世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) カザフ民族大学での活動

アル・ファラビ名称カザフ民族大学
板橋 貴子

コクトベの丘から見たアルマティ市内の写真
コクトベの丘から見たアルマティ市内

 カザフスタン国内最大の都市アルマティは排気ガスこそ多いものの緑が多く美しい町だ。この町に来て、その緑の美しさに気持ちが弾み、並木道の紅葉に心を打たれ、雪景色に心を洗われた。そんな美しい町で日本語を学ぶカザフ民族大学の学生は主専攻で97名、選択で148名にも及ぶ。国内の公的機関としては最も古い歴史をもつ民族大学は2003年9月に極東学科からの独立を果たした。学科長はじめ現地人教師が若年層であるものの、皆カザフ民族大学の卒業生であり、生え抜きの教師陣なので、教育にかける情熱も熱く、自らの日本語能力や教授法の向上に努めている。

 現在教員11名中3名が日本人教師であり、文法、聴解、翻訳、理論は主に現地教師が担当し、会話や文学を日本人教師が担当している。派遣専門家の学内での業務は、週1~2コマの会話授業、4年生への教授法授業を担当することだけではなく、現地教師への教授アドバイスや授業の年間計画づくり、また、弁論大会指導など多岐にわたるが、これまで派遣専門家が抱えてきた多くの業務が現地教師に移行してきており、現地教師の活躍が目覚しいのは喜ぶべき点である。

 赴任した当時、学生の日本語能力について特に感じたことは、多くの語彙が頭にインプットされているものの、発話時に母語から日本語へ置き換えているため、発話に時間がかかる学習者が多いことであった。そこで、中核となる3、4年生を対象に授業にディベートを取り入れ、クラス対抗学内ディベート大会を開催した。学生はディベートへの興味も高く、積極的に参加していた。ディベートでは頭の中で母語に置き換えている暇などないので、ディベートの表現を繰り返し使ううちに自然と自分の意見や他の意見への反論が出てくるようになった。学生にとっても言いたいことがすぐに口をついて出てくるようになった喜びが大きかったようで、日本語学習への意識がさらに高まり、発話能力も向上している。日々の授業の中で、このように学生の成長が感じられることが何よりも嬉しい。

第6回カザフスタン国内弁論大会の写真
第6回カザフスタン国内弁論大会

 日本語学習における学生の在学中の目標は、日本語能力検定試験2級合格、日本語弁論大会への出場、そして最大の目標は文部科学省の国費留学試験や国際交流基金の成績優秀者研修プログラムに合格して日本へ行くことである。経済的に私費留学が望めないため、入学当初から国費留学試験の合格を狙っている学生も少なくない。しかし、この試験は狭き門で、合格できるのは毎年2名程度だ。狭き門という点では、卒業後の就職についても同様である。4年生の後期にはビジネス日本語を教授し、5年の前期には毎年、カザフスタン日本人材開発センターや日本企業の協力を得て、2週間の企業実習を行っているが、日本語を生かせる就職先の数は頭打ち状態であり、新卒ともなると厳しいのが現状である。今後は教師側にも言語教育だけではなく、日本語ビジネス文書の作成やパソコン操作の授業を更に充実させていくことが求められている。

 カザフスタンでは毎年、国内弁論大会が行われている。この大会で入賞することは日本語学習者にとって、学習の成果を発揮する大きなチャンスでもあり、各方面へのアピールにもなるので、大きな意味をもつ。2004年3月に行われた大会では、民族大学の学生が優勝を果たし、更に3、4、5位を占めた。この大会では、出場しない学生が数多く応援に駆けつけ、熱い声援を送り、大会準備や後片付けを積極的に手伝ってくれた。その姿を見るにつけ、今回の大勝利は、民族大学の学生と教員みんなのチームワークで勝ち取ったものだと大変嬉しく、誇らしく感じた。

 ただ、これまで国内屈指の名門と見られてきたカザフ民族大学がこれまでどおりのレベルを保てるかというと難しい側面もある。大学が国の経営から独立採算制に移行したため、私費学生の割合が急増し、優秀な奨学生が減少してきている。私費学生は大学の財源を担う存在なので、授業に出席せず、学力の低い学生でも落第させることができないのが現状である。来年度からカザフスタン国内の教育制度が変わり、大学においては、新入生の学年から単位取得制度が導入されるので、この問題が多少は改善されることを期待している。

 新制度のもと、如何にコースのレベル維持、向上に努めるかが課題とされる。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
及び業務内容
民族大学東洋学部日本語学科はカザフスタン国内で最も歴史ある日本語専門課程である。2003年9月より極東学科から日本語学科として独立を果たした。設置目的は、日本語・日本学研究者及び教師、企業において日本語で業務が行える人材、日本語通訳・翻訳者の育成であり、言語のみならず、歴史、文化などの専門科目にも重点を置いた教育が行われている。現在では当大学の卒業生が中心となって日本語教育者、または日本企業の現地スタッフ等国内の幅広い分野で活躍している。専門家は日本語科での日本語教授、カリキュラム・教材作成に対する助言、現地教師の育成を行う。
ロ.派遣先機関名称 アル・ファラビ名称カザフ民族大学
Al-Farabi Kazakh National University
ハ.所在地 Amangeldy St. 61a, Almaty 480121 Republic of Kazakhstan
ニ.国際交流基金派遣者数 NIS専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋学部日本語学科、 国際関係学部
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1992年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1995年
(ロ)コース種別
「専攻」(東洋学部日本語学科) 「選択必修」(その他)
(ハ)現地教授スタッフ
東洋学部 常勤11名(うち邦人3名)  国際関係学部 常勤5名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   「専攻」97 「選択必修」148
(2) 学習の主な動機 「留学」「通訳志望」「日本企業への就職希望」「日本文化への興味」
(3) 卒業後の主な進路 日本語教師、日系企業・団体に就職、地元企業・機関に就職
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力検定2級合格程度(専攻)
(5) 日本への留学人数 毎年2名程度

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