本語教師、日系企業・団体に就職、地元企業・機関に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定2級合格程度(専攻)
(5) 日本への留学人数 毎年2名程度

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